第59話 魔法ブーム
「バンボンボーボーチョーガード。耐火」
やってやった。
午前中の2時間カラオケで遂に火魔法の中級までを詠唱短縮コンプリート。もっと時間がかかるかと思ったが耐火も2日で詠唱短縮を獲得してしまった。
こういう1人作業は向いてるかも知れない。いや、知っていた。
達成感を噛締めつつ、向かった札幌イーストの間引きだが、雰囲気が若干おかしかった。
何故か皆、イヤホンマイク装備だ。
「さいとーさん。詠唱短縮の話ってほんと?」
マスクにイヤホンマイクの不審者度をアップさせたルイさんがにじり寄ってきた。みんなの視線もやや湿度が高い気がする。
「はい。でもマスクとマイクが擦れるだけで詠唱失敗しますよ」
「どうしよ。みんな消火できた方がいいよね?」
「それは理想的ではありますが⋯⋯MP少ないと詠唱回数こなすの大変ですよ」
「300回か⋯⋯」
腕を組んで思案に入ってしまうルイさんだが、寄せて上げてしまっているので気を付けた方がいいと思います。
「こちらは何とか耐火の短縮も間に合いました」
「えっ。火の中級全部?」
「はい。火の中級までは何とか。一人カラオケで詠唱回数をこなしました」
「なるほど。ホクダイかドーリの一人カラオケなら成功率を稼ぎやすいか」
マスターもさり気なくイヤホンマイク装備だ。魔法使いブームがやってきているらしい。
「あの漢字とか英語ってどうやって勉強するの? 普通じゃないよね?」
プログラミング的な英語は用語一覧を作ってみてもいいかも知れない。だが、厨二漢字は体感的に幅が広すぎてカバーしきれない。
普段からの絶え間ない努力が必要なのだ。しかし、ルイさんの「普通じゃない」は心に刺さる。
「英語はプログラミング用語が分かれば、後はローマ字読みだったりするんですが、漢字はちょっと前のラノベ読むとかですかね⋯⋯」
「ちょっと前って言われてもねぇ⋯⋯」
そう言われてもねぇ⋯⋯。
「皆さん、火魔法持っているんですか?」
「持ってないのガイくらいださー」
魔法使い予備軍は層が厚かった。マスターも詠唱の難易度の高さに諦めたクチか。
「細かい事は打ち上げでお話しますので、とりあえず普段通り間引きしましょうよ。また邪魔が入っても何ですし」
「そだねー」
イーストの様な中級難度の界では、火矢の詠唱短縮による連射速度と詠唱成功率の向上が、如実に成果に表れた。敵が単体なら飛行モンスターだろうが近寄る前に屠れる。
「さいとーさん。す、凄いですっ!」
「出番ない」
⋯⋯調子に乗り過ぎない様に気を付けよう。




