第35話 プレミアムフライデー
待ち合わせていた札幌駅北口歩道に着くと、モモカと何故か性別不明なカオルさんもいた。
「お疲れ様です」
「あ、さいとーさん! お、お疲れ様ですっ!」
「お疲れ様」
ブンブンと手を振るモモカと手をあげるだけのカオルさん。仲良くなったようで何よりだ。
「カオルさんが盾の使い方を教えてくれるそうなんで呼んじゃいましたっ!」
「教える」
何となく口頭じゃなくてチャットか何かでやり取りした方が良さそうな気もする。
「なるほど。では倒すのは少し相手をしてからでいいですか?」
「それでお願い」
「おっお願いします!」
「はい。今日もよろしくお願いします」
俺は昨日の間引きで稼いだEPを800を費やしてMPを110まで増やしていた。
―STATUS―
Name: さいとー
HP: 50 / 50
MP: 110 / 110
LC: 30
EP: 132
効率は2人より若干落ちるだろうが、余裕を持って対応できるのはありがたい。
紙装甲だったモモカが、接敵しないように全方位に気を配って位置取りするのは中々大変だったのだ。
「戦士の咆哮っ!」
モモカが微笑ましい変身ポーズで敵を誘き寄せる。カオルさんの端的なアドバイスによると、盾で受けるだけならスキルは要らないようだ。
釣れたのは、前回と同様の脚がワサワサしている敵が2体。
「1体倒しますか?」
「うん。お願い」
「アロースタンバイ」
複数の敵の出現にキョロキョロと挙動不審になってしまっているモモカのフォローに入る。
「ふぐはッ⋯⋯」
腹の底からギュオギュオと鳴ってはいけない音が鳴り響き、不可視の腕に腑を雑巾の如く絞られたかのような痛みが走る。全身の汗腺が仕事を放棄し、冷や汗を吐き出した。
ブルブルと震える手に握られたスマホには詠唱失敗の表示がブレて見えた。
⋯⋯こ、このタイミングで?
昼の唐辛子によって叛旗を翻した消化器官達。ホメオスタシスに則り、早く劇物を体外に排出するべく蠕動運動を加速度的に加速している。
「さいとー?」
「す⋯⋯すい、ません。アロー、スタンバイ」
手が震えてコマンド入力モードにすらならない。汗が幾筋も頰を伝ってゆく。マズい。
敵が近づく。
脳髄まで響く鼓動が、どちらもピンチな事を告げていた。
「シールドバッシュ」
あっさりと敵を叩き潰すカオルさんに一瞬痛みすら忘れてしまう。
そうだ。盾職だからと言って攻撃力がない訳じゃな⋯⋯ふぐぉッ。
油断した所に押し寄せた第2波。視界にチカチカとしたものが浮かぶ。防壁の陥落はもう目の前まで迫りつつあった。
「すいま、せん。体調が、悪いので」
「早くトイレ行って!」
察してくれたカオルさんに目礼し、踵を返す。⋯⋯1番近いトイレはどこだ?
普段の生活エリアではないので土地勘がない。とりあえず地上へ。
青い顔で信号待ちをし、腰が引けた小走りでコンビニに駆け込み、震える手でベルトを外す。
⋯⋯尊厳は守られた。
何度か諦めそうになったが乗り越えた自分を褒めてあげたい。祝杯をあげろ!
結局、腹の調子はしばらくグズつき、そのまま狩りはお休みした。連日の飲みで疲れた胃腸に無理をさせるのは良くない。刻みピッキーヌはアカン。
置き去りにしてしまった2人には、謝罪メッセージを送ったが無事盾の使い方レクチャーはできたようだ。カオルさんが居てくれて本当に助かった。




