第34話 ソウルフル
翌朝、上司へのススキノの賃貸マンション契約の報告などを綴ったメールの返信で飲みのお誘いがきていた。なるほど今日は金曜日か。
丁重にお断りだ。
担当の彼へは詳細の報告をせねばならない。界の主情報の共有と今後の方針の擦り合わせだ。
あわよくば眼鏡っ子モモカをススキノの界の主候補になどと考えていたので、ちょっと方針を考える必要がある。下手を打つと俺が界の主にされてしまう可能性があるのだ。
⋯⋯と、そのモモカから午後から狩りのお誘いだ。
丁重に受諾した。
昨日の情報をまとめるのには多少時間がかかったが、何とか書き上げ担当の彼に送信する。
相変わらず早い返信には、戦う場所のないススキノの界は低い難易度の界に落ち着けるか、戦う場所がある東のイーストか南の中島公園まで界を広げるのが望ましいとあった。
低い難易度にするには、ひたすら間引くとか、主を取った後に敵に乗っ取られない様に界のエーテルを消費させるとか結構難しそうな事が書いてあった。
界の主が支配地外の界に行くと弱体化すると補足もあったが、モモカにススキノもイーストと統一して界の主をやってもらった方が良いのではないだろうか。
まぁまだ先の話なのでルイさんやマスターと相談しながらやればいいだろう。
界の主ではなくなった途端デスペナとか、死んでも界の主から外れるとか高レベルなプレイヤーほど界の主就任を避けてそうだ。
だから、担当の彼は俺を主候補としてススキノに住まわせたんだろうな⋯⋯。
魔法使いはLCを必要としない。デスペナからの復帰は他の職より圧倒的に楽だ。
ルイさんはすぐ死ぬと言ってはいたが、紙装甲なので死ぬ時は育てていようが死ぬし、MP不足はMP即時回復ポーションでカバーできてしまうのだ。荷物持ちが要るだろうが。
あれ? モモカ次第では、界の主から逃れられなくね?
⋯⋯とりあえず棚上げにしよう。今、答えを出す必要はない。
さて、朝飯はホテルの朝カレーだったが昼飯はどうしようか。
⋯⋯北に向かうし、散歩がてらスープカレーかな。
札幌といえばラーメンとスープカレーの二大巨頭が有名になり、ソウルフードと呼ばれるようになって久しい。向かうは老舗のフランチャイズ店。最近はやっていないようだが朝カレーをやったりと意欲的な店だ。
札幌駅前店と銘打っている割にイーストに近い。時計台に向かえばいいのだ。ランドマークとしては機能していないのだが⋯⋯。
しかし、この辺りも様変わりしてきた。高層の商業施設が一つできるだけでも雰囲気が変わるのかも知れない。記憶の中の空の形を思い出しながら歩いた。
やっているか不安に思いながらも店にたどり着くと無事オープンしていた。昼前なので空いている。ラッキーだ。
「濃厚、牛スジ、3番。ご飯普通でピッキーヌは刻んでもらえますか?」
カウンターのお姉さんにオーダーし、お金を支払う。
辛さ3番から追加料金になるのだが、この辛さからプリッキーヌが投入される。3番だと5本だ。5万~10万スコヴィルと辛い唐辛子だが、入っている方が美味い。
スープカレーは辛めを汗ダクで食べるのが俺の正しい食べ方。
「お待たせしました。濃厚の牛スジ3番です」
湯気をあげるスープカレー。
相変わらず暴力な香りだ。鼻腔を蹂躙してくる。
スプーンを口に運ぶ。
熱い、美味い、辛い。
「⋯⋯magic」
しかし、感動と同時に不安も湧き上がる。
果たして俺の胃腸はこの辛さに耐えられるのだろうか。昔のように若くはないのだ。
そんな背徳的な想いとは裏腹に、後ろ髪まで汗でべっちょりにしながら完食した。




