第108話 第二回威力偵察
「いいですか。今回の目的はあくまで『計測』です。前回より深部へ侵入しますが深追いは厳禁、スマホの熱暴走サインが出たら即座に撤退して下さい」
月曜日の午後二時。大通公園からの日差しを背に、田辺さんが厳しい表情で告げた。
今回の威力偵察メンバーは総勢八名。
関東連合を率いる田辺さんと、その精鋭三名。
京都から出向中の佐藤女史と、彼女の魔法使いチームの三名。
そして、冒険者ギルド代表の俺だ。
ルイさんたちイースト組は、万が一の際の救出部隊として境界線で待機。モモカはギルドの屋根裏でバックアップに専念している。
「斉藤社長。その杖、昨晩もかなり叩いたようですね」
隣に立つ佐藤女史が、俺が持つ+5強化の『獄怨の杖』を覗き込む。
「……まあ、保険ですよ。使う機会がないことを祈ってますが」
「賢明ですわ。では、参りましょうか。地獄の門を開きに」
一歩、ススキノへと足を踏み入れる。
「……っ!?」
瞬間、頭を殴られたような圧迫感に襲われた。前回とは圧が段違いだった。
スマホの画面が激しく明滅し、スピーカーからは『ザザッ……ピー……』という耳障りなノイズが鳴り続ける。
「エーテル圧でモバイルバッテリーの電圧が安定しません!」
関東連合のメンバーが悲鳴に近い声を上げる。
ここではAnotherDimensionというアプリが、現実の物理法則を強引に書き換えている。それが電子機器へダイレクトに負荷となって現れるのだ。
ススキノの街並みは、一見すると普段通りだ。
だが、歩道には等間隔で黒い霧のような「界の歪み」が点在し、そこから醜悪な姿をした影の魔物が這い出していた。
「……迎撃して下さい! ただし一箇所に留まらないこと!」
田辺さんの指示で戦闘が始まる。
エンプレス率いる魔法使い集団が、上級魔法を次々と発動させる。
火柱が上がり、氷の礫がススキノのビル風に舞う。
「火矢!」
俺も詠唱破棄で応戦するが、手応えがおかしい。
普段ならファイナルストライク発動で瞬殺できるはずの雑魚敵が、まるで粘土のように弾力を持ち、俺の一撃を吸い込んでしまう。
「社長、気付いて? 敵の湧き方……」
背後で支援に回っていた佐藤女史が呟く。
言われて、俺は戦況から目を離し、周囲の「界の歪み」を俯瞰した。
「……規則的すぎる」
左に一体倒せば、右の決まった位置から次が湧く。
すべてが、まるでプログラムされたオートメーション工場のように正確だ。
人間の主が適宜モンスターを配置しているなら、もっと「欲」や「癖」が出るはずだ。敵を密集させて全滅を狙うか、あるいは自分の身を守るために引き下げるか。
だが、ここにはそれが無い。
ただ機械的に、侵入者のリソース(MPと体力)を削ることだけを目的に最適化されている。
『WARNING: System Overheat. Force close in 60 seconds.』
俺のスマホの画面に、禍々しい赤い警告が表示された。
最新機種の冷却機能ですら、この空間のエーテル圧には耐えられない。
「田辺さん、限界です! スマホが死にます!」
「……撤退! 全員イースト界へ退避して下さい!」
偵察開始から、わずか十五分。
俺たちは這々の体で、不夜城ススキノから逃げ出した。
境界線を越え、モモカが維持するイーストエリアに戻った瞬間、スマホのノイズが止んだ。
全員がアスファルトにへたり込み、激しく肩で息をする。
「……お疲れ様。生きて帰れただけマシね」
ルイさんが冷たいペットボトルの水を差し出してくれた。
「……ルイさん。あの街、もうコントロール下にないですよ」
水を一口飲み、俺は喉を鳴らした。
「システムそのものが、あるいは『主の権限』を手に入れた何かが、自動で俺たちを排除しようとしている」
脳裏に焼き付いたのは、ススキノの中心部、ニッカの看板が見える交差点の奥。
そこにあるはずのない、巨大なエーテルの渦。
あそこにいる「何か」が、ススキノの管理者権限を奪い取っている。
……交渉の余地などない。
デバッグして、界を再起動させるしかないのだ。
「……とりあえず、今日は解散にしましょう。社長、餃子バーで待ってるわよ」
ルイさんの言葉に、俺達は重い腰を上げた。
新作「支配域の管理論」始めました
あと「札幌クソゲー」もラストまでプロット書いたので頑張って完走したいと思っています。
リアル土地買いたいので評価協力お願いしまーす!




