第103話 決起集会
「では、主催者の主から一言!」
ビールジョッキが行き渡ったところでちょっと疲労困憊している餃子バーのマスターが声を上げる。
「み、みなさん。おっお集まりありがとうございますっ!」
「硬くならなくていいのよぉ」
緊張した面持ちのロリ眼鏡っ子モモカが挨拶を始めたところで、先日ゲイバーを畳んだイケメン無職のガイさんが見ていられなかったのか茶々を入れる。俺はモモカも成長したなと親心で眺めていた。人見知りで引込思案なモモカが人前で挨拶するようになるとは。
「まぁまぁ。もう乾杯しちゃいましょ!ここ、もう暑くて!」
「うん、暑い」
バッチリメイクモードの一応大学生でナイトワークのルイさんが耐え切れなそうにとっとと乾杯を催促した。モモカより年上なのだからもうちょっと見守ってあげて欲しいところだが、たしかに暑い。性別不詳なカオルさんのメイクも汗で危機っている。性別が判別してしまう危機だ。危ない。
「じゃ、じゃあ!乾杯で!」
「「乾杯っ!」」
空気を読んだモモカがウーロン茶のジョッキを掲げると全員唱和でジョッキを掲げた。
すかさず喉に流し込んだサッポロクラシックは、喉にキュッときて胃でギュンギュンした。どうやら自分も気付かずうちに喉が渇いていたらしい。グイグイいける。
「社長。お代わりをお持ちしますか?」
「くっ。まだ大丈夫です」
くはーと息を吐こうとした瞬間に右耳が佐藤女史の囁きでジャックされる。近い。とても近い。ギリギリ触れない右背後にいる。これは動けない。動くと色々と当たってしまう。視線だけで右を眺め見ると佐藤女史のチーム紅龍騎士団の3名がいた。ガタイがよく暑苦しい。なぜか全員魔法使いという似合わない構成だ。
「斉藤さん、相変わらず飲むの早いですね」
左から田辺さんが話しかけてくれた。落ち着く。こちらを向こう。
椅子を廃して立ち飲み状態になっている餃子バーは元々カウンター5席。どうみてもキャパオーバーな人数がすし詰め状態になっていた。
「ついに明日からかー」
誰かの呟きが耳に入る。
そう。明日から運営から賞金が出る討伐イベントが始まる。そして第二回ススキノエリアへの偵察だ。
我らが冒険者ギルド合同会社としてもこの日のために他エリアのプレイヤーへの周知広報など準備をしてきた。
「創成イーストで稼ぎましょぉ!稼ぐわよー」
「「おおー!!」」
そう、賞金稼ぎと化したガイさんの言うように創成イーストではボス討伐をするとすぐに現金化できる。他の界ではイベントが終わってから界の主に振り込まれ、それから主がプレイヤーに分配したりするのだがここ創成イーストでは即金だ。レートも良い。そのための金は借りた。モモカが。足りなくなっても冒険者ギルドでバックアップする。
これには道内外から反響があった。
冒険者ギルドを誘致したいという界の主から、金を稼ぎたいプレイヤーまで様々だ。続々と遠征プレイヤー達も札幌入りしているそうだ。
とりあえずは冒険者ギルドもススキノエリア攻略も、明日から始まるここ創成イーストから始まるのだ。
「社長。お代わりをお持ちしますか?」
「あ、ハイ」
まずはサッポロクラシックをもう一杯飲み干してからだ。
振り返り回です。
コロナ禍が落ち着かず中々続き書けずにすいません。




