第102話 密談
「お久しぶりですわね要塞。おかえりなさい」
「お久しぶりですね女帝。今度は何を企んでいるのです?」
「企むだなんて。嫌ですわ人聞きの悪い」
向かいに座る妙齢の女性が上品な笑みを浮かべる。しかし、中身はそんなお上品な物ではない事は既に知っている。
「私、あの方に惚れましたの」
赤い唇から発せられた思わぬ言葉に息が詰まる。
「……大魔導士ですか」
「ええ、あのお方はその二つ名に相応しいお方……」
「……何をどこまで掴んでいます?」
喉がひりつき、声がかすれる。厄介な相手だ。詠唱破棄の情報が漏れていたらさいとーさんの身が危険だ。
「さて、どうでしょう? 本題は……他国の動向でしょうか?生憎とそちらは卒業しまして」
「外務省が動揺しているようですがあなたの仕業ですか」
「あら、内閣官房と総務省への手土産はお気に召していただけましたかしら」
「今回は味方と考えても?」
「ええ、もちろん。貴方があのお方に敵対しないのであれば……ですが」
赤い唇が嗤う。
女帝とは公私共々因縁があった。ある時はゲームの討伐イベントで敵対し、ある時は公共事業の入札で争った。我々の背後は日の丸だが、彼女の背後にいたのは隣国だ。
相容れない相手、それが田辺と佐藤の間柄だった。
「辞めたとは聞きましたが、そちらのチームは大丈夫なのですか?」
得体の知れない、おそらくは紐付きの連中が紅龍騎士団の中核だったはずだ。彼の国と縁を切ってしまえば弱体化は避けられない。
「ええ。チームマネジメントは得意な方でして。皆さん心機一転頑張ってる所です」
どういう事だ?確かに忠誠心高すぎるおかしな連中が揃っていたはずだが、その忠誠心は祖国に向けたものだったはずだ。
「私も含め全員、魔法使いにコンバートしてますのよ。大魔導士を頂点とした魔法部隊。ふふ、素敵でしょ?」
恍惚とした表情の女帝に背中に冷たい物が走る。あのチームはうちと同じくゴリゴリで耐久力の高いタンク前衛ばかりだったはすだ。それが全員魔法使いにコンバートだと……。
「……よく、コンバート、できましたね……」
「ええ、皆さん私のお願いであれば聞いてくれますから。討伐イベントが楽しみですわね。前衛はお任せしましたよ」
赤い唇が嗤った。
「その前に斉藤社長への個人的なお願いはナシでお願いします。用件がございましたらスケジュールを管理している私を通していただけますか?」
「あ、はい」
前回の詠唱短縮をゴリ押ししたのを根に持たれていた。




