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強い姉、凄い兄、そんな二人に守られる私!


 とりあえず次の休息日からお試しで神殿暮らしを始めることになった。


 急すぎない? いくらなんでも急すぎない?? とは思ったものの、考えてみれば私はこちらの世界に生まれてこの方自宅以外の場所で寝泊まりした経験が極端に少ない。


 友人のように気安く話せるリンゼちゃんに、愛らしく素直で可愛い唯ちゃん。それに加えてお姉様と、毎日ではないけどお兄様とも一緒に暮らせて、更にはお小言が煩いお母様が存在しない環境とかもはや天国と称して良い場所ではないのか。


 そのことに気付いた私は、神妙な顔を作りながら神殿暮らしを了承した。


「分かりました。お母様がそこまで言われるのであれば……」


 ひゃっほう! 大人からの解放! 子供たちの楽園神殿バンザイ!


 えぇ〜何しよっかなぁ。夜更かしも堕落した生活もし放題の環境で何しようかなぁ。やりたい事が多すぎて悩んじゃうなぁ〜!!


 眉間に皺を寄せ、さも「本当は嫌だけど仕方なく従っている」という空気を醸し出してる私に対し、お母様が一言。


「私も時々顔を出します。……その時に、もしも自堕落な生活を送っていると判明した場合……どうなるかは分かりますね?」


 分かりません。分かりたくもないのでこっち見ないで。せめてお姉様と半々で見て。


 ……お兄様たすけて! お母様が不当な理由でイジメてくるのぉ!



◇◇◇◇◇



 お母様たちとの話し合いが終わった頃には当然のように朝食の時間が間近に迫っていた。それはつまり、私の自由時間が削られたことを意味するわけで。


 毎日こなせない日課は果たして日課と呼べるのだろうか。


 一日休んだくらいでどうこうなるってものでもないけど……。

 今日の日課は向こうの世界で溜まったフラストレーションを爆発させるつもりでいたから、こう、身体の内側に、行き場を失ったマグマ溜まりが形成されてるような落ち着かなさがある。


 食堂へ向かう道中。せめてもの慰みにとお母様の不満が出るのも自然な流れだと言えよう。


「――お母様って人をいじめて楽しんでるところがありますよね。人の嫌がることをするのが好きというか。正論で相手を封じ込めるやり方とか、とても嫌らしいと思います」


「ホントよねー。あんなことばっかりしてるからお母様って友達が少ないんじゃないかしら。ねぇ、ロランドもそう思わない?」


「……さあ、どうだろうね」


 私の不満に便乗するお姉様と、回答を避けるお兄様。お兄様の表情には僅かな緊張が浮かんでるようにも見受けられる。


 ……まあ、それも当然か。不貞腐れた姉妹の相手を、それもお母様のお膝元でもある屋敷の中でしているんだから。


 ここで肯定すればお母様の不興を買うし、否定すればお姉様が機嫌を悪くする。沈黙でも然り。


 ならば当たり障りのない受け答えをして、どちらにも角が立たない立ち位置を維持するのがお兄様の処世術ということなのだろう。……そう理解はしていても、僅かな不満を抱かずにはいられないけど。


 まあ他人の悪口なんて普通は聞いていて気持ちの良いものでも無い。


 お兄様の前で醜態を晒していた事実に気付けただけでも、不満を漏らした甲斐はあったと思うしかないかな。


 吐息を深く、長く吐いて、気分をリセット。

 息を吸って整えた頃には、ドロドロとした不満が渦巻いていた頭の中も、ある程度は冷静な思考ができる程度に落ち着いていた。


「とはいえ、神殿で暮らすのは楽しみでもありますね。お父様やお母様、使用人の皆さんがいない環境で暮らすのは経験がないことですし――お姉様?」


 明るい話題にシフトしようと、意図して楽しげな声を出していたのだけれど、ふとお姉様の反応が薄いことに気付いて振り向いた。私のすぐ後ろを歩いていたお姉様は窓の外、正確には庭に出ている人物を見ているようだった。


「ソフィア、ちょっとごめんね」


 ……お姉様が、私以外を優先するだと……。


 我が事ながら、なんでもないような事に不必要なダメージを受けてる気がする。


 やはり元の世界に好きな時に戻れるようになったという事実が私の精神に影響を及ぼしているらしい。情緒が不安定なってる自覚がまあまあある。


 無意識に縋るように見てしまったお兄様が、優しい微笑みを浮かべながら私の手を握ってくれた。その感触、温かさ。


 ああ、やはり私はこの人のことが好きなんだと、心の底から――


「アイラさーーん!! この間の事、ありがとーー! 後でお礼させてくださーい!!」


 ――うるっさ。


 え、なに。お姉様? さっきお母様に釘刺された直後にそんな? 今の確実にお母様にも聞こえてますよ??


 たとえお母様だろうと、お姉様の意思を曲げることはできない。そんなことを強く思った。


「お兄様。お姉様ってアイラさんと仲良いんですか?」


「ん? まあ二人とも家にいる時間が長いからね。どうも気が合ったみたいだよ」


 ほーん。お姉様とアイラさんがねー。


 まあお母様よりかはアイラさんとの方が気が合いそうというのはよく分かる。アイラさんってあのお母様のお姉さんだけあって、包容力とかめちゃくちゃあるし。


「この間の事というのは?」


「嫁ぎ先の家の方で少し問題があったみたいでね。でもアイラさんの協力のお陰で、無事に解決できたんだ」


「そうなんですか。それは良かったですね」


 ……ていうか、お兄様よく知ってるね。お姉様が嫁いだ家の事情とか、私ほとんど何も知らんよ?


 ぼーっとお兄様を見上げていると、お兄様ににっこりと微笑まれたから、私も笑顔を返しておいた。


 ――うん。私が無知でも、私にはお兄様がついてるから何も問題はないね。


 これぞ適材適所! 最強の布陣ってやつだね!!


その論法でいくと、ソフィアの役割は「母に叱られること」でしょうか。

あるいは「母に迷惑をかけること」かもしれませんね。

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