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幸福を補填したいのに


 私にだって言い分はある。お母様の認識が全て正しい訳でもない。それでも。


 …………お母様の言い分に、一定の理があることは否定できない……。


 そもそもお母様がそう認識してるって時点で私が想定してる反論には意味が無い。


 要はお母様に「私にばっかり苦労をかけて」と言われてしまえば、苦労をかけてる私の側からすれば「いつも感謝しています」以外の言葉を言えないということだ。


 ……いや、まあ、その。……ねぇ?


 そう改めて起こった出来事を羅列されちゃうと……私に言えることなんて無くなっちゃうじゃん?


 リンゼちゃんが私のメイドになった経緯だって私の意思ではなく、殆どリンゼちゃんの独断だし。唯ちゃん連れてきたのだって成り行きというか、昨日の時点ではまさか解放出来るなんて思ってもなかったんだもの、仕方ないじゃんという部分はある。


 けど、いずれも私が関与しているそれらの出来事の結果として、お母様が想像を絶するような苦労をしてるだろうことは確かなんだよね……。


 お母様が極一般的な子爵家夫人だったら、多分もっと前に限界が来てた。


 お母様が元公爵家令嬢で、王家との間に独自のパイプがあり、本人にも高い知識と教養があったからこそ対処が出来た。……出来てしまっていた。


 まー…………うん。確かにね。短い期間で見ても色々あったよね。


 次は何が起きるのかって思っちゃうのも当然だよね。うん、わかるわかる〜。


 で、それらの出来事に対処する側のお母様としてみれば、「せめて私の管轄外でしてください」と思っちゃうのは当然の帰結という事だね。


 ……むしろ今まで多少のお小言のみで受け入れて来たお母様ってとんでもなく懐が深いんじゃないかと思えてきた。潜在的にはマゾだったりするのかな。


 考えてみればお母様って、多分私の次に神様と会ってる人間だし。ヨルとも個人的に会ってたみたいな話してたことあるし……あれ、ひょっとして結構前から限界きてたり?


 私には過度に不幸になってる人を見ると幸せになって欲しいと願うエゴがある。


 不幸な人には後に幸福が。ついでに今現在幸福絶頂な人達には、見てる人がクスッと笑いを零しちゃう程度の適度な不幸が振りかかれば良いと思ってる。幸福は平等に与えられて然るべき、みたいな感じかな。


 私のその観点から見ても……お母様は、立派に不幸な人認定を受ける権利があると思います!!


 お母様だって私の寵愛を受けるに値する文句無しの(元)美少女。

 私の愛は、美人さんに平等に分け与えられるべきものなのだ。


 とはいえお母様が幸せになる方法なんてそう簡単には思い浮かばない。


 んーー……私が着せ替え人形になったり、私が素直にお説教を受けたり……とかかな? あれ、私の不幸とお母様の幸福がトレードオフになってる気がするのは気の所為だろうか。いやいやそんなハズはない。もう少しじっくりと考えてみよう。


 お母様をじっと見る。じっくりねっとりと観察する。


 唯ちゃんに神殿とは何かを説明しているお母様は家族としての贔屓目を抜きにしても美人だと思う。それは私が提供させられたリンスやトリートメント、その他美容系のアイテムによる効果だけが原因ではなく、持ち前の造形が整っている上に姿勢も良くて纏う雰囲気からして格好いい。これはもう美人の才能と呼んでもいいものだと思う。


 私は高校生だった頃、幸せとは美人になることだと思っていた。


 美人になって男に貢がれ、裕福な暮らしを送る。それが分かり易く単純な幸福のひとつの形だと思っていた。というか、今もその考えは間違ってはいないと思っている。


 ただし、実際に美少女へと変貌した今、その幸福には許容しなければならない前提があることも理解している。


 美とは価値だ。

 価値は大抵の場合、金銭によってやり取りされる。


 例えば、美人が自分を見つめてくれるお店があったとしよう。五分間見つめたら一万円。スマイルはサービスで。

 男が女に貢ぐのは、この商売と同じように自分の存在をアピールし、美人に自分という個を認識させ、あわよくば自分のモノにしたいと願うからだろう。それは美を金で買っていると言い換えることが出来る。美貌とは、お金になるのだ。


 そして世の常として、世の中にはお金になるものを嗅ぎつけては纏わり付く、ハイエナのような人種が存在する。そうでなくとも下衆な視線を向けられたりもする。

 これらは驚くべきことに悪意に拠って為るものではなく、彼らの純粋な願いに拠って行われる正当な行為なのだ。


 ま、純粋な欲望が向けられる人にとっては迷惑でしかないのは、どこの世界でも同じってことだね。


 要するに、私の思う幸福は美を得ることではあるが、不躾な視線を我慢できない人にとっては呪いになっちゃう可能性もあるってことだね。


 幸福とは主観的なもの。他人がそれを定義することは出来ない。


 なので結局はお母様自身に聞くのが一番確実という結論に至ってしまう。

 随分と遠回りしてしまったけれど、結果的にお母様の意に沿った幸福を提供できるのだから、これも必要な事だったのだと思う。


 二人の話が途切れたタイミングを見計らって、私はお母様に質問した。


「お母様、私にして欲しいこととかないですか? 私、今まで随分とお母様にご迷惑をお掛けしてるなって気付いたんです。私に出来ることでしたら――」


「ではまず、話を聞きなさい。一人で考え込むのをやめなさい。私の言葉が理解出来たのなら、とりあえず早々に身嗜みを整えてきなさい。たとえ同性であったとしても羞恥心を持ち――」


 甘んじてお母様の着せ替え人形にでもなろうと思ったら、何故か怒涛の口撃を受けた。予想外の事態に脳が一瞬理解を拒んだ。


 ……あ、あれぇ? 私今お説教されてる? なんで?


 私には不幸が降り掛かってるのにお母様は楽しそうでもないし。これじゃ私が不幸になっただけ損じゃないか。


 人を幸せにするのって難しいね……?


「まさか今まで、迷惑を掛けている意識がなかった……?いえ、いくらソフィアとはいえ、まさかそんなことは……」


むしろ余計不安にさせた模様。

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