唯ちゃんの為にたたかいます!
なんとなんと、衝撃の事実!
お母様はリンゼちゃんと唯ちゃんだけではなく、私とお姉様まで追い出す算段を立てていました! びっくりぽんだね!
……ってなんでじゃー!? ちゃんと説明してよお母様!!?
いくら自分よりかわいい子を追い出したってお父様の目はお母様に向いたりなんてしないと思うよ!? 正気に戻って!! そして発言を撤回して!!
お父様の気を引きたいのなら、まずはお母様自身の可愛さを磨かないと意味無いと思います!!!
パニック状態になって頭の中がぐちゃぐちゃに混乱している最中でも、心の深い部分は意外と冷静なままであるらしい。
冷静にして沈着なる私の視覚が、幸か不幸か、お母様の目のハイライトが消える瞬間をうっかりと捉えてしまった。一瞬にして頭が冷える。
「――ソフィア? 今なにか、とても失礼なことを考えていませんでしたか?」
「いえ、何も考えてませんでした!!」
馬鹿の告白みたいな返事になってしまったけど仕方が無い。だってお母様は、私がそーゆーこと考えてる時しか指摘してこないんだもの! これって絶対バレてますよね!!
でもでも、他にお母様が私たちを追い出そうとする理由が思いつかない。
……これまで散々迷惑やら面倒やらでお母様の手を煩わせてきた自覚はあるけど、お姉様やリンゼちゃんまで追い出そうとする理由には全くこれっぽちも見当がつかないよ!
お母様は一体何を考えてらっしゃるの?
私まだ未成年だし、まだまだお母様に甘えたいですぅ! とばかりに目を潤ませて見つめてみれば、お母様からは胡散臭そうなジト目がプレゼントされた。誤配送で返品したい。
「嘘泣きをしても誤魔化されませんよ。大体貴女は、いつだって年長者に対する配慮というものが欠けて……」
「お母様、それよりも神殿の件について詳しく! 唯ちゃんの今後に影響することですので!」
唯ちゃんの名前を出したお陰か、今にも始まりそうだったお説教がピタリと止まった。
お説教を「そんなの」と言い切った私への怒りが原因でないとも限らないけど、過分なネガティブ思考は不幸しか生まない。
唯ちゃんやリンゼちゃんと居る限りにおいて、私はお母様に対して絶対的なアドバンテージを得ている。この安心感を自ら投げ捨てるような真似をするわけがない。
なので使えるカードはバンバン切ります!
お母様が私への文句を忘れるくらい、一気呵成な攻勢あるのみ!!
「神殿は成人して学院を出てからという話だったじゃないですか。なんで今そんなことを言うんですか? それに唯ちゃんだって、頼る場所はここしかないのにそんな邪魔者扱いをされたら気にしちゃうに決まってます。唯ちゃんの身の上は聞いてないんですか? 唯ちゃんをこれ以上大人の思惑で振り回すと言うならたとえお母様だって許しません。私が相手になりますよ!」
「…………」
捲し立てる私に対して、お母様はただ黙って、スッ、と目を細めるに留めた。
反論のひとつも無い。そのはずなのに。
――まるで空気がカミソリみたいに鋭くなったように感じた。
コエー! 超コエー!
今すぐ土下座して「ちょっと調子に乗りました。謝りますのでどうか許してください」と全面降伏したい気分になる。
いやでもダメだ。事は既に私だけの問題でもない。
この攻防には唯ちゃんの未来が掛かっている。唯ちゃんは神様になることを強いられただけの被害者なのだから、不必要な不幸をこれ以上被る必要は無い。
今までが不幸で満ちていたのなら、これから先はそれを塗りつぶす程の幸福が与えられて然るべき。
でないと生きてる意味なんてない!! 不幸尽くしの一生なんてあんまりでしょう!!?
それにそれに、ほら。一度した発言を取り消すと、私の言葉に重みが無くなっちゃうからさ。
ていうかちょぴーっと怖い目で一瞥されただけで降伏宣言とかあまりにも雑魚ムーブ過ぎるでしょ。そんなの隷属宣言と変わんないよね。
一度牙を剥いちゃった私はお母様に許されるためには相応の罰を課されるだろうし、その事を考えたら降伏なんて考えずにどちゃっと話し倒して論点擦り替えて逃げ切るしかないじゃん! 私の勝ち筋はここしかない! うん! よし!!
「ににに睨んだって無駄ですよ。理は私にあるんですから! 大体なんですか。唯ちゃんにリンゼちゃん、私に加えてお姉様までだなんて、私達にどんな恨みがあるんですか。私達を神殿に追いやることでお母様に一体どんな利があると言うんですか!?」
「ソフィアには知らされていなかったのですか? そもそもアリシアは、本来既に住居を神殿に移していなければおかしい立場ですよ」
「…………ん、んんっ」
想像もしていなかった言葉に二の句が告げず、喉に引っかかって変な声が出た。んんん勢い死んだァ!!
ていうかまたかよー! はい出た! それ! また私だけ知らされてなかったパターン!!
もういいよマンネリだよ除け者扱いは傷付くんだよ!!!
でもなんか、うん。そー言われれば、思い当たる節はあるような気もする。
お姉様、お仕事でこっちに戻ってきたはずなのにずっと家にいるし。
旦那がいるのに子供を連れて……実は旦那のヘタレ具合に愛想が尽きて逃げてきたのかと思ってはいたが、そうか。逃げてきたのはお仕事からだったか。そうか、そうか……。
「それにソフィアも。女神様を自身のお付きメイドに就任させたり、貴族街全域に神様の襲撃事件があったり。今日だってこうして事前に何の相談もなく新たな女神様を連れて来て、突然受け入れて欲しいと無茶を言う。次は神様の家族でも連れてきますか? 我が家だけで対処できる範囲を明らかに超えています」
「……に、二番目のは私のせいじゃないもん」
反論の声も小さくならざるを得なかった。
…………わ、私だって、お母様を困らせたくてやってる訳じゃないんだからねっ!?
神殿組織の最高責任者という認識が薄いソフィアには、ロランドからの報告を「お兄様ってば今日も良い声」と聞き流す悪癖があります。
これに懲りたら、人の話はちゃんと聞こうね。




