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目が覚めたら、お母様がいた


 ――朝起きたら、何故か私の部屋で、唯ちゃんとお母様が優雅なティータイムを繰り広げておりましたとさ。


「あら、おはようソフィア。起きたばかりで悪いのだけど、この子のことについて話を聞かせてもらえる? もちろん彼女からも事情は聞いたのだけど、貴女の口からも是非聞かせてもらいたいわ」


 穏やかな態度とは裏腹に、鋼のように凝り固まった鉄壁の微笑みからはお母様の感情の一切が感じられない。


 もしも本当にお母様が、その纏う空気と同じように穏やかな心持ちでいるであれば、感情を隠す必要は無い。だが現実にお母様の本心は隠されている。それが意味するところとは。


 ……知りたくもなかった答えに条件反射でたどり着いたら、恐ろしすぎて一瞬で目が覚めたよね。


 昨日寝る前から密かに楽しみにしてた朝チュンシーン、唯ちゃんとの「うふふ、おはよう♪」的な朝の挨拶チャンスを奪うとは……お母様ってば、マジ許すまじ!


 ……なんて、素直に怒れたら楽なんだけど。


 怒る気力が欠片も湧いてこないのは、久々に見た朝日とかお母様の顔とか、そーゆー日常感溢れる存在に心癒されちゃってるからなんだろうな。どーせ唯ちゃんがいる限りはお母様も激怒しないという安心感があるのも大きい。


 それにね。起きた瞬間からってのは流石に予想外だったけど、お母様との対話は唯ちゃんを家で受け入れるにあたって避けては通れない案件だ。早いか遅いかの違いでしかないのなら、それは早く済ませた方がいいというその流れ自体には、私としても賛同できる。


 まあ欲を言えば日課と朝のお風呂くらいが終わるくらいまでは待ってて欲しかった感あるけど。

 それ言い出したら、私はお母様の予定とか一切考慮しないで神様とか連れてきちゃってるからね。お互い様だね。


 お母様の負担の方が明らかに大きい事実から目を逸らしつつ、ベッドから抜け出しリンゼちゃんがえっちらおっちらと運んでくれた椅子に腰を下ろす。唯ちゃんとお母様と私。三人で卓を囲んだ形になった。


 ……が。お母様がなにやら物言いたげな顔でこちらを見ている。


 私の可愛らしい顔に何か文句でもおありでしょうか。


「ソフィア。……朝から押し掛けた私が言うのも気が引けるのですが、もう少し身嗜みを気にしませんか?」


「起き抜けで無茶言わないでください」


 文字通り起きたばかりだよ? 今目の前で起きる瞬間から見てたでしょ?? 身支度を調えるタイミングがあったとでも??


 お母様達を待たせて着替えでも始めてたら間違いなく「はしたないから止めなさい」って言うじゃん。ていうかそもそも、説明しろって言ってきたのお母様じゃん。私まだトイレも行けてないんですけど!?


 寝巻きのままなのも髪の毛すら梳かせてないのも、ぜーんぶお母様のせいじゃないですか!! と、声なき不満を、くわっ! と見開いた目に乗せてお母様に叩きつけてやったら、お母様ったら「そういう時は『少し失礼します』とでも声を掛けてからですね……」とお説教モードに入ってしまった。マジか、そーくるのか。


「お母様。唯ちゃんもいることですし、そういうお話はまたの機会にお願いします」


「…………ユイちゃん?」


 ひえっ! お母様の顔が怖い感じに引き攣ったよ!? 助けて唯ちゃーん!


 こそそっと唯ちゃんの方へと椅子をズラす。


 お説教熱がますます高まってそうなお母様の視線には、当然、気付かない振りをしました。


「私の名前です。雛形唯。だから、唯ちゃん。ソフィアさんは私のことをそう呼ぶんです」


 お、おおー。唯ちゃんがこの世界の言葉喋ってるの初めて聞いたけど、なんかいいね。日本語喋ってる時も可愛かったけど、共通語になると更にいい。お淑やかさ三割アップって感じ。大和撫子感がちょーすごい。


 そしてこの大和撫子様は私の味方で、かつこの世界を創った神様でもあるので、お母様は唯ちゃんの言葉を決して無碍にはできないのだ。ふふふん。


「そうでしたか。貴方様が許しておられるのでしたら、私からは何も言いません。……とはいえ、ソフィアは見た目とは違って、性格が少し……その、子供っぽい所がありますので。その点だけはどうかご留意下さい」


「それは……はい。……ふふ。そうですね。彼女は、破天荒、ですよね」


 ――二人のやり取りを聞いて、私は絶望した。この世に神はいないのかと世界の不幸を嘆いた。


 いやいや、いやいやいやいや。少し待ってもらおう。私は今、幻を見た。違う。幻聴を聞いた。


 お母様が私を扱き下ろすのは分かる。天使のように愛らしいが意見と違って性格が残念なのも認めよう。だが唯ちゃんに破天荒だと思われてるだなんて冗談じゃあないですよはあー? 


 私、これでも唯ちゃんの為に結構がんばったと思うんですけど!

 死ぬ痛みへの恐怖と唯ちゃんの寂しさを天秤にかけて、唯ちゃんを選んだりとかしてるんですけど!!?


 素直でいい子な唯ちゃんが、まさかそんな風に思っていただなんて!! ソフィアおねーちゃんは悲しいです!!!!


「なんて顔をしているんですか」


 お母様の呆れた声が聞こえるけど、お母様のことなんか今は別にどーだっていい。


 唯ちゃんに、唯ちゃんに嫌われるのだけは、何卒ご勘弁願えないでしょうかーッ!?


ソフィア「破天荒って大雑把な人ってことでしょ!馬鹿でアホな無鉄砲ってことでしょ!ひどい!!」

唯ちゃん「誰にもできなかったことを、あの人だけが……。ソフィアさんって本当にスゴイ」


破天荒を誤用の意味で覚えていたソフィア、褒め言葉を悪口と勘違いした模様。

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