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切り捨てた未来


 とりあえず初対面の組み合わせが発生したということで、唯ちゃんには「この子、うちのペットなの」と簡潔極まりない説明したのだけれど、当然の如く微妙な反応を返された。


 分かる。分かるよ。唯ちゃんの言いたいことはよーく分かる。


 宇宙にポツネンと浮かんだフェレットの異質さ。

 私だって正直なところ、「私は何も知らない!! だからもう寝る!!」と全てを放棄したい感情に襲われたからね。火星人よりもよっぽどファンタジーな生命体の出現に、混乱をきたすのは至極真っ当な反応だと言える。


 けど私はフェルの飼い主として、ここまで出迎えに来てくれたフェルの忠フェレット振りに報いなければならない。混乱していたとしても、そこだけは疎かにできない。


 恩には恩を。罪には罰を。


 それがソフィアちゃんのモットーだからね。


 頼んでないとはいえ、お出迎えが嬉しかったのもまた事実。

 フェルの気配を感じただけで一気に日常へと戻ってきた感覚がするのは、やはりそれだけフェルと一緒に過ごすのが当たり前になってるからだと思うんだ。



 暗闇の支配地であった空間に、燦然と輝く太陽のように眩しい《光球》の光が照らす中。


 私は随分と久しぶりに感じるフェルの毛並みを堪能しつつ、何故ここにフェルがいるのかという当然の疑問を、直接当人に聞くことにした。


「ねぇ、フェル。なんでここにいるの?」


「キューキュ。キュキュー! キュキュウキュッ、キュウッ」


 はいかわいい。すごくかわいい。


 ほら見てよフェル。さっきまでフェルのことを「得体の知れない生物だ……」みたいな目で見てた唯ちゃんが嬉しそうに目元を細めているよ。


 でも肝心の伝えたい内容が全く伝わっていないので、もうちょっと肉体言語(ボディランゲージ)の翻訳機能を高めて欲しいかなー、なんて思ったり。


 フェルが無重力でくるくるキュウキュウしてるのは、そりゃもうとてつもなく可愛いんだけどさ。その可愛さのせいで私の理解しようと頑張る気力も出力不足でね。「理解できなければずっと眺めてればいっか〜」みたいな思考に流れていっちゃうのよ。


 ……いやいや、なーんにも良くないよね。


 フェルの頑張りは飼い主さんとして真摯に受け止めるつもりなの。本当にそのつもりなの。


 ただ問題なのは、たとえ私がフェルの可愛さに見蕩れていない超珍しいド真面目モードであったとしても、フェルとの意思疎通はそこそこ難解だということなのだ。


 今まで妄想を主に使っていた並列思考のひとつをフェルとの会話の解読に回す。


 先程よりも少しだけ真面目モードに入った私は、再度フェルとの会話を試みた。


「ごめん、分かんない。フェルが、ここに来た、ってのは分かった。その前の何?」


「キュウッ! キュウッ、キュ、キュ、キュウッ!」


 え、やだ、なに? なんで叩くの?


 私? もしかして私が関係してる??


「キュウキュキュ、キュッキュ。キュウー! キュウ、キュウー!」


「私が、置いてった。怒って……行くぞー。みんなでは無理だから、フェルだけ先に……来た?」


「キュウキュウ!」


 コクコクと頷くフェル。良かった、だいたい合ってたらしい。


 そして解読の成功とともに、さっきから「今日はやけに元気だなー」と思ってた激しい鳴き声が、どうやら私への抗議のつもりであったらしいことが判明した。可愛すぎて分からなかったよ。


「そっか、置いていってごめんね。心配してくれてありがとう。でもほら、無事に帰ってきたでしょう?」


「キュウ! キュキュッ、キュウ! キュウゥ!」


 無事を伝えて大団円、と思ったのに、フェルは何やら気に入らない様子。


 え、なに。まだなんかあるの?


「キュウ。キューキュ。キュッキュウ、キュウ、キュウ!」


 えーとなになに……。


 フェルは、ちょっと怒ってる。メリーは、怒ってる。お母様とお兄様も……怒ったり心配したりしてる??


 え、なにそれ。つまり二人も私がここにいることを知ってるってこと? ……まさかメリーが伝えちゃったの!?


 あー、そっかあー。その可能性があったかー。


 いやでも、そうよね。部屋で寝てたはずの娘が突然失踪したら騒ぎにもなるよね。口止めもしてないんだからバラしちゃうのは当然だよね。


 とはいえ、これはまた相当面倒くさそうなことに……。


「キュウ、キュウッ!」


 うそうそ、ごめんて。ちゃんと反省してます。


 えっと、つまり、また前回みたいに私のことを心配した人達が、我が家で私のことを待ち構えていると、そういうことかな? 激おこお母様の再誕なんだね?


 ううぅ、そういう事情を知らないまま過去へと帰るためにフェルたちを帰した部分もあったんだけどなぁ。どうせ私らが過去に戻ったら全部無かったことになるんだから、最後まで意識の外に置いておかせて欲しかった。そしたら家族を心配させたなんて事実は気にしなくても済んだのにな〜。


 一度話を聞くと気になっちゃう。


 気になっちゃうけど――いい、決めた!!


「やっぱここから《時間遡行》しよ」


「キュッ!?」


「いいの?」


 いいもなにも、初めからその予定だったからね。


 向こうの世界で精神的に消耗させられたこともあるし、私にだってそんなに余裕は無かったりするのだ。


「うん。一旦過去に戻っちゃえばもうこの時間軸の世界には帰って来れないし、『気にするだけ無駄』って意識に切り替わるかもしれないからね」


 というか、切り替わってくれないと困る。わたしの精神の安寧の為に。


 しかしそうなると、フェルの扱いをどうするかなんだけど……。


「フェルはどうする? 一緒に行っちゃうと、多分記憶が残ったままになるけど」


「キュウ!」


「うん、それじゃ一緒に行こっか」


 迷わないってすごいね。実は適当に鳴いただけじゃないかとちょっぴり心配しそうになるよ。


 でも本人が決めたことなら尊重しよう。

 フェルがいると、私も心が落ち着くからね。


飼い主にはフェレット扱いされてるフェルくんですが、「自力で宇宙空間を遊泳可能」+「長期間食事を必要としない身体」等々、生物ではありえない特徴が盛り沢山。

たとえどんなに可愛らしくとも、彼は正真正銘、魔物に属する存在なのです。

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