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想定外の出迎え


「それじゃ、閉じますね」


 言葉と同時に指をスイッ。


 唯ちゃんがそんな簡単な動作をしただけで、世界は闇に包まれる。


 無限の彼方まで続いていそうだったあの白い地平線が一瞬で失われ、隣りにいるだろう唯ちゃんの姿すら視認出来ないこの現状が今の正しい現実なのだと、脳が理解するのに僅かばかりの時間を要した。


 ……てゆーかさ。前もってどんな変化が起こるのか、分かってたのにマジで謎。魔力の縮小スピードがどう考えてもありえなく無い??


 あの白い空間は異常な程に魔力が濃い空間だった。

 大気中に含まれる魔力の濃度もさることながら、見渡しても見渡し切れないほどに広がっていた白い床や唯ちゃんが作り出した椅子とか机とか、あんなもん殆ど物質化した魔力の塊みたいなもんですよ。あれらの欠片ひとつで魔石何個分の魔力を含んでることやら。


 そんな魔力がひしめく空間を指先ひとつで……収納? 隔離?

 どんな方法を使ったのかは知らないが、あれだけ満ち満ちていた独特な魔力の一切が消えた。明らかに尋常じゃない。


 体感としても、唯ちゃんの言葉通りに()()()()()()()()というよりは、むしろ()()()()()()()()()ような印象を受けて――


 ……ん?


 ……今、私の魔力網に変なのが引っかかった気がする。


 探してた魔力でも唯ちゃんの魔力でもなく、それ以外の……生物の反応。……生物の反応???


 自分の手の平すら見えない暗闇の中で、無意味に辺りを見回してしまったけれど、そんな反応しちゃうのも仕方の無いことだと思う。だってこんなの、驚きすぎてパニックにもなるわ。


 ここ宇宙だよ? それも端っこも端っこ、別の世界への入り口があるくらいの最果てにして光の絶えた真なる闇の支配地。

 正真正銘、宇宙の終わりの隅っこですよ??


 え、こんな場所に生き物とかいんの? もしかしてそれって火星人的な!?!?


 どうしよう、あとは家に帰るだけって段階になってまさかの事態が! こんなの火星人の正体突き止めなきゃ気になりすぎてゆっくり眠ってなんかいられないよ!?


 さあさあ、謎生物の正体は一体なんだろな! と気合を入れて《探査》の魔法をぶち当てたところ、その正体は案外あっさりと判明した。


 私が謎の生命体だと思っていたものは、なんとフェルくんでしたとさ。


 …………なんでいるの??


 え? っていうかあれ、本物? ええ??


 もう意味わかんなすぎて、思わずアイテムボックスの中覗いちゃったよね。分身でもしたのかと思ったわ。


「(キューキュー!)」


 あ、納得した。これは納得しましたわ。あのフェルくんは間違いなく本物です。


 どこの世界に生身で宇宙空間に出てくるフェレットがいるというのか。しかもご丁寧に念話まで飛ばしてくるんですよ?


 これでフェルじゃなかったらそれこそヨルの悪質なイタズラくらいしか可能性は思いつかないけど、あの女神はフェルの存在は認識していてもフェルが念話を使えることは知らないはずだ。つまり、あそこにいるフェルは本物である。


 ……どのような可能性を考えてみても、少し離れた場所にある魔力反応がフェルのものであるという結論から離れられない。


 その事実をしっかりと認識した上で、私は初めに抱いた感想を、もう一度だけ反芻した。


 …………なんでフェルがここにいるのぉ??


 私、確かに送った。フェルのこと、メリーちゃんと一緒にお家までちゃんと送り届けましたよねえ?? この記憶、間違ってないよね? ね???


 お出迎えしてくれて嬉しいという気持ちは勿論ある。あるけど、でもそれ以上に恐ろしい。


 私が「ありえない」と判断する現実がここに存在するということは、つまり私の把握してない未知なる力が関わっているということだ。


 私の知らない謎パワー。それこそ火星人的な存在が偶々フェルと運命の出会いを果たして、偶々(たまたま)意思疎通ができたことで偶々ここに来るお願いを聞いてくれて、これまた偶々フェルの身の安全を確保したうえで偶々私が来る前に帰っていった。結果、私にはフェルが一人でやってきたように見えたというわけだ。


 なるほどなるほど? 長く生きていればそんなことも……ってあるわけねー! そんなご都合主義が許されるなら私の方にも適用しておいてよ! わたしの元の身体、あっちの世界で全裸にされた挙句メチャクチャに弄ばれまくってたんだぞ!? ふざっけんなですよホントにもー!!!!


 はーあぁ。どーせフェルがこんな場所まで来れた理由も「メリーが移動魔法覚えた」とかそんなんでしょきっと。読めてる、そんくらいの展開は読めてるけどマジやめて。


 喋って動いて書類整理のお手伝いまでこなしちゃうぬいぐるみが、次は移動魔法ですか。ハハハハッ、……まーたお母様に怒られちゃうじゃないですかやだー。


「(キューキュ! キュキューウ! キュー!!)」


 そして先程から頭に響き続けるこの猛烈な鳴き声は、一体私に何を伝えようとしているのだろうか。


 色々と分かんないことが多いけど、とりあえずフェルを回収してから考えることにした。


「(キューキュー!!)」

「(よく分かんないけどかわええ)」


フェルさんの怒りの咆哮、飼い主には伝わらず。

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