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二人で朝食


「んんんん……。……ん?」


 深く沈んでいた意識がゆっくりと浮上するのを感じる。


 何者かの気配を感じた気がして目を開けると、私の眼前には、唯ちゃんの可愛らしい顔がドアップで迫っていた。


 ――あ、これ。もしかして唇奪われちゃう感じのやつですかね。


 私にそちらのケはないのだけれど、興味が全くないかと問われれば……まあ、無いこともないというか。少なくとも、何処ぞの馬の骨とも知れない軟派な男に無理やり迫られるよりかは、純情可憐な美少女に迫られた方が胸はときめくんじゃないかなと思ったりはする。


 とはいえ気軽に試せるようなものでもないし。

 今までそのようなことを考える必要に迫られたこともなかったから、深く考えることもなかった。……が。


 案外これは良い機会なのかもしれないな、と。寝起きで頭の働きが鈍った私は、そう考えてしまった。


 結果、私は一度は開いた瞳を閉じた。


 めくるめく百合の華々が咲き乱れる未知なる世界へ踏み出さんと、期待を胸にその時を待つ。

 可愛らしい妹様が新たな世界への案内人として手を引いてくれるのを、粛々と待ち受けることを選択したのだ。


 ――さあ、私に新しい世界を教えておくれ!! 準備は万端、いつでも歓迎バッチコイだよ!!


「……え? えっと、あの、ソフィア……さん? ……ど、どうしてまた寝てしまうんですか?」


 おや、襲おうとしたのがバレて照れたフリかい? ふふふ、おねーさんを焦らすなんて悪い子だねぇ。


 ていうか、美少女の慌てる声ってなんかいいよね。いつまでも聞いていたくなる《魅了》の魔法でもかかってるんじゃないかと疑いたくなる甘さが胸全体にじんわり広がっていくのを感じる。いや単に私のサドっ気が反応してるだけかな。


 ともあれ、大人しく焦らされているような私ではない。


 そっちがその気であるのなら、こちらから反撃するまでのことですよ!!


「ん〜? 言わせたいの〜?」


 可愛い顔してとんだ小悪魔ちゃんめ……♪ とか思いつつ目を開けたら、本気で戸惑ってそうな唯ちゃんの表情が目に入った。部屋もあと白い空間から、どこかの寝室のような場所に変わっているし。私も柔らかなベッドに寝かされていて……。


 うん、目が覚めてきた。私ってば、ちょっとえっちぃ夢でも見てたのかもわからんね。


 顔に血が集まりそうになるのを魔法で阻止して、直近のやり取りの記憶を思い出す。えっとえっと適切な答えはえっとー!


「――ベッドが、とっても気持ちよかったからね。これ唯ちゃんが用意してくれたんだよね? ありがとうね」


 なんとか無難な返答を絞り出すことに成功した。持つべきものは分厚くて被りやすい猫さんである。にゃー。


 貴族教育で叩き込まれたスキルによってなんとか危機的状況は脱したと、すっかり安心をしていたのだけど……。


「いえ。私の方こそ、助けていただいたようでありがとうございました」


 ……あれ? なんか、唯ちゃんと距離を感じる気がするんだけど……気の所為だよね? 嫌われるようなことはしてな……そんなにしてないもんね? ……大丈夫だよね!?


 唯ちゃんの心に壁を感じる。これは一体どうした事か。


 せっかく理想の妹が出来たというのに嫌われてしまったら悲しすぎる。なんとかこの状況を改善しなければ!! そう考えた私は閃いた。


 ――そうだ、お菓子だ。こういう時はお菓子で釣ろう。


 割とゲスい結論に至った私は、寝起きの空きっ腹にしっかり溜まるパンケーキをチョイスし、アイテムボックスから召喚した。


「そうだ、お礼に朝ごはんを用意するね。あまりごはん的なものは持ち歩いてないんだけど……これとかどうかな?」


 謙遜しつつ取り出したパンケーキは、もちろんただのパンケーキではない。


 どのようにすれば最もパンケーキが綺麗に映えるか。

 メイプルシロップの垂らし方から盛り付けに至るまで、様々な材料を使って色々と試していた時に偶然生まれた、奇跡の自信作。それこそがこの「王道パンケーキ」様なのだよ!! ふふん、刮目してみよ!!


 マンガの世界から飛び出したかように理想的なバターの溶け具合。視覚と嗅覚に訴えかけるたっぷりとかかったメイプルシロップの甘美な輝き。


 これぞまさに、全ての要素が美しく纏まった芸術作品!

 味も絶品間違いなしのこの作品を、篤とご堪能あれってなもんよ!!


 テテーン! と取り出したパンケーキを唯ちゃんが即席で作ってくれた机の上へと献上した。この作品は見る角度が命。何だったら照明まで自分で用意をしたいくらいだ。


「……美味しそう」


「でしょでしょ?」


 流石は唯ちゃん、実に嬉しいことを言ってくれる。

 素直に喜んでくれる人にはこちらも誠意を込めたおもてなしをしたくなっちゃうものだよね。


 さーてとっ。後はー、自分の分のパンケーキとー、あと紅茶の在庫が……あー、出来合いのものは使い掛けか。仕方ない、少し時間はかかるけど自分で淹れるか。


 十分な広さのある机の上に次々とアイテムボックスから取り出した道具を並べていく。

 魔法で生み出したお湯で紅茶なんて淹れたと知れたら、お母様には「またあなたは……」と呆れられそうな気もするけど、ここに小煩いお母様の目は存在しない。存分に普段は怒られそうな行動を満喫しようと思う。うひひ。


 朝からパンケーキなんてのも、お母様がいたら絶対文句言われるもんね。偶にはこんな贅沢が許されてもいいと思うな!


 魔法を使ってちょっぴり手間を省きつつ、紅茶の準備も整った。ミルクや砂糖と一緒に差し出せば、優雅な朝食の準備の完成だ。


「はい、お待たせ。パンケーキに盛り付けたいトッピングとかあったら言ってみてね。大抵のものはあるから期待には沿えると思うよ!」


 ……って、なんか聞いてなさそうな雰囲気だな。目がパンケーキに釘付けだわ。


 まあいいか。このままでも十分美味しいしね。


「それじゃ、食べよっか」


「はい!」


 唯ちゃんと一緒に朝ごはん。


 うむうむ。これも幸福の形のひとつだよね。


お菓子があれば、神様だって買収できる。

ソフィアのアイテムボックスに備蓄されているお菓子の大半は、こうした目的の為に用意されていたりします。

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