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ひとりぼっちはとても寂しい


 元の世界へと戻る手段を確立した私達は、とりあえず唯ちゃんの世界へと場所を移した。私のポカのせいで唯ちゃんが体調を崩した為、休息を要すると判断した為である。


 ……いや本当に申し訳ない。これじゃ人間コンバータ失格だよね。


 私は人間なのだから、そんなもん失格でも何の問題もないとも思うけれど。私情で唯ちゃんを危険に晒した事実は変わらない。

 それも私を唯ちゃんの生命線にするという方法を自ら提案した上での失敗なのだから……自分の言い出したことすらやりきれなかったという申し訳なさが、冷静になった今、私の心へと非常に重くのしかかっていた。


 普段から他人に厳しく自分に甘いことを自負するソフィアさんですが、今回ばかりは流石に責任を感じてますよ。

 てかこれで責任感じてなかったらどれだけの外道だって話ですよね。


 罪悪感パないです。心の底からごめんなさいって感じ。……唯ちゃんに嫌われたくないよぅ。


「唯ちゃん、本当にごめんね……」


 今更謝ったところで意味は無い。そう理解していながら、私は謝罪の言葉を止められない。


 そもそも、謝罪とは相手に誠意を示す行為だ。意識を失った相手にするものようなものでは断じて無い。


 加害者側にしか得の無い、被害者を利用しての自慰行為。


 このタイミングでの謝罪にはその程度の意味しかないと理解はしていても、心の弱い私には、その安心感に縋ることしか出来なかった。


 ……いや、だってね。唯ちゃんのいたこの白い空間、唯ちゃんがアレコレしてくれないと風景も変わんないし椅子のひとつも出てこないしで、率直に言って頭がおかしくなりそうなのよ。世界に一人だけ取り残されたような気分になんの。


 お化けが出てきても倒せそうな力を手に入れた私だけど、怖いもんは怖い。


 物がなんにも無いのって、精神的に結構ツラいんだね。知らなかったよ。


「……唯ちゃ〜ん。起きて〜。起きてくださ〜い」


 早々に孤独に耐えきれなくなった私は、先程まで優しく撫でていた頬を軽くぺしぺしと叩いてみた。が、当然その程度で目を覚ますはずもなく。


 魔力は依然送り続けているけど……時折苦しげに顔を歪ませる唯ちゃんが目を覚ます気配は、今のところまだ感じられない。


 向こうの世界から帰還する際、唯ちゃんの魔力はきちんと一纏めにして持ち帰ってきたし、この白い世界になら唯ちゃんの魔力だって潤沢にある。理論的には唯ちゃんが苦しむ理由は既に解消されている。そのはずなのに。


 唯ちゃんは何故か眠り続けている。未だに眠りから覚める様子がない。


 こちらの世界に戻った時からずっと、変わらぬ表情で一度も目覚めることなく眠り続けている。


 ……もっと魔力の変換効率を上げないとかなぁ。


 元はと言えば私のせいだ。私が唯ちゃんを眠りにつかせた原因なんだ。


 申し訳なさと責任感から、眠気も限界に近い身体にムチを打ち、魔力変換用魔法《しゃべる君》の数をひとつ増やした。


「ああぁあぁ……。ね、眠いぃ…………」


 並列思考を魔法の制御に持っていかれた為か、眠気がぐんと押し寄せてきた。規則正しい性格を心がけている良い子の私には、たまの夜更かしは、結構厳しいものがある……くうぅっ。


 真に恐るべき敵は内に潜む睡魔だったと言うべきか。手強すぎて涙すら出てきた。


 ふわ……ぁああ。ああ、あくびが止まりませんわ。


 ――このままでは確実に寝落ちする。


 そう判断した私は、ふらりと揺れ続ける頭を意志の力で持ち直し、魔法の制御に用いていない唯一の思考領域で思索を深めることによって意識を繋ぎ止めることにした。


 考えることはもちろん、現在の唯ちゃんの状況である。


《探査》の魔法で状態の探れない唯ちゃんの身体は、私にとって鬼門とも呼ぶべき領分ではあるのだけれど……それでも、いくつか推察できる事柄はあった。


 ……多分、という前置きは必要になるのだけれど。


 恐らく唯ちゃんは、ただ単純に体内の魔力濃度が薄まったが為に昏倒したのではないのではないか。私はそのように思うのだ。


 こちらから見た異世界、即ち闇を抜けて訪れたあの部屋には、元々魔力が存在しなかった。だから部屋に魔力が充満したのを見ると、どうしても唯ちゃんから大量の魔力が抜け出たように感じられてしまうが……それは誤りというものだ。


 唯ちゃんほどの魔力量があれば、あんな小さな部屋くらい容易に染められる。数倍の容積があったって問題にすらならないだろう。


 だから唯ちゃんの倒れた原因は魔力がどうこうという問題ではなく……環境の変化。もっと具体的にいえば、あの魔力の殻から解放したことが原因ではないかと思うのだ。


 思えば最初にあの殻を外した時も、唯ちゃんは昏倒していた。


 それからは自由を獲得したという解放感のみで気力を持たせていたのだとしたら……まあ、なんだ。私が取り乱し、その後冷静さを取り戻したタイミングで気が抜けたというのは、あながち間違った想像では無いのではないか。そんなふうに思うんだ。


 ではその殻をどのように再現するか……なんだけ、ど……。


 ……ああ、くっそ。ダメだ眠い、眠すぎる。


 時刻を確認すれば……午前二時? そりゃ眠いのも当然ですよね。


「……………………」


 このまま起きたままでいても、私に出来ることは何も無い。

 魔力の変換は……まあ、元から半分くらい、空気中の魔力に吸われてたことだし……。


 ああ、思考がまとまらない。


 少しだけ、少しだけだ。少しだけ横になって頭をスッキリさせよう。そうしたらすぐにまた唯ちゃんの為に力を尽くそう。それがおねーちゃんの務めだからね。


 自分への言い訳を済ませた私は唯ちゃんの横に寝転んで丸くなった。そしてすぐにそのまま、夢の世界へと意識を飛ばし――。


 ぐー。


ソフィアの優先度では「唯ちゃんの安否>越えられない壁>怪しげな研究所の顛末」となっております。

既に爆破した場所の事とかどーでもいいんでしょうねきっと。実に彼女らしい思考と言えるでしょう。

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