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〇〇視点:失われた成果、得られた進展


「――それで? 状況は?」


 車窓を流れる街並みを見るともなしに眺めながら、派手なスーツに身を包んだ男が問い質す。


 言葉を向けられた秘書は求められるまま、先程部下から受け取ったばかりの情報を自らの雇い主へと伝えた。


「現場を確認した者の話では、内部は複数の爆発物が滅茶苦茶に使われたような酷い状態になっていたようです。特に資料の納められていた棚が重点的に狙われていたそうで……成果は全滅、との事です」


 報告を受けた当初、彼はその報告を嘘だと思った。


 これは秘書の立場である自分から情報を引き出す為の釣り餌だと。敵対組織の仕掛けてきた情報戦だと。だが報告は全て真実だった。


 改めて確かめてみれば、被害は甚大も甚大。


 当初は誰もが社長の悪癖としか思っていなかった絵空事のようなプロジェクトが、まさかの進展を見せ始めたこのタイミングを狙い済ました襲撃。既に次の段階へと準備を進め始めていた我々にとって、この襲撃は正に、急所を突かれた一撃となった。


 施設どころではない。まるで計画事態を吹き飛ばすかのような爆発事件。


 わざわざ防備を固めた直後狙われたのは、これ以上の防備を固められるのを嫌った為か。それとも――


「そっかーダメんなったかー。……それで? この俺に喧嘩を売った馬鹿はどこのどいつか、もう見当はついてるんだよな?」


 分かりきった事を問われるのは、盗聴の警戒をしているからだろうか。あるいは私自身が疑われているという可能性も無いとはいえない。


 どちらにせよ、私は私に求められている役割を遂行するのみだ。


「…………いえ。それがまだ……」


「はあああー!? マジかよ、つっかえねーなあ!!」


 恫喝するような言葉と共に、ガシガシと乱暴に運転席の座席が蹴り飛ばされた。驚いた運転手が操作を誤り、車が危険な曲線を描く。周囲の車からは怒号のようなクラクションが鳴り響いた。


 不平のひとつも漏らすことなく黙ってハンドルを握り直した運転手を不憫に思いながらも、私も彼と同じように沈黙を貫く。


 ――我々は道具だ。道具は主の許可無く話すことなど許されてはいない。


 道具が勝手に話しだすとしたら、それは持ち主が別の人間にすり替わっていた時だけだ。


「つーかなんでこのタイミングでここ狙ってくんだよ……。あー胸糞悪ぃ。あのおっさん、俺が帰ってから売り込みでもかけてたんじゃねーだろーな」


 だが道具とて思考はする。


 実際、この襲撃は晴天の霹靂だった。相手にとっては攻める価値が全くない。()()()()()()()()、あの場所は本当にそのような場所だったのだ。


 ――一体どこから情報が漏れたのだろうか。


 書類上では、あの場所は社長が個人的に秘密の趣味を楽しむ為のスペースとして支援したことになっている。社長の暗殺を目論むのであれば、もっと狙いやすいタイミングはいくらでもある。守るに易いあの施設に誰にも気付かれずに入り込めるような輩が、まさか社長の行動を把握していないとも思えない。


 それに、せっかく誰にも気付かれずに侵入を果たした犯人が、爆発を起こしたという点も腑に落ちない。


 全ての行動がチグハグで意図が読めない。こちらは陽動?


 もしもそうだとしたら、我々が動かされているこの状況こそが目的だという可能性も――


「おい、バカ。てめーだよバカ。バカはよけーなこと考えてねーで俺の言うことだけ大人しく聞いときゃいーんだよ。分かったらさっさと電話かけろバカ」


「は。どちらにお掛けしましょうか」


 ――そうだ。この方の言うことさえ聞いていれば間違いはない。


 言動や服装を見ている限りではとても優秀そうには見えないが、そう侮った敵対組織をいくつも壊滅させてきたのは、間違いなくこの方の手腕によるものなのだから。


 ――そう思ったのも束の間。


「じじぃのトコだ。……もしもの時には俺を切れって言っとけ」


「――は?」


 思わず聞き返してしまった私が見たのは、いつもは巫山戯ながら横柄に振舞っている上司が、まるで追い詰められた獣のように虚勢を張っている姿だった。


「あのおっさん、ヤベーもんに手ぇ出してんじゃねーだろうな……」



◇◇◇◇◇



 到着した部屋は想像以上に酷い有様だった。


 壁は焼け、天井は溶け、棚は倒れて中身が残骸となり床に壊れて散らばっている。無事なものが何一つとしてない。


 ――何が起こればこんな壊れ方をするんだ?


 爆発と聞いてTNT爆弾のようなものを使用されたと思っていたが、これは爆発による被害だけではない。


 爆発と熱……。そうだ、まるで火炎放射器で炙ったかのような……。


「おいおっさん! 何があったか説明しろ! おい!!」


 社長の怒声を聞いて振り返れば、博士が気味の悪い笑みを浮かべたままなすがままに社長に詰め寄られていた。


 被害を確認しに来た私達とは違い、博士はこの施設で寝泊まりをしていた。被害のあった時間帯にも当然、施設内にいたはずだが……。


「ははは……見ればわかるだろう? 神だよ。我々は異世界の神の召喚に成功したんだ!!!!」


「はあ!? 神だぁ!?」


 ……元々頭のおかしい人物ではあったが、今日は様子が一段とおかしい。目の前にいる社長のことすら目に入っておらず、焦点が合っていないようにも見える。


「……おい待て。あの女が入ってた容器は何処だ?」


「魔法だ! 魔法だよ!! これだけの魔力の残滓があれば我々の悲願は叶うぞ、若造!!」


「あの女を何処へやったって聞いてんだよッ!!」


 会話になっていない……。


 社長が「あの女」と呼ぶのは、恐らく部屋の隅に安置されていた少女のことだろう。


 部屋がこの有様では、きっともう……と思っていたのだが、目をやった先には思い描いたような光景はなく。それどころか、あの少女が納められていた周辺だけが綺麗に炎の被害を免れていることに気がついた。


 ……ここで本当に、一体何があったのだろうか?


 凡人に過ぎない私の頭では、どれだけ考えても答えには辿り着けそうになかった……。


犯人はソフィアちゃん。

一部屋だけで勘弁してあげたみたいですね。

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