人間コンバータ、始めました
発想の転換。努力によるこじつけの勝利。
唯ちゃんの魔力漏出を止められないと判断した私は、一旦その方針を諦める選択肢を選んだ。「いっそ出るなら全部出してしまえ」と。「どうせ止めらんないから好きなだけ垂れ流してくれ」と。
そう、この問題の正答はひとつきりじゃない。
唯ちゃんのピンチを救えるのなら、それはどんな方法だっていいんだ。
つまりはアレよ。水の漏れ出てる水槽だって、全部の水が抜け切るまでには猶予がある。ならその前に水を補充し続ければ、理論上は水槽に穴は空いてないことになるのではないか……みたいな?
いや穴は空いてるんだけどね。
応急処置を止めない限り、水槽の中の魚は死なないし。中の魚が死なないなら、対処法のひとつとして仮評価を得られるくらいの案ではないかなーと自負している。
まあ、よーするにですね。
――漏れ出る魔力は私が片っ端から唯ちゃんに注ぎ戻せば全部解決なんだよ!!!
という結論に至ったわけです、ハイ。
勝負に負けて試合に勝った的なもやもやした気持ちは残るものの、あまり時間を掛けて唯ちゃんの体調が崩れてもいけませんし。現状とりうる手段としては最も分かりやすく効果が期待できるものではないかなと、ハイ。
こんな低脳の極致みたいな私の案は、驚くことにピタリとはまった。唯ちゃんの魔力吸収に関する特性が良い方向に働いたことも大変大きい。
――あの白い空間に取り込まれた時。私はそのタイミングで一切の魔力を失っていたが、それは何故か。
その答えは単純明快。
あの空間に充満していた濃密な魔力が、近場にある他の魔力をなんでもかんでも吸収してみーんな同じ魔力に染めてしまうという恐るべき性質を備えていたからだ。そしてその性質は唯ちゃん本人にも備わっている。
……むしろ唯ちゃんにこそ備わっている性質なのかもしれないが、その懸念は今すぐ解明しなくちゃいけない問題じゃない。一旦横に置いておこう。
要は唯ちゃんは意識しなくても勝手に魔力が集まってくる程の、超! 魔力吸引体質で、本来であれば魔力の方から唯ちゃんに「吸って〜」と集まってくるということだ。
だがその性質が、今回は悪い方に働いてしまった。
この世界には魔力が無い。吸い取るべき魔力が存在しない。
魔力を糧として魔力を生み出していたサイクルが途切れた時。唯ちゃんの保有していた魔力は、きっと、他の魔力を探す旅に出たんだと思う。
恐らくだけど、唯ちゃんの魔力は莫大な量があることを前提に成り立っている。
濃密に過ぎる魔力濃度。閉じられた空間。唯ちゃんを閉じ込めていた魔力の親玉みたいにごっつい殻。
濃ゆい魔力が豊富に密集していたからこそ私からだって魔力を奪い取れたんだと思う。逆に唯ちゃんの魔力がぽつんと少しだけ存在したって、魔力が増殖する前に拡散してしまっておしまいだろう。魔力の性質変換は多い方で少ない方を染めるのが基本だからね。
だから唯ちゃんに精霊を埋め込まれてから魔力の質が変わった私は、自分の扱いやすい魔力を使っていても魔力を奪われることがない。唯ちゃんの魔力と同質のものという扱いになっているように感じる。だから手とか好きなだけ繋げちゃう。
この部屋に存在する唯ちゃん自身の魔力を唯ちゃんが自分で吸収できないのだって、結局はそこが原因なのだ。
さて、そこで登場するのがこの私。
小賢しくも愛嬌に溢れ、見た目だけならとびきりプリチーな唯ちゃんの実姉、ソフィアちゃんである。
ソフィアちゃんは魔法が得意だけど、その得意の本質は精密な魔力制御と無意識下でも任意の魔法を発動できる常駐魔法にあると自分では思っている。そう思ってしまうくらいにはこのふたつの技術は汎用性が非常に高く、使い勝手が実によろしい。
その長年培ってきた技術で〜、部屋に溢れてる魔力をもそそっと集めます。濃密にぎゅぎゅぎゅっと詰まったその構成要素を、柔らかぁーく分解してー。構成を変化っ! そして流れるよーに同じ変化を周囲の魔力にもっ、伝播させる!!
するとあら不思議!
大量にあったあの白い魔力が全て、唯ちゃんに精霊を埋め込まれる前の私の魔力に変わるんですねー。
長年やり続けてきただけあってこの変換は実に容易だ。そして元の魔力が濃密なせいか、一見すると魔力が数十倍にも膨れ上がったかのように見える変化が視覚を大変楽しませてくれる。
薄い霧から生まれた大量の魔力がドパパパーッて天井に次々ぶちあたるの、壮観だよ。狙う的が欲しくなるくらいにちょー楽しい。
正直この段階でも既にもうだいぶ楽しいんだけど、この遊びには華々しいフィナーレが存在する。
床に溜まった白い魔力。天井に溜まった透明な魔力。
この綺麗に分かれた二種類の魔力が肝でね。大量に放出されて一瞬で部屋の上方に溜まった私の魔力は、その一部分が唯ちゃんの頭頂部に触れると……しゅおんっ! って感じで勢いよく唯ちゃんに吸い込まれちゃうんだよね。
そして驚くべきことに、この変化。一部分では留まらない。
まるで獲物が通りかかるのを待っていた食虫植物のように、端っこが触れただけの魔力塊を、ぜーんぶ、まるっと、きれーいに一呑み。天井いっぱいに広がっていた私の魔力は、欠片も余すことなく綺麗に吸い込まれてしまったのです。
いい? もっかいやるよ?
足元の魔力を変換。ばぼぼんっ! と膨れ上がる魔力を唯ちゃん方向に誘導。周囲に拡散するはずの大量の魔力が、予定調和のように唯ちゃんに綺麗に吸い込まれる。変換を止めると、最後にはちゅるんっ♪
……ふ、うふふふ。
……誤解を恐れずに、改めて言っていいかな?
これ。もんっっのすごく楽しいです。
ソフィアの体内時計によると、既に時刻は深夜を超えた。
……深夜テンションの幕開けダァ!




