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お漏らし体質は止められない


 他人の魔力に干渉するのって楽しいよね。なんだか、こう……気付かれないように髪の毛を撫でてる時の感じに似ているというのか、言いしれない背徳感があるよね。


 だから唯ちゃんの漏れ漏れ魔力を矯正するのも密かに(たの)しもうと思ってたんだけど、いざ作業に取り掛かった途端、そんな余裕は消し飛んだ。


 ……唯ちゃんの魔力が莫大すぎて、流れ出るのを押し留めるだけでも精一杯なんですけど!?


 えぇ〜なにこれ。なんなのこれ。てか重っ。実体の無いはずの魔力が、何故だか重たく感じるよ??


 もしかしてあの白い空間で見た精霊型の魔力溜りとか、魔力が異常に濃ゆい部分って全部唯ちゃんの魔力製だったりするんだろうか? メイドバイ唯ちゃん?


 普通に考えて、唯ちゃんの内包してる魔力ってこれもう人に収まる枠を超えてるんじゃ……。


 ヨルたちとは違い、ちゃんとした肉体はあるみたいだからって油断してた。


 唯ちゃんはもしかすると、創造神としての役割を与えられた時に「人種:神」へと進化したのかもしれないね。


 莫大な魔力を内に秘めた、人類の超越種。異界を開闢した始まりの神。創造神。


 ……ちょっと仰々しい感じはするけど、要素だけを羅列して見れば唯ちゃんを表す言葉としてこれらの言葉は間違ってない。

 唯ちゃんにはそれだけの能力があるし、ならその能力に見合った対応が必要となるのも、純然たる事実なんだよね〜。


 唯ちゃんってばマジ神さま。見た目以外はすんご〜く神様。


 私みたいに無力で無害なミジンコ生物とは格が違った。

 そんな尊き神様に対して、私如きが自分に施すのと同じような対処で済ませようなどとは不届き千万! 片手間で神様の憂慮を払おうとか傲慢が過ぎたね! 反省してまーす!


 ……と、いうわけで。


「……ちょっと時間かかりそうだから、もう少しそのままで待っててね」


 反省したので改善します。


 ――唯ちゃんに一声掛けることで退路を断ち、心のスイッチを切り替えた。


 今度はマジもマジ。大マジだ。

 片手間でもなく、既存のものでもない。唯ちゃん専用に編まれた綿密な計画が頭の中で次々と書き上がってゆく。


 これはもはや、無意識に垂れ流される魔力を抑え込む単純な作業などではなかった。


 これは、私への挑戦――如何にして唯ちゃんの魔力垂れ流し体質を改善させるかという、私の発想力が試される試練へと昇華したのだ!!





 ――それから、少しの時間が過ぎて。


 いつものような強引な手段を封じられた私は、はっきり言って苦戦していた。


 いつもの解決策がどれだけ非合理に満ちていたのか。

 魔力量のみに頼りきって無茶を通す魔法構築がどれほど醜いものだったのかを思い知らされるような惨憺たる結果に、私は自信もプライドも砕かれ、無力さの露見した自分自身に(おのの)いていた。


 いやだって、無理でしょこれ。

 だってこれって、要は滝行してるお坊さんのトコ行って「彼の人を水から守りなさい。使っていいのは貴方の身体だけです」とか言われてるようなもんでしょ。質量が違いすぎて物理的に無理でしょ。


 ……まあ、結果だけを端的に申し上げれば。


 唯ちゃんのお漏らし改善ミッションは、白旗上げたくなるよーな激ムズ難易度だったってことです。


 つっらい。マジでしんどい。

 ツラすぎてしんどすぎて、おねーさんってばパタンキューと倒れちゃいたい。気を抜いた途端に涙とかちょちょぎれちゃう自信があるね。


 思えば私が窮地に陥るのって、大抵は命の危機とか、それに近い状況だったからね。悲しい事実だけど、そのせいか知らず知らずの内に火事場の馬鹿力的ドーピング力が働いていたのかもしんない。こんなゆとりあるピンチとかそうそうないシチュエーションだから自分が無能な事実に今の今まで気付かなかったよ。


 ここが何処だかは分からないけど、時間的な余裕はある。

 扉が閉まっているなら魔力の拡散スピードもそのうち収まるだろうし、なんだったら背後には私達が通ってきた闇の帳が大口開けて待っている。ちょちょっと背後に駆け込めば、魔力が濃密に凝縮された空間へいとも簡単にトンボ帰りできる。私が失敗したところで問題は無い。


 問題があるのは、私がこの作業を楽な仕事だと思い込み、唯ちゃん相手に安請け合いしちゃった点だ。


 妹に頼られたお姉さんが「やっぱ無理だったわあははー」なんて軽い調子で諦めたら、頼った妹はどう思う?

 私が妹の立場だったら「あ、この人は口先だけのお調子者なんだな」と評価を落とすことだろう。


 なお仮想姉のモデルはこの世界の何処かにいるだろう私の母親を使わせてもらった。アレが姉とかどれだけサバ読んでんだって話だけど、母と娘の関係だけあって私の言動ってかなりあの人に近いからね。私の代役をさせるのにこれ以上の適任はいない。

 あの人はホントに、家では性格ガキンチョだからね。


 ともかく、唯ちゃんに頼られた以上、私に失敗は許されていない。しかし物事にはどうにもならない現実というものがある。今の状態がまさにそれだ。


 唯ちゃんのお漏らしは止まらない。止められない。


 ならば、私が取るべき方策は――。


見栄っ張りは努力の原動力。

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