表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
976/1407

心の声「いいからはよ行け」


 昔の人は言いました。「腹が減っては戦ができぬ」と。


 つまり美味しいお菓子でお腹を満たした今の唯ちゃんは、戦闘準備が万端整っている状態というわけだね! やる気満々なのだね!


 空になった食器を下げながら唯ちゃんに謎の歪みについて確認したところ、やはりあれは元の世界へと繋がる穴である可能性が高いという結論に至った。


 おやつパワーにより気力を充実させた私達は、いよいよ元の世界への帰還を果たす……かもしれない可能性へと手をかけた。


「……いくよ? 覚悟はいい?」


「はい」


 唯ちゃんと繋いだ手が僅かに震えているのを自覚する。握る手に力を込めても、震えを抑えることはできなかった。


 ……って、震えてるの、これ多分私だけですよね!? 唯ちゃんはなんで平気なんだ? お菓子か? お菓子の癒しパワーで満たされてるから平気なのか?? それとも泣きまくった反動で無敵モードとかそんな感じか。どちらにせよ頼もしいな。


 向かう先は既知の世界とはいえ、そこに至るまでの手段が未知すぎて怖い。ていうか単純にこのちっこい穴が怖い。ぶるっちゃうくらい怖い。


 近付いて、魔力で精査してみて分かったんだけど、この時空の歪みっぽいものは見たまんま別世界へと繋がる穴ポコみたいなんだよね。


 それでね? 《アイテムボックス》という似たような穴ポコを生み出せる私としてはね、この穴の恐ろしさをよーく知っているわけだよ。中に閉じ込められたら出る手段がないとかそーゆー強味やら弱味やらなんかをね、いざ自分が体験するとなると「異次元空間ってヤバくね?」とアイテムボックスの規格外さを改めて感じちゃうわけ。


 なにせ神様さえ捕まえた実績のある穴ポコだからね。

 油断して飛び込んで入口がなくなっちゃったら、唯ちゃんみたく一生以上の時間をでそこで暮らす羽目になるかもしんない。


 …………そう考えちゃうと、勇気、いるよね。


 もしもがあっても唯ちゃんが一緒にいるだろうとはいえ、「閉じ込められても二人なら暇しないね! あんしーん!」なんて気楽には思えない。けど、撤退用の保険をかけながら安全を確保して進めるようなものでもない。これは避けられないリスクだ。


 正直に言えば、ものすごーく嫌だ。

 やっとこの真っ白すぎる空間にも慣れてきたってのにまた真っ暗な場所に飛び込むのなんて冗談じゃない。もうやだおうち帰るー! ってしたい。部屋に帰ってリンゼちゃんにわがまま言って冷たくあしらわれたり、お兄様の膝枕でふとももすりすりして悦に浸ったりしたい。超したい。


 ……でも、日本に帰ることは私の悲願なんだ。


 一度帰れば二度とこちらの世界には戻って来れないかもしれない。正直そこまでの覚悟はまだ出来てはいないんだけど、そもそも本当に元の世界に帰れるのかも定かではない現状だ。それっぽいものは全て試してみる以外に取れる方法なんてない。リスクを恐れていては、何も出来ない。


 答えなんか誰も知らないんだから、望む結果を得るには自分で動くしかないんだ。


 その行動の結果がどのようなものだろうと、それは私が選択した結果。


 良い結果も悪い結果も、全て私の責任として粛々と受け止め……ることになるから、できるだけ良い結果になるようにって神頼みでもしとこうかなぁ。

 創造神の唯ちゃん様に、なむなむ〜。


 触れ合った右手に感じる温かい手を、おもむろに両手で握る。

 そして揉む。もにゅもにゅと揉む。なむ〜。


 私の手遊びに反応した唯ちゃんが愛らしい上目遣いで見上げてきたので「……それじゃあ、行くよ!?」と再度気合を入れて確認をした。唯ちゃんは不思議そうに「はい」と答える。内心では「早く行かないの?」とでも思ってそうなその据わった肝っ玉、ちょっとこちらにも分けて欲しいな。


 ……まあ、実際に肝っ玉のお裾分けなんて貰えるわけもないので、普通に頑張りましたよ。


「よっ、と。……んんんッ」


 あまりに平然としている唯ちゃんの姿に影響されてか、私も少し気が楽になったようだ。幾分かリラックスした状態で腕しか通れないサイズの時空の歪みに片手を突っ込み、魔力を干渉させて穴を広げようと試みた。


 ……防御的な魔法が施されているのか。はたまた性質が特殊なのか。思ったよりも反発が強い。


 このままでは穴を広げられないと考えた私は、腕に篭める魔力を一気に強めた。


 ――力押しでの強行突破。


 強引なその手段を選んだ代償か、抵抗を超えて勢い余った。ついた勢いが殺しきれない。


 唯ちゃんと手を繋いでいたのも災いして、バランスを崩した私は、次元の穴に手を掛けたまま無様に尻もちをつく羽目になってしまった。


「あたっ!」


 大して痛くもないのに悲鳴が出ちゃう。


 それでも、唯ちゃんを巻き添えにしなかった私はとても偉いと思います!!


「あーびっくりしたぁ。あー、勢いが……、…………あー。…………ホント、びっくりするねー、これは……」


 顔を上げるでもなく、私たちを覆うように広がる漆黒の闇。


 これはどうやら、転んだ拍子に時空の穴を「にゅるりん!」と必要以上に拡張してしまったみたいですねー。てへぺろ。


 ……で、でもほら! これだけのサイズがあったら唯ちゃんと仲良くお手手繋ぎながらでも通れちゃうし!? 大は小を兼ねるっていうか、結果オーライだと思うんだよね!!


 唯ちゃんの表情を確認してみても、驚きはしているが失望しているという感じではない。私の失敗は許されたように感じる。――ハッ!?


 ……神に! 赦されたのだッ!!


「じゃ、行こっか」


「はい」


 さ、気持ちの切り替えも済んだしサクサクっと進もうね。


 でないとそろそろ、私眠くなっちゃうからね!!


失敗は許された→誰に?→唯ちゃんに。

唯ちゃん=創造神=神の許しという思考を経て、彼女は絶大な効力を持つ免罪符を手に入れた気分になったみたいですよ。

その直後、「恥ずかしい一人遊びをしている」と自覚したのは、彼女が僅かずつでも成長しているという証でしょうか……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ