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お菓子を食べてる唯ちゃんかわいい


 突然だけど、人が変な性癖に目覚めるのってどんな時だと思う? 私は油断してる時だと思う。


 美少女が床にへたりこんで、涙を流しながら私の用意したお菓子を咀嚼している。


 その姿を……こう、立って見下ろしているとですね。なんというか……変な欲望が掻き立てられるといいますか。……生粋のドS心が、つんつくと刺激されるといいますか。


 例えば。そう、これはあくまでも例えばの話なんだけどね?


 私の前で蹲っている唯ちゃんの首に犬にするような革の首輪をつけて、そこから伸びるリードを私が握ってだね。こう、クイッと引くとするじゃん。すると唯ちゃんはきっと私を見るよね? 涙に濡れたいたいけな瞳で、私のことを見上げるわけじゃん。そんな唯ちゃんの姿を想像しただけで、私はもう、身体が震えるというか、身体が悶えて堪らないというか。背徳的な快楽がそこには待ち受けているんじゃないかという妄執がですね、私の脳裏にありえない幻覚を見せる訳で。従順可憐や唯ちゃんが涙目で見上げてくるの絶対かわいい。お菓子に夢中な今なら想像し放題だぞと。脳のリソース全てを傾けろと私の中の悪魔が囁き――


 ――待とうか。落ち着こう。せっかく得られた姉の立場を投げ捨てるなんて正気じゃない。


 一時の快楽に、破滅願望になど呑まれてはいけない。


 唯ちゃんは私の可愛い妹。断じてペットではない。

 泣いてる唯ちゃんかわいいと思うのも多分正気じゃないし犬みたいにはぐはぐ食べてるのかわいいとか思うのも多分それなりの狂気入ってる。若干変態の素質があるという自覚はあるけど、真性の変態に仲間入りする覚悟は、私には無い。


 ……目を閉じて、数々の妄想を強制的に終了する。


 静かになった世界には、唯ちゃんがお菓子を食べる音だけが、やけに大きく聞こえた。



 ――ところで、私には唯ちゃんを解放してからずっと気になっていたことがある。


 唯ちゃんを閉じ込めていた、魔力で出来た卵の殻。


 ――玉座か。はたまた神の座か。


 そんな風にも見えた特製激硬魔力エッグの跡地にね、何か、変な……何かは分からない何かが、ずっとあるんですよね。地味に気になるの。


 見た目の違和感は小さい。視界の隅に映す程度では、無視できる程度の違和感でしかない。


 が、一度そこに「何かがある」と思って注視すると、空間の揺らぎ的な違和感が明確な形を持って浮かび上がるのだ。


 ……んー、なんて言えばいいのかなー。


 こう、透明なくらげが隠れてる感じ……みたいな? カメレオン? の擬態的な?

 ……沸騰したやかんの上の空気が、ゆらゆら〜っと揺れてる感じ……みたいな??


 上手い表現は見つからないけど、よーするにその正体に見当がついてしまっているから、私はさっきからテンションがおかしかったりしたのですという話ですよ。決して唯ちゃんの可愛さに当てられただけであんなにはっちゃけてた訳では無いのよ。唯ちゃんを解放できた達成感とか、苦労して苦労して苦労して勝ったー!! みたいな解放感とか、そんな諸々も含めた感情なのよ。ただのおバカさんじゃないのよ。


 とにかく、あの歪みはきっと私たちの目的地なのだと思う。たとえ違ったとしても、そこに繋がるものである可能性は極めて高い。


 ……まあ、つまりだね。誤解を恐れずに有り体に言っちゃうとだね。


 ―――わたしはちょっぴりビビっていた。


 棚ぼた(棚からぼたもち)的展開はお得感あって好きだけど、棚ぼたを受け入れるにも心の準備は必要だよねってことです。


 心の準備とは即ち、心の余裕である。

 心の余裕とは即ち、人としての余裕である。


 それらは「優越感」や「万能感」と言い換えてもいい。


 つまるところ、私は唯ちゃんのお世話をすることによって唯ちゃんからの評価を得て、更には唯ちゃんの可愛い姿を堪能し、そのついでに心の余裕も取り戻せるという一石三鳥の手を打った訳だ。我ながら見事な策謀だったと思う。


 でもこの策謀家さんは大胆不敵な言動と裏腹に、心はとっても繊細な見た目相応のお姫様なので、未知の転移門っぽいとこに一人でアタックするような蛮勇は持ち合わせていなかったのです。なにせアレ、聞く限りだと失敗作っぽい感じがプンプンしますし?


 と、いうわけで。


「唯ちゃん、落ち着いたらちょっと見てもらいたいものがあるんだけど」


 一人だとちょっと怖いので、唯ちゃんと仲良くきゃいきゃい言いながら調べようかと思ったのだけど――


「んっ、ふぁい!?」


 唯ちゃんってばまだ食べてました。というか、シュークリームとホットケーキを食べ終えて、ようやくプリンを食べだしたところでした。……いや違う!? まだホットケーキすら半分も残している、だと……!?


 うっそ頑張っても半分しか食べられないほどマズかった!? まさか材料傷んでたとか!? などと思い、愕然としていると。


「あ、あの! 食べるの遅くて、ごめんなさい! 物を食べるの、久しぶりだったから難しくて……」


 とのことだった。


 成程? そうなると私は、食べるのに難儀している子の前に嬉々として食物を並べた意地の悪い魔女ってトコかな?


 いやいや、唯ちゃんだって明らかに喜んでたし。善意の行いなのだから何も問題は無い……はず。


 ……とりあえず、私が次に言う言葉は決まっていた。


「焦らなくていいから、ゆっくり食べなね」


 私も座ってお茶でも飲むかな。目の前で手持ち無沙汰にしてる人がいたら気になっちゃうもんね。



 ――怪しすぎる歪みの検証に着手するには、もう暫くの時間がかかりそうだった。


前回初めてこの白い空間に来た時に魔力を奪われた経験から、ソフィアは「魔法が使えなくなる可能性のある場所」に行く事がトラウマになってます。

チキンと罵ることなかれ。

彼女は魔法が使えなければ、イキがることさえできない無力な少女でしかないのですから。

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