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記念日のお祝いはお菓子と共に


 二人で一頻り泣いた後。私は唯ちゃんの頭をなでなで、髪の感触を楽しみながら問いかけた。


「落ち着いた?」


「……はい」


 涙を流しきり、今更ながらに恥ずかしさを思い出したのか、私の胸から離れようとする唯ちゃんをちょっぴり強引に引き戻す。


 ……私、今かなりのお姉ちゃんムーブしたと思うんだけど。これでも唯ちゃんは固い言葉遣いを直してくれないのか。


 初対面から普通に話すまでは一足飛びに懐いてくれたのになー。距離感の詰め方が相変わらず謎だ。


 まあ私だって、前世では散々「アンタの距離感の詰め方は主観に拠る所が大きすぎる」と苦言を呈された側だ。つまりは距離感の詰め方が常人と異なる者同士、似た者姉妹と言えないこともない。


 そう、姉妹だ。

 似た者姉妹。仲良し姉妹。


 ふふ、なんと甘美な響きだろうか。唯ちゃんみたいな純粋な妹なら、私何人だって養っちゃうよ! プリンとか与えて甘やかしちゃうよ!?


 ……あっ、あるじゃんプリン。持ってきてたわ。


 唯ちゃんとのお茶会の夢を詰め込んだバスケットをこの場に持ち込んでいたことに思い至り、唯ちゃんをぎゅーっと抱きしめながら視線を廻らす。


 殆どが白で構成された世界で、その異物は簡単に見つかった。


「(……倒れてるぅー!!)」


 倒れてるというか、ひっくり返ってる。蓋付きバスケットの蓋の部分が地に接し、奇跡的な角度でバランスを保っている。


 ペットだけじゃなくて所有物まで持ち主に似るとか有り得るの? そんなエンターテインメント性発揮しなくていいから! あなたの仕事は中身を汚れから守ることだからね!? そんな逆さまな姿に価値なんて無いのよ!!?


 思いつつ、「カイルだったらこの面白みを共有してくれるかも」とか考えてるあたりで私がいつでもどこでもふざけた性格だということは嫌になるほど理解できた。唯ちゃんのサラッサラの髪を撫でて癒される。


 ……あれ、この子お風呂とか入ってないよね? このシャンプーっぽい香りはなんだ? えっ、怖っ。


「唯ちゃん。ちょっと聞きたいんだけど……ここに閉じ込められてからお風呂とか入ってないよね?」


「え? もちろん、そんな機会は無かったですけど……」


 つまり唯ちゃんの体臭はシャンプーの香りがすると。なにそれ男子の妄想が具現化した系の女神様かな?


 そういやトイレとかの生理的な面も問題無さそうだったし、まさか唯ちゃんの身体は古より伝わる伝説のアイドル体質……? いやいや、ここに入れられる前の学年とか年齢とかの話を聞くに、閉じ込められた時の状態がそのまま維持されてると考えるのが自然か。


 とりあえず、アイテムボックスからシュークリームを出してみた。


 紙に包まれているためそのまま食べ歩きだって出来る、乙女の小腹の救世主だ。


「ここにシュークリームがあるんだけど、食べる?」


「いいんですか……っ!?」


 お、おおう。食いつき良いね。

 そんなキラキラの上目遣いされて、ここで「嘘、あげなーい」とか言える人いたらそんな人はもう人間捨てた悪魔だと思うね。


「ゆっくりお食べ」


「いただきます! わぁ、美味しそう……!」


 シュークリームを載せるお皿、ソーサー、カップを置いて紅茶を注ぐ。床に直置きではあるけれど、ここに一人分のティータイムの準備が整った。


 ていうか今、現在進行形で唯ちゃんとの心の距離がギュンギュン縮まってる感じがするよね。創造神でおませ系女子といえど、唯ちゃんだって人恋しい一人の少女。甘いお菓子は弱点ということか。


「んん〜っ! おいしい〜〜!!」


 素直に喜ぶ唯ちゃんが、ちょっと可愛すぎて心臓がツラい。幸せそうな笑顔がどストライクすぎて私のハートにズキュンズキュンくる。やばい、顔がにへらってしちゃうぅ。


「おいしい?」


「はいっ! おいしいです!!」


 ――美少女の、満開笑顔、眩しすぎ。


 思わず一句詠んじゃうくらいに眩しい笑顔、いただきました。シュークリームもそんなに喜んで貰える人に食べられて、さぞかし本望だろうと思うよ。


 少なくとも作った私は本望です。本当にありがとうございました。


 なんだろうねこの気持ちは。

 唯ちゃん、既にご飯なんて食べなくても生きていける身体になってるだろうに、心は食事という行為を求めてたとかそんな感じなのかな。


 ていうか私も、栄養素的には必要ないのに毎日お菓子食べてるし。心の栄養とかそういうことかな。それなら海より深く納得できる。


 シュークリームを宝物のように持ち、ちみちみと食べている唯ちゃんを眺めながら、私はおもむろにアイテムボックスへと片手を突っ込んだ。


「唯ちゃん、プリンとか好き? ホットケーキとかはどう?」


「……!!」


 おっけーおっけー了解した。その顔見れば返事はいらない。


 優しくて頼れるこのお姉ちゃんに、全てまるっとお任せなさい!


「んっふっふ〜。今日は唯ちゃんの解放記念日だからね〜。好きなだけ食べるといいよ!」


 ポポイポイッと追加のおやつをセッティング。


 こんなこともあろーかと、アイテムボックス内におやつを常備していた私、マジ偉い!


 見てみなさい、唯ちゃんだって私の準備の良さに感動して肩を震わせ――


「はい……ぅ、ぐすっ。ありが、ありがとぅ、ございます……ぅうぅう」


 え、あれ。また泣いてるぅー。


 ……んー。嬉し涙なら、まあ、良いのだけども。


 今日いっぱい泣いた分、明日からは笑顔しか浮かべられないくらい構い倒してあげちゃおうかな。うん、きっとそれがいいね! 決定!


その頃、ソフィアの心に潜む悪魔と天使が「一緒に食べたらどうだ?きっととんでもなくおいしいぞぉ〜」「夜中の完食なんていけません!お兄様に自制もできない妹だと思われてもいいのですか!?」とやり合っていた。

今のところは天使が優勢な様子。

一応、自制しようと思う気持ちはあるみたいだ。

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