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少女の涙


 唯ちゃんに触れて震えた声が出たって言ったよね。


 アレね、感動とか感慨がどうとかじゃない可能性出てきた。気絶した唯ちゃん、アホほど魔力吸い取ってたわ。物理的に冷えてガクブルしてたんだわ。


 その吸引力たるや、正に「吸引力の変わらない、ただ一つのブラックホール」って感じ。


 私の体内の魔力を枯渇するレベルで吸い取ってたし、唯ちゃんを閉じ込めてた魔力の殻が拡散したアイテムボックスあるじゃん? あの中に唯ちゃん戻したらね、唯ちゃんを中心に魔力が渦巻いて、今から星でも創るのかってくらい壮大な光景が生み出されてたよ。……水洗便器に水流した時みたい〜とか思ってナイヨ?


 とにかく、唯ちゃんが目を覚まさない。


 唯ちゃんの現状を見るに、あの魔力の殻は唯ちゃんを閉じ込める為だけにあったんじゃなくて、唯ちゃんを守る為にも必要なものだったのかもしれない。今更ながらにそんなことを思った。


 ……どうする? 私はどうするのが正解だ?


 殻はもう無い。

 だが、それを構築していた膨大な魔力は存在している。


 …………見た目だけの紛い物なら、作れないこともない……かな?


 唯ちゃんを隔離する障害物としてしか見てなかったから、正直再現するのすらかなり危うい。それでも、私が壊した責任がある。


 見様見真似では効果は無いかもしれないが、作る過程で解決の糸口が見えるかもしれない。


 忌まわしかった卵の形、強度を思い浮かべて、私は魔力濃度の高まったアイテムボックスへと再度頭を突っ込んだ。


「あっ、ソフィアさん。あの……ここって何処ですか? 見覚えのない場所なんですけど、どこか懐かしい感覚もあって……」


 しかし、そこに私の想像していた空間は無かった。


 暗い空間に浮かぶ唯ちゃんと、可視化された魔力が彩る白い渦。離れ際に見たそんな光景を思い浮かべていた私は、一部分だけポッカリと白く切り抜かれた空間を見て、唯ちゃんの異常性を改めて認識した。


 成程。創造神の真っ白スペースってああやって出来るんだ。きっと唯ちゃんが居る場所の周囲が徐々に白く染まっていって、最終的に見渡す限りの真っ白世界が出来上がるんだね。新たな事実を知って、ソフィアちゃんびっくりー。


 未だに何が起こったのかはイマイチ理解出来てないけど、なんとなく、そーゆーものなんだということは理解した。


 要は唯ちゃんは創造神様だってことだね!

 創造神が唯ちゃんなんじゃなくて、唯ちゃんがもうどうしようもなく創造神様なんだってことだね!!


 そういえば、思い付きでくっつけられたっぽい肩のコレもどちゃクソ便利だけど、別の魔力を無理矢理接続するなんて普通だったら出来るわけないし。唯ちゃんの腰が低いから勘違いしそうになるけど、たとえ魔法が使えたって私なんか唯ちゃんの一存で軽ぅく吹き飛ぶゴミ虫みたいな存在なんですよね。せめてペットの子リスくらいの存在になりたい。


 あ、ペットで思い出した。


「ここは私のアイテムボックスの中だよ。唯ちゃん気を失ってたから、この中で休ませてたの。体調は大丈夫?」


「はい、大丈夫そうです」


「そっか、良かった」


 唯ちゃんをアイテムボックスから引きずり出しながら考える。


 フェル達、怒ってるだろうなぁ。無理やり送り返したからなぁ。呼んで謝るべきかなぁ。


 私が魔力を取り戻し、この白い空間の魔力濃度がだいぶ減衰したとはいえ、まだまだ地表とは比べ物にならない比重の魔力が漂ってる。人よりも魔力への依存度が高いメリーやフェルを連れて来て、万が一が起こらないとも限らない。


 ……ま、今はいいでしょ。

 今はただ、唯ちゃんを救出できて、無事に目覚めた喜びに酔いしれましょう!!


「さあ唯ちゃん! 改めて私が、お姉ちゃんだよー……ってあれ?」


 感動の妹撫でりターイム! ……へと突入するかと思われたのも束の間。アイテムボックスからぬぽっと引き抜いた唯ちゃんが未だに立ち上がる気配もなく、床に座り込んだままだった。


 …………これはどう見ても、大丈夫ではありませんね!?


 あんだけ分厚い防御殼をようやく攻略したのに中々喜ばせてくれない。そんな現実にちょっぴりイライラし始めた私の耳に、か細い声が届いた。


「……本当に、触れる。……人に、触れられる日が来る、なんて、」


 ……唯ちゃん、感動してただけでした。


 そうね。今まで苦労してきたんだもんね。そして私が今の唯ちゃんと同じ感動に浸っていた時、唯ちゃんは意識がなかったんだもんね。感動するとしたらこのタイミングしかないよね。


 気付かなくてごめんなさい。


 あなたのお姉ちゃんは、今こそ空気を読んだ行動を取ることを誓います。


「――これからは、私が一緒にいるからね」


 私と触れ合った手のひらを、信じられないと見つめるその頭ごと、まるっと全部抱き締めてあげた。

 ……若干サイズが足りなくて、抱き締めるというより抱き着いてる感じになったのはご愛嬌である。


 ――それでも、意図はしっかりと伝わったようで。


「……うあっ、ッああぁ……!!」


 リンゼちゃんと同じく、クールな印象ばかりが先に立つ唯ちゃんがボロボロと泣く。引き攣った声で、ボロンボロン泣く。


 ……そ、そんなに泣かれちゃうと、あのね? おねーちゃんもちょっと、釣られちゃうというか……。


「うぁああ……ああぁあああ、うわぁああーん!!」


「…………もう、大丈夫だからね……ぐすっ」



 ――その後しばらく。二人でたっぷり泣き続けましたとさ。


「(……うう、ちょっとキツイ)」


アイテムボックス内の魔力を吸い尽くして大分治まったとはいえ、魔力吸引体質はまだ健在のようだ。

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