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無敵の卵


 記憶面での不安は除かれた。

 そうなれば次に求めるものは、唯ちゃんの身柄の解放だ。



 ――そう思っていた頃もありましたかね。


「……いやこれ、反則じゃない?」


 お姉ちゃんにあるまじき失態の記憶をいち早く忘れる為にと精を出して頑張ってみたんだけど、お姉ちゃん、そろそろ心折れちゃうかもしんない。ていうか既にちょっと折れかかってる……。


 唯ちゃんの捕らわれている魔力の殻は、想像以上に強かった。固いと言うより強かった。


 強固とか堅固とか、硬さを表す言葉はいくつかあるけど、唯ちゃんが閉じ込められてるこの謎の物体はもはやそういう次元に無い。


 だってそもそも触れることすら出来てないんだよ? 硬さを試すステージにさえ立たせてもらえないんだよ? 閉じ込められてるのが実妹美少女じゃなかったら、こんなの「ははっ、無理ゲー乙」とか言って早々に諦めたいところですよ!


 物理で攻めると表面数ミリのところで反発が起こる。魔法による攻撃でも同じく、表面に傷をつけることすら出来やしない。


 ならば魔力で防御機構自体を無力化する! とか思っても、ここでは直接魔力を操作しないとすぐに支配権を奪われる。反発が起こったところを入口がわりに、そこから内部に浸透できないかとも考えたものの、魔力肢を伸ばして得られたのはこの殻があまりにも膨大な魔力で出来ているという既知の答えだけ。解決に役立ちそうな情報は何もなかった。


 侵入はね、出来るんだ。

 でもその後が八方塞がりというかせめてもうちょっと塞いでいてくれというか。


 なんていうかな。強いて言うなら砂漠の入り口でシャベル一本持ったまま放り出された感じ? いや明確な目的地があることを考えると、爪楊枝一本で温泉掘らされてると言った方が近いだろうか。


 無理ではないんだけど、目的地に辿り着ける可能性は確実にゼロではないんだけど、途方も無さすぎて行動する気力が折られるというか。ともかくそんな感じなのよ。


 魔力の抵抗がもっと強ければ諦めもつくし、魔力の抵抗がもっと弱ければ魔力に命令投げるだけでいいから人海戦術的な方策も取れるんだけど。この魔力密度の中じゃどんなにがんばっても私の魔力肢は三本伸ばすのが限界だね。うにょろんにょろんとミミズのように進ませるだけでもかなりの労力がかかっちゃうよ。


 それを……どんだけだ? どんだけの年数掛ければこの防御殻を突破できる?


 密度を考えると恐らく、えーと目算で三ミリの反発層を抜けるのに……三ヶ月くらい? かな? そこからさらに密度が濃そうな、極厚卵の殻みたいな魔力層が、多分二十センチ……くらい? ……もっとある?


 魔力視で見ると濃密な魔力の霧の中に浮かぶ魔力塊の親玉、ドデカ卵ってことくらいしか分かんないんだよね。殻に厚みがあることは分かるんだけど、その厚みが判別できない。


 まあ判別できたところで正攻法での突破が死ぬほど面倒くさそうって事実は変わらないんだけどね。


「物理? 化学? いやでも、魔力で構成されてるならやっぱり魔力的なアプローチが……とはいえこの環境下で有効な手段は……」


 裏技的な方法でボカンと一発、ダイナマイトで楽々突破とか出来たらいいのにな〜と私が考えてる合間にも、唯ちゃんは唯ちゃんで内側から試せそうなことは試してもらっていたりする。


 成果が芳しくなくても、言われたことを黙々と実行し続けるド真面目美少女唯ちゃん。


 私の妹、素直で可愛すぎると思うんだよね。見守ってるだけでほんわか温かい気持ちになっちゃう。


「ふむ」


 私が頼んだとおり、例の魔力奪取を限定的に展開して唯ちゃんを閉じ込めてる殻を壊せないかと試してもらってるんだけど、やっぱり事はそう簡単にはいかないらしい。周囲の魔力に影響は及ぼせているのに、何故か殻の魔力にだけは変化が無いのを確認している。


 もしかしたら、唯ちゃんを閉じ込めている殻は単なる魔力の塊ではなく魔法で創造した結界に近いのかもしれない。それならば唯ちゃんの拙い魔法で影響を及ぼせないのも頷ける。……私の魔法も弾かれたしね!


 しかしそれなら「唯ちゃんが吸収するための魔力は通す」というのはおかしな話だ。


 普通、魔法を発動したらその影響範囲内は術者の魔力一色で染まり、他の魔力は排斥するような力が働く。他の魔力が素通りできるほど密度が薄ければ、魔法が及ぼせる影響も弱くなるのが当たり前だ。


 だがこの卵型結界は神代の業としか呼べないような物理強度と魔力の浸透を一切阻害しないという特性を両立している。そのくせ私の魔力は見事に判別して弾いてくる。この差はなんだ。魔力のパターンが気に入らないのか?


 試しにそこらを漂ってる魔力のパターンを真似てみた。


 密度が濃くて再現するのに苦労はしたが、不可能と言うほどのことも無い。親指分くらいのサイズに魔力を偽装してから、唯ちゃんを閉じ込める極悪卵の殻に向けてゆっくりと押し出してみると、普通に反発が起きてポテリと落ちた。


 …………そんなんでも、作るのわりと苦労したからさ。もうちょっとこう、期待させるような場面とかあったって良かったんじゃないかな?


 卵、無敵感すごいね。


ソフィアは「無力感」を得た。

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