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左腕に封じられし精霊の御力的な


 ――私ね、変な夢を見たんだ。


 美味しいお茶とお菓子を堪能しながら、いつも通りリンゼちゃんと楽しくお喋りに興じていたら、唐突に苦しくなって。どれだけ頑張っても息が全く出来なくなっちゃう悲しい夢。


 抑えた口元からは血とか吐いてて。

 身体にも力が入らなくなって、やがて堪えきれずに倒れた私を見て、冷たい表情をしたリンゼちゃんがこう言ったの。


「毒入りの紅茶にも気付かないなんて。あなたって本当にお気楽なのね」


 その言葉を最期に、私は――



「はっ!!」


 目が覚めると、そこには白い天井が。どこまでも高く、どこまでも白い……白い…………。


 えっ、これ天井じゃないね? 外? 空が白いの? 青空じゃなくて白空??? あっ、これが有名な白夜ってやつか?


 何だこれはと顔を横に倒し、どこかで見た整いすぎた地平線と「気が付いた?」という幼い声を聞いて、私はようやく我に返った。


 ああ、そっか。唯ちゃんのトコに来てたんだっけ。


「うん、気が付いッタアアァ!?」


 起き上がろうと腕に体重をかけた途端、尋常じゃない痛みに襲われ悲鳴が零れた。


 なんか、あれ。静電気のオモチャ。あの静電気を流す悪質なオモチャを左肘に大量にくっつけて、一斉起動されたような。そんなような痛みだった。


 てゆーかまだ痛い。ヒリヒリする。なんだこれ私の左腕に罠でも仕掛けられてたのか? 私のスベスベお肌に嫉妬した何者かの攻撃??


 ひーひー言いながら痛みの元凶を確認すると。


「はえ……? なんか光ってる?」


 ――服の上からでも分かるほど、私の左腕全体がほんのりと発光していましたとさ。なんだいこりゃ。


 白い床の上でも明確に判別できる程の光量を発する謎物質。何を隠そう、それは私の腕でした。


 ……えっ、待って待って、怖い。なんだこれ。悪夢の続きか?


「……………………リンゼちゃん、説明プリーズ」


「リンゼちゃん?」


 失礼、間違えました。同じような顔だったからついね。


「唯ちゃん。私どうなったの?」


 起き上がるのは諦め、仰向けに倒れた体勢のまま、頭だけを唯ちゃんに向けて説明を求める。


 私の言葉を受けた唯ちゃんは、それはもう、見ているこっちが心苦しくなるくらい心底申し訳なさそうな顔で、深々と頭を下げて謝罪した。


「ごめんなさい。あなたが魔法を使えるようになるかと思って、精霊に命令してみたんだけど……」


 だけど。だけど……なんだ? その続きは? 失敗したの? 左腕が精霊化した?


 いや、違う。憶えてる。思い出した。確か私が精霊が見えないって言ったら、唯ちゃんが「じゃあ私が」的なことを言って私の肩に……。


「おおおおお」


 いやあああ!! 思い出したらまた身体がぞわぞわっとしたよう!


 あの痛み、あの感覚! 思い出すことすら恐ろしい!!

 ていうか、あれ? え? 私また死んだ? あれ、でもそれだとこの場所にまだいる理由がないか。そもそもここには魔力が無いから復活は不可能で……あれえ??


 ダメだ。寝起きの頭では考えるという作業すら覚束無い。


 そもそも私自身、現状を正しく理解しているとは言い難い。こーいう何もかもがよく分からない時は、素直に他人を頼るに限る。


 寝起きと混乱でまともな思考ができそうにないことを自覚した私は、全ての説明を唯ちゃんへと丸投げした。


「とりあえず、私が倒れた後に何が起こったか説明してくれる?」


 そこで語られた真実が、私に絶望を齎すとも知らずに――。





「そんな、そんなぁ……」


 唯ちゃんに一通りの事情説明を受けた後。私は傷心のあまり、唯ちゃんが見ているのも意に介さないで、全身を使って嘆きを表現しまくっていた。


 だって、まさかだよ。まさか、そんなさぁ……。


 胸中に溢れる不満。哀しみ。


 それら行き場のなくなった感情を、全部まとめて真っ白な床に叩きつけた。


「あれだけ期待してた『精霊』が、まさかただのお人形だとは思わないじゃんんん!!!」


 トスッ、と小さな音が鳴る。音からも想像出来るとおり、今の私では床に僅かな傷をつけることすら叶わない。てゆーか叩きつけた拳の方が痛い。


 左腕は左腕で未だにふつーに痛むし。なんだかちょっぴり涙が出てきた。


 唯ちゃんの閉じ込められたこの場所はどこまでも私に優しくない。まるで私を拒絶する為だけに用意された空間みたいだ。くっそぅ!!


「生きてる様には動かせますけど」


 唯ちゃんの言葉と同時に、バラッ、と一部の解けた椅子が無数の精霊となって飛び立って行く姿が見えた。精霊が見えるようになったのも痛みの代価として受け取ったこの光る左腕による恩恵らしいが、今はそれは置いといて。


 一時の美しい光景を見守っていると、飛び立った精霊はすぐに雪のように舞い落ちてゆく。そして床と接触した精霊は、そのまま溶けるようにして姿を消した。それは見ようによっては幻想的にも思える光景だろう。


 だがそれは、精霊の悲しい散り際などでは断じて無いのだ。


 ――私が求めてやまなかった精霊の正体。


 それがまさか、ただの精緻に(かたど)られた魔力溜まりだなんて……! こんなに残念なことは滅多にないよ!? 酷い裏切りに遭った気分だよーう!!


「……なんで魔力の塊、精霊の形にしてたの?」


 不満を凝縮した、私の順当な質問に。唯ちゃんは実に不思議そうに首を傾げた。


「物を作ったり動かしたりするのは精霊の仕事ですよね?」


 ……ああー、ファンタジーじゃなくて童話系かな?


 なるほど、そっち系ならまだ理解も……ってなるけど、それなら普通に精霊種族を作ってよ! 神や人をも作った創造神ならそれくらい朝飯前でしょ!?


 そう思いつつも、なんとなく理解した。


 そっか。唯ちゃんも魔法使う時はイメージの補助が必要なんだね。


 てことは……ふむ。……なるほど?


左腕の痛みは、慣れてきたら正座の痺れに似た感じに落ち着いたらしい。未だに薄ら光ってますけど。

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