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好感度稼ぎ、二周目


 冷静になって考えたら、会話の途中で意味無く漏らしたらただの痴女よね。頭のおかしい変態女よね。露出趣味の異常者でしかないわ。


 私はもちろん変態では無いので、人との会話の最中に着衣のまま変態行為に及ぶような異常行動はしませんでした。


 ……当たり前すぎることだから、わざわざ改めて言うことでもないけれどね!!



 唯ちゃんとの絆は改めて深めればよろしい。むしろ不名誉な記憶を忘れられているのは結果的にみれば良い事ではないのか。


 そう結論づけた私は、唯ちゃんと差し障りのない会話で盛り上がっていた。


「それじゃあ唯ちゃんは、あんまりお菓子は食べたこと無いのかな?」


「そうですね。プリンとかなら、給食に出たので食べたことはあるんですけど。お菓子は基本的に給食のデザートか、あとはお父さんの知り合いの方が持ってきてくれたもの以外食べたことが無いんです。その、呪文みたいな名前のコーヒー……? とかいうのなら一度だけお土産に頂きましたけど、クレープというのは見たことがないので……」


「そっかぁ。唯ちゃんは近年稀に見るストイックな小学生だったんだねぇ」


 ……いや、盛り上がってるかこれ?


 私と唯ちゃんしかいないこの場においては、参加メンバーの過半数、つまりは唯ちゃんが楽しそうだから盛り上がってるとは言えるんだろうけどイマイチ納得がいかない。そもそも唯ちゃんの境遇が楽しい会話するには不遇すぎるんだよね。


 にこやかに相槌を打たせてもらってたけどさ、内心では「そんな小学生実在すんの?」という感想しか出てこなかったよ。


 だって唯ちゃん、まだ子供だよ? 食べ盛り育ち盛りの小学生高学年だよ?? まさかクレープ知らないとか思わないじゃん。


 そんな人類いるの? もしかして生きてる時代が違うんじゃないの? って感じだったよ、いやマジで。


 私の学校で大流行してた某大手コーヒーチェーン店の話題を振っただけでまさかこんな事態に陥るとは。唯ちゃんとの会話って何が出てくるか分からないびっくり箱みたいで面白いよね。


「そのお店のコーヒー、美味しかったでしょ? 『また飲みたい!』っておねだりとかしなかったの?」


「……そんなこと、思いつきもしませんでしたね。彼らは私に会いに来ていたわけではありませんから。一度頂けただけでも幸運だったんだと思います」


 言葉から伝わる、彼女の本心。今の言葉に偽りは一切なかった。


 ……何だこの子は? 天使かな?


 私が唯ちゃんくらいの歳には何してたっけな。昔のことすぎてあんまり覚えてないけど、多分お母さんにいかにして大量のお菓子を買わせるかとか考えてた気がする。


 我ながら実に健全極まる模範的な小学生だったなー。

 生意気さという点においても、実に子供らしく! 自分の感情に素直で! 欲望に忠実な! 年相応の子供であったと断言出来る。


 そんな生意気の化身的存在だった私に比べて、唯ちゃんときたら……天使だな? いや、天使だろう。もはや疑う余地無く天使確定。


 そんな天使っ子唯ちゃんは、特殊な家庭環境のせいでお菓子もろくに与えられない生活を余儀なくされていたと。抗えぬ非業の運命を背負った少女だったというわけですな、なるほどなるほど理解した。


 ……はあーあ。ホンット世の中ってば理不尽だよね。


 悪人は得して、善人は損する。そうなる事があらかじめ定められているかのような歪な世界。いっそ悪事を働いたらその場で絶命するような世界だったらどれだけ素敵か。


 なんか私、唐突に自傷したくなってきたよー。


 手首にグサァッ! と刃物を突き入れてさ、父親側のDNA排除したい。私の身体にこんな可愛い子を虐待してた毒親の血が流れてるとか気持ち悪くて耐えらんない。知れば知るほど復讐心が際限なく膨れ上がってく。


 私が利己的な人間で、関心の無い人にはトコトン冷たいクズみたいな奴だってことは知ってるけどさ。それでも私以上のクズをみたら気分は悪くなるし、良い人には幸せが訪れればいいのにな〜とか、人並みなことくらいは考えるわけよ。


 だから私は決めました。


 地球に無事に帰還できた暁には、唯ちゃんが「もう勘弁して……」と泣いて嫌がるほどの幸福を強制的にプレゼントしてやろうと! 知らなければ平穏に過ごせたのに、知ってしまったが故に二度と以前の生活には戻れなくなるほどの幸福を感じさせてやろうと! 徹底的な親切の押し売りを強行してやろうと!! 心に! 決めました!! 勝手に!!


 私の友達も巻き込んでの食べ歩き祭りの開催じゃー!! 覚悟しとけや唯ちゃんよう!!


 覚悟を胸に、唯ちゃんに向けて不敵な笑みを浮かべれば、なんと唯ちゃんからも微笑みが返ってきた。予想だにしなかったリアクションでちょっと焦った。


「そのバスケットの中身、お菓子なんでしょう? 食べないんですか?」


「あー、や〜……。……これは、唯ちゃんと食べようと思ってたやつだから」


 私の返事を聞いて、唯ちゃんは瞳を細めた。


「……優しいんですね」


 うひょぉう、背中がゾワゾワしちゃったぞう。


 てゆーか食べれない人の前で美味しい食事を見せつけるのは、流石に単なる鬼畜でしょ。


 私が優しいかはともかく、それしたらお土産が嫌がらせアイテムになっちゃうでしょう! そんな食べ物を冒涜するようなこと、私はしないよ!


 …………多分しないよ!


ちなみに唯ちゃんが唯一飲んだ事のある呪文コーヒーは「トールバニラノンファットアドリストレットショットチョコレートソースエクストラホイップコーヒージェリーアンドクリーミーバニラフラペチーノ」という商品。

唯ちゃんは「なんとかバニラ……」までしか聞き取れなかったらしい。

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