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神さえ欺く時間遡行


 唯ちゃんに私の持つ情報を提供し、お互いの記憶を共有した結果、私の推測はほぼ正確だろうという裏付けが得られた。即ち、前回唯ちゃんと別れた後に行った《時間遡行》の魔法により、唯ちゃんの記憶は失われていたという確認が取れたということだ。


 すごくない? 私、創造神様の記憶を奪う魔法を成功させてしまいましたよ。


 これってつまり、もしもいつか唯ちゃんと敵対して戦わざるを得ない状況になったとしても、魔法さえ使える環境であれば私の時間停止魔法が有効である可能性が極めて高いということですよ。状況次第とはいえ創造神さん完封できちゃう。


 やっばいよねこれ。

 神も女神も創造神も、まとめて一緒くたに無効化できちゃう魔法を使えるって事実がもうやばい超やばい激やばい。


 私が神様側だったらそんな危険な人間は間違いなく消す。仲良くなったフリして近付いて、この世界から永遠に消滅させちゃう。危険な魔法ごと危険な人間ごとまとめて全部滅却処分よ。


 ……まあ、私は唯ちゃんのことを既にある程度知ってますから?

 創造神としての能力や役割があったとしても、その心根は優しくて穏やかな普通の女の子だということを知ってますから? 復讐に固執してる私みたいに、出会った人の危険度を一々判定していざという時にどう対処するかなんて物騒な発想はそもそもしてないものと信じてるけどね。


 私だって日本で平和に暮らしていた時はこんなことは考えもしなかった。


 周囲の人を敵と味方で区別することはなくて、私と関係のある人、無い人みたいな分け方をしていたように思う。それだって「強いて言えば」という程度のものだ。


 ……や、私の荒みまくった心の話とか今はどうでもいいね。


 今大事なのは、唯ちゃんは「私と出会った記憶を失っている」というその事実だけだ。



 ――正直に言えば、とてもショックだ。


 唯ちゃんが私のことを忘れていた。その事実には、幼い頃にどこかのパーティーに参加した際、その家の飼い犬にスカートの裾をヨダレで汚されまくったことに気付かないままお兄様と馬車に同乗して「……ソフィア、何だか臭くない?」と言われた時並のウルトラショックを受けている。


 だが、その出来事の時と同様に。私にはショックを軽減する救いとなる真実が存在していた。唯ちゃんがやけに私に辛辣だったのは、その真実によるものだったのだ!!


「――唯ちゃんが唯ちゃんのままで良かったよ」


 唯ちゃんは確かに記憶を失っていた。


 けれど全てではなかった。なんと私と邂逅した時の記憶が、僅かにではあるが残っていたらしい!


 断片的で、夢のようにあやふやな記憶。


 完全な記憶ではないとはいえ、全くの初対面からやり直すことになると思っていた私にとっては、実に嬉しい誤算だった。


 第一声が「はじめまして」だったじゃん? もう完全に忘れられてると思ったよね。

 だから今度こそはと頼れるお姉様感を頑張って演出していたんだけど、私のことを覚えてたっぽい話とか聞いたらもう無理。私の拙いお姉さんの仮面は、その話を聞いた瞬間いとも簡単に砕け散った。


 破顔って言葉は、理性で塗り固めた顔が破壊されるから「破顔」って言うんだねって思ったよね。今度お姉様と一緒にお母様の破顔チャレンジとかしてみたくなったよ。


 ともかく、私が馴れ馴れしかった理由もきちんと納得してくれた唯ちゃんは、それまでの警戒感が嘘のように、私との仲睦まじい姉妹の会話に応じてくれた。


「それにしてもびっくりしたよ。唯ちゃんったらすっごく冷たい声してるんだもん。私どんな怒らせるようなことしちゃったのかと思って内心びくびくしっぱなしだったよ〜」


「本当にごめんなさい。今思い返せば記憶に無いのに覚えている違和感だったんだなって分かるんですけど、あの時は私の理解の及ばない存在が私を脅かそうとしているように感じられてしまって……。その、訪問の仕方も強引でしたし……」


「合鍵的な物があれば是非欲しいとは思ってるんだけどねー。連絡方法あれしかないんでしょ? どーしようもなくない?」


「それはそうなんですけど。そもそも人が訪ねてくることを想定していなかったので……」


 あー、そっか。ならまあ、そうね。


 あの入り方はどう好意的に捉えても強盗のそれと変わりないもんね。女の一人暮らしとしては怖くもなっちゃうよねーわかるわかるー。


 うむうむと深く同意を示した後。私は自らの行いをちょぴっとだけ反省した。


「……えっと、驚かせてごめんね?」


「いえ……。こちらこそ、驚いてしまってごめんなさい……」


 お互いに謝り合う私達。


 初めに比べたら関係は劇的に改善されたけど、それでもまだ絶妙に空いてるこの距離感。


 この距離感の原因ね。私、実は心当たりあるんだ。


 ――初めて会った。会話した。姉妹と分かった。レッツ仲良し!


 前回と変わらないこの流れの中で、一箇所だけ、前回の時にはあった大きな出来事が今回はまだ起こっていない。それがきっと唯ちゃんと仲良くなりきれていない原因なんだと理解していて、それでも私は、その出来事を再度起こす決断を出来ないでいる。


 その前回にのみ生じていた大きな出来事とは――私の、お、お、お漏らしである!!!


 ……や、やるのか? やれば唯ちゃんと仲良くできるのか!? いやでも……うあぁぁあ!!


 わ、私はどうするのが正解なんだあああぁぁァアア!?!??


魔力の存在しない空間にいる創造神に、魔力を媒介にして発動した時間遡行魔法の影響が及んだその矛盾。


彼女たちはまだ、その魔法の持つ可能性に気付いてはいない――。

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