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妄想が終わっても、扉は開かない


 やっぱり私、思うんだよね。


 血の繋がった妹のいる部屋に入れてもらうのに極太魔力砲ぶち当て続ける必要があるのって、何かが致命的に間違っているんじゃないかってさ。



 そもそもの話。前回はぶつける魔力を太くしたら、割とすぐに反応があった。


 だから今回はそれを踏まえて、初めから多めの魔力を流し続けているのだけれど。体感で一分ほど経過しても何の反応も返ってこないとは、これはいったい如何なることか。


 この方法で反応が得られなければ、他に唯ちゃんと交信できる手立てが無い。完全に手詰まりの状況だ。


 ……いや、一分程度で泣き言とか。弱気になるにしても早すぎるでしょ。


 僅かに募る不安を振り払い、私は魔力を流し続ける。


 その間にも思考は止まらなかった。


 ――前回との違いは何? 段階? 魔力に強弱をつけることが必要だった? それともタイミング? 唯ちゃんが起きている時しか気付けない……とか?


 浮かんだ考えを即座に棄却。


 リンゼちゃん情報では、神様に睡眠は不要という話だった。

 リンゼちゃんの知識の元であるヨルを生みだした唯ちゃんだ。まさか女神に不要な事が創造神様に必要だとも思えない。


 つまり、唯ちゃんは起きてる。でも私のノックには反応しない。それは何故か。


 ……考えられる可能性はいくつかある。ただ、それらの推測の内のどれかが正しかったところで、私の側からできる行動に変化は無いという結論しか導けなかった。


 考える意味が無い。考えるだけ……無駄でしかない。


 結局はこの魔力浪費活動を継続するしかないってことなんだよね。うう、もどかしいけど仕方ない。極小の可能性を(ついば)みつつ、思考を享楽方向へと傾けることにシフトした。


 ――無為な労働による徒労感&魔力減衰に伴う虚脱感で、ソフィアちゃんはちょっぴりお疲れですよ〜。


 意識の切り替えついでにおふざけの思考を垂れ流す。それでもやっぱり、唯ちゃんからの念話が届くことは無かった。


 ……ただ、そんなふうに意識を研ぎ澄ませていたからだろうか。


 諦観に心が弛緩する感覚。

 その感覚に、ふと、僅かに既視感を覚えてしまった。心を(くすぐ)る琴線があるのだと気付いてしまった。


 どうせ暇な身の上だ。時間潰しの暇潰しにと、その原因を暴き出すことにした。


 ――流す魔力はそのままに。(まぶた)の裏に魔力の光を感じながら、意識は記憶の、思い出の領域へと沈めてゆく。


 この不思議な感覚の正体は……んんんんっ、これだぁ!!


 記憶の海から一本釣り。

 正体が判明してみれば、それは実にくだらない日常の記憶だった。



 ――夏休みのド真ん中。連日熱気が殺意を持って襲ってくる日本の猛暑。


 朝起きた格好のまま怠惰に過ごしていた私が、扇風機では気休めにしかならないことを察するも「いい加減クーラー付けてぇ!!」と叫ぶ気力すらも夏の暑さに奪われた頃。私達は母娘は、まるでゾンビのように緩慢な動きでリモコンを手に取り「付けるよ……?」「うん……」と覇気の欠けらも無いやり取りの果てに涼を求めた。


 クーラーは涼しい。人類の至宝だ。


 だがこの日、我が家の至宝は不調であった。


 確か、母と話して、フィルターの掃除をサボってたせいだと結論づけたハズだ。私の母は掃除嫌いというわけではないが、好んでするタイプでもなかった。そして私も同程度の面倒臭がり屋だったから、夏が始まって以降、フィルターの掃除など行われた記憶がなかった。


 ――この暑さは解消されない。このまま家にいたら蒸し焼きになる。


 そう判断した私達は外へ出た。

 夏の暑さを忘れられる空間、駅前のデパートへと避難したのだ。


 作るのさえだるかった昼食を食べて、あちこちの店をぶらぶらと冷やかし、冷たいアイスで心をも癒して、出来合いのお惣菜を買って夕食の時間ギリギリまで涼みに涼んでいた。デパートの涼しさを体内にたっぷり貯蔵しまくった。


 そして覚悟を決めて外に出て、家へと帰り着いた時。ドアを開けた私達が感じたのは、そこに存在するはずのない冷気だった。


「……嘘ォ!?」


「えぇぇえぇぇぇ!!」


 私と母は絶叫した。


 そう、私達がデパートへと避難していた一日中。クーラーは誰もいない部屋を、律儀に冷やし続けていたのだった――。



 ――ということが過去にありましてね。


 ほら、この魔力を垂れ流す感覚ってさ、電気垂れ流すのと似てるじゃん? 希少さとか便利さとか、魔力と電気って結構近い部分があると思うんだよね。


 それを無駄に浪費したと分かった時のあの感覚。独特の喪失感が、私を貫くっ!


 ……と、実際にそんな感覚が私を貫いたかはともかくとして。


 ヘレナさんがシャルマさんの作るお菓子を餌に私を誘き寄せてまで欲している貴重な魔力を、湯水のように垂れ流しているこの状況って、やっぱり前世でお母さんと二人外出から帰った後に朝からエアコンが付けっぱなしだったのに気付いた時の「ひゃー!」って悲鳴に通じるものがあるんじゃないかと思うんだよね。多分ヘレナさんもこの状況知ったら「なんて勿体ない!!」とか言うと思うし。


 普段は気にせずに使ってるくせに、完全に無駄になると分かった途端に惜しく感じてきちゃうケチ臭さ。

 これこそがソフィアちゃんのソフィアちゃんたる所以であります。


 ふふん、母子家庭で育った私の涙ぐましい節約術を聞いて驚け!


 限定スイーツとトイレ以外の目的ではコンビニに一切立ち入らないのが、節約の第一歩だと心に刻むが良いだろう!!


 ……自虐ネタ出してちょっぴり冷静になったけど、それでもまだ、唯ちゃんからの反応はなかった。


 あの、魔力残量がそろそろ半分切りそうなんだが。


 そろそろ本気で寂しくなってきた。


 唯ちゃん、お姉ちゃんだよ? 返事してー? なんで返事くれないのー? なんでかなー?


 この暗いところに一人でいるの、結構本気で心細いんですけど!!!


ソフィアはひとりぼっちになっても、いつでもどこでも楽しそうですね。

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