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憂いは消せないけどとりあえず備える


「うんむむ。うーむ……。んー、んーんー」


 頭を傾け、首を捻り。

 ついでにもひとつ首を傾げながら、私は唯ちゃんの所にある「魔力絶対許さない空間」の対処法を準備していた。


 とはいえ、魔力を排斥する空間に魔力を使った干渉が出来るわけもなく。


 私に考えつくのはせいぜい「あの空間から外に出された後にどれだけ迅速に魔力保有状態に復帰できるか」といった対症療法に近い対処法に過ぎなかった。


 ……それは、つまり。どういうことかと言えば。


 …………あの死ぬほどの痛みを回避する手段は、私の方では用意出来なかったということだ。


「やっぱヤダなぁ……」


 思い出したくもない痛みの記憶に項垂れる。


 準備もした。用意もした。けれど、それらの用意は痛みを回避する為のものでは無い。


 痛みに悶える時間をほんの数瞬だけ短くできるというだけの、気休めにも満たない慰めだ。


「行くのをやめるの?」


「いやぁ……行くよう……行くけどさぁ……」


 リンゼちゃんにツッコまれるのも当然だ。今の私ってば見ていてさぞかし鬱陶しいだろ〜なーというのが自分でも分かる。


 面倒臭そうな顔をしつつもこうして退路を塞いでくれるのがリンゼちゃんなりの優しさだということも理解している。


 そもそも、今日も疲れたし? 学院で学生の義務を果たしたり、ミュラーの相手をしたりしてお疲れだし?


 たっぷりゆっくり疲れを癒して、気分をリフレッシュして良い明日を迎えたいな〜、なんて気持ちは充分以上にあるんだけどさ。んなこと考えてたら唯ちゃんのトコに行くタイミングなんか正直一生来ないんだよねって話な訳で。


 だってだってぇ、怖い暗いキツいの3K揃ってるんだもんよあそこー! そりゃ行かないで済むなら行きたくないよ!? でもそういう訳にはいかないじゃんさー!


 私が行かなかったら唯ちゃんってば永遠に独りぼっちだし?

 いままでたった一人きりでずーっと孤独に耐えてた女の子にそんな仕打ち、いくらなんでも可哀想過ぎるでしょってなるでしょ! 人の心があるのなら!!


 そう思っちゃったらもう、姉の私が頑張るしかないよね。

 腹違いとか父親の存在が汚点だとか、そんなの全く関係ないよね。可愛い女の子はみんな幸せになるべきだとか素で思ってますから、私ってば。


 そしてその野望を叶える為にも、可愛くてキュート極まるわたくし様は、自分自身も幸せにならなければいけないのだ。


 我が儘で自分勝手は私は、私の気に入った人が不幸になってたら不機嫌になっちゃいますからね。私の幸福のためにも、私の周りの人達には常に幸福でいてもらわなければ困るのだー!! ふはははは!


 ――うむり、我ながら完璧な理論武装だね。やる気もちょっぴり湧いてきた。今のうちに行っちゃおっと。


「――よし。んじゃ、ちょっと行ってくるね〜」


「行ってらっしゃい」


 無事に気分を前向きへと修正できた私は、折角のやる気が萎えないうちにさっさと出発してしまうことにした。


 指をクイッと上げて移動用のアイテムボックスを展開。身体をコーティングする魔力に調整を加えて宇宙仕様に。


 忘れ物も……うん、問題無いかな。


 それでは不肖ソフィア・メルクリス。可愛くて孤独な実妹ちゃんの為に、いっちょ死ぬ気で宇宙空間、行ってきます!


「アイルビーバック!」


「はいはい」


 あふん、相変わらず冷たい。

 でもそれでこそリンゼちゃんだ。


 帰ってきた時にはもう少し優しくしてね! とウインクを飛ばしても、いつも通りの無表情で受け取り拒否をするリンゼちゃんに、軽い笑いを零しつつ。


 私は自らが生み出した闇の中へと、大きく一歩を踏み出したのだった。





(相変わらず暗いなー)


 目的地付近へと徒歩一秒で到着した私は、改めて周囲を見回して、前回で十分理解したと思っていた目の前さえ見えない暗さに早速意気を挫かれていた。


 そもそも暗すぎて自分の手さえ見えない。


 何も見えなさすぎて見渡すという行動が首の運動にしかならないのって逆に新鮮だよね。宇宙に来て最初にすることが首のマッサージ。ヘレナさんに話したら「それはどんな意味がある行動なの!?」って食いつくかもしれないね。


(あははー。ははー。はっはっはー!)


 笑ってみたところで声の反響すら起きない。


 宇宙空間ではひとり遊びにすらも強い忍耐力が必要になりそうだと私は悟った。こんなトコに一人暮らしとか普通に考えたらありえないよね。


 まあ唯ちゃんの場合、周囲の見た目を変えたり、本をぽぽんと召喚したりと色々出来そうな様子ではあったけども。


 それでも話し相手を自前で用意することはできなかったみたいだしね。

 隣の芝は青く見えるってやつで、あの能力にも何かしら制限があったりするんだろう、多分。知らないけども。


 私の魔法もかなり万能だと思ってたけど、唯ちゃんのいる場所じゃ何の役にも立たないし。お姉さんとしてあの無力感は、ちょっと厳しいものがありましたよね。


 しかし今回は準備期間があった。入り方も分かってる。魔力が使えなくなることも分かっている。


 つまり入る前に非魔力依存の用意を済ませてしまえば、問題は無くなるということなのさ! どやぁ!!


(それじゃあ、まずは明かりをつけましてー。あれとこれとそれと……)



 ――唯ちゃんの部屋の前でアイテムボックスを開き、ぽいぽいと荷物整理に勤しみました。


Q.うだうだしていたソフィアに声を掛けたのは、ソフィアの言う通り優しさ故の行動なのでしょうか?

A.「放っておいてもどうせ向こうから声を掛けてくるから。こちらから促してあげた方が面倒がないのよ」

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