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子供の世話は使用人の仕事


 ある程度一緒に遊んだらお姉様は満足したようで、私を解放してくれた。


 まあ解放というか、単に夕食の為に、一緒に食堂に向かっただけなのだけど。


 手を繋いで食堂に入った私たちを見たお父様に「仲が良いな」と言われたことで、私は再度お姉様を蔑ろにしていた事実を客観的に認識した。


 近々お姉様とたっぷり遊ぶ時間を取ろう。

 次の休息日……はミュラーとの先約があるから、学院のある日でもいいかな。帰ってからの時間をお姉様と過ごすようにすれば、お姉様だってきっと寂しさを感じなくなると思うんだよね。



 ……というか、そもそもの話。


 お姉様にはアジールがいるよね。


 たとえ私に相手にされない時間が増えてたって、お姉様が「私の天使!」と呼び可愛がる幼い息子ちゃんと遊んでればいいじゃんとか思うんだけど、そこは私が見る限り地雷原になってて下手に突けない感じなのよね。


 以前アジールのお世話をお母様に投げたとか言ってたから、お姉様の機嫌を損ねないよう、食後にこっそりお母様に接触して聞いてみたんだけどさ。なんか常識の違いを思い知らされた感じ。


 ……ものすごーく簡単に言っちゃうと、お姉様ってむしろお世話の邪魔してた人なんだって。


 実の母親なのにありえないってお母様が笑顔で怒ってた。これね、マジ怒りのやつです。お姉様ごめん、藪つついたかもしんない。


 なんかね、子供の世話は基本的に使用人のお仕事なんだってさ。親でしかない素人が手出しするのはむしろ邪魔にしかならないそうだよ。

 それも指示に従わない雇用主とか最悪の部類だって言ってね。お母様、めっちゃ笑うの。思い出すことで怒りゲージがグングン溜まってくのが目に見えて普通に引いたわ。血の気がね……。


 でも私から話しかけた手前、下手に打ち切ると矛先がこっち向きそうで怖すぎるんだよね。気分良く話し終えるのを待つしかなかった私の心境、分かります? 軽い気持ちで聞いた後悔しかないよね。


 それからもお姉様の愚痴が出るわ出るわ。


 私もさ、最初のうちは「お姉様も不慣れな母親なりに頑張ってるはずですから、ここはどうか長い目で……」的な擁護をしようと思ってたんだけどさ。なんとお姉様、寝ているアジールを起こす常習犯らしいんですよね。しかも何度注意しても人の目を盗んで起こしに来るとか……?


 お母様が何を言っているのか分からなくて、私も最初は「ん?」ってなった。


 あのね、お母様が言うにはね。お姉様は「子供のほっぺたには抗えない魅力がある」って力説したんだって。お母様に向かって、真面目な顔で。


 なんでも「ソフィアのほっぺたと同じふよふよふにふにのほっぺたの感触を思い出すと、つい触りたくなっちゃって」ということらしい。要は欲望に負けてたってことだと思う。


 アジールのほっぺたを撫でるために忍び込み、アジールが寝てても関係なしにずーっとほっぺたをなでなでしちゃって起こしちゃう。そんでアジールが泣き出すと、その時は申し訳なくも思うんだけど、次第に「泣いてる顔も可愛い♪」ってなって反省する気持ちは無くなっちゃうんだってさ。


 本人が懇切丁寧に愚かな行動に至った動機を解説してくれたのだとはお母様の言。

 お母様にとってお姉様は、もはや犯罪者と同等のようだ。


「悪びれることなく話してましたよ」と語るお母様が、いつ噴火するのか。私は戦々恐々と震えることしかできなかった。


 お姉様が色々な意味で勇者すぎる。やはり胸が大きい人は胆力も相応に大きいのだろうか。


 不思議だね、今まではお姉様に憧れていた私だけど、お母様の話を聞いてからは羨ましく思う気持ちがびっくりするほど薄れてるんだ。なんだろうねこれ。


 そういえばお姉様って昔はよく私の泣き顔を見て「かわいい♪」って言ってたけど、あれは私を泣き止ませるための姉的行動ではなく、正真正銘の本心だったのかな。お姉様って実は嗜虐嗜好持ち? 好きな人は泣かせたいタイプ?


 やばい、お姉様を見る目が変わりそうだわ。


 ――過去の出来事。お姉様との思い出。お姉様の反応と会話の内容。


 思い起こしてみても、お姉様は私に優しかった。

 だけど同時に、疑念を否定するだけの材料が得られなかったこともまた事実だ。


 お姉様、嘘ですよね? これはお母様から見た偏った真実に過ぎないですよね? と私の脳内に住むミニお姉様に問いかけてみたところ、ミニマムサイズになり愛嬌を増したお姉様は「大体合ってる♪」とテヘペロしてた。……なるほど、確かに悪びれてないね。


 このお姉様は私の妄想に過ぎないはずなのに、説得力が半端ないね。現実に問い質してみても「だってぇ」とか言ってる姿が目に浮かぶ。お姉様ってそういう人だ。


 結論。

 お姉様は母親としてはちょっとダメっぽい。


 まあ少しくらい欠点があった方が、女の人は可愛いって言うしね。ある意味欠点まで含めて完璧と言えるのかもしれないね、うむうむ。


 私がひとりで納得していると、その姿をお母様に見咎められた。


「理解出来たのなら、貴女からもアリシアに言っておきなさい。もっと母親としての自覚を持つように、と」


「私がですか?」


「貴女の言うことなら多少は聞くでしょうからね」


 そうだろうか。まあお母様から言うよりかは聞くかもしれない。


 お姉様って天邪鬼(あまのじゃく)なところがあるからね。お母様からの言葉は届かないだろうというのは分かる。


「頼みましたよ」


「分かりました」


 一応伝えてはみるけど、多分効果はないと思うな。


 その程度で効果あるなら、そもそも初めから問題行動してないと思うんだよね。お母様って意外とお姉様のこと分かってないよね。


「赤ちゃんの世話を親がしないってマジ?」とカルチャーショックを受けたソフィアさん。

自分の場合を思い返してみると……使用人アンジェの丁寧なお世話と一緒に、粗雑で乱暴な父親のお世話を思い起こした。

なるほど、確かに親の世話はいらないな。確実に要らない。

ソフィアは深く納得した。

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