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バレたら大変そう(私が)


 午後の時間は、ぶっちゃけカイル眺めてるだけで終わった印象でありました。


 ほら、今日学院に来た時点ではカイルってば負け組だったわけじゃん? ミュラーとバルお爺ちゃんの世紀の対戦見逃したやつ。

 でもそんなカイルを、心優しい私が勝ち組に変えてあげちゃったわけですよ。


 そしたらカイルってば自分だけが負け組から抜け出しちゃった事に後ろめたさみたいなのを感じてるみたいでさ。午後の時間中ずーっと居心地悪そうにしてたんだよね。


 神殿騎士団として私の魔法のことは漏らせない。

 漏らせないから昨日の試合を後から見たという事実を誰にも話すことができない。


 ……まあ、私とそれなりに深い関わりのある人でないと、話したところで信用されないとも思うけどね。



 そんなわけで、話題が昨日の戦い一色なこの教室の中で、カイルは負け組派閥に所属しながらも戦いの内容をよく知る唯一の人物になってしまったんだよね。


 今日のカイル、本当に面白いよ? ちょびっと観察するだけで何考えてるかすぐ分かる。


 お昼休みが終わってすぐの頃はまだ興奮が冷めやらなかったのか、周りを気にする様子はなかったんだけどさ。次の休み時間からは顕著に態度に出たわけ。戦いの興奮を共有したい欲がね。


 昨日の話題で盛り上がってるところにいそいそと近付いてって、仲間に入れてもらおうと声を掛けた途端に「あ、わりぃ……」と距離を取られた時のカイルのあの顔ったらなかったね。そのすぐ後に未観戦組に手を引かれていった時の「俺はただ、一緒に盛り上がりたかっただけなのに……」とでも言いたげな顔なんて、もう余りに可哀想すぎてうっかり胸が痛んだりしちゃいましたよ。カイルを玩具にし慣れている、この私がだよ?


 あ、勿論狙ってやったわけじゃないからね。流石にそこまで読んでカイルに昨日の試合見せたわけじゃないから。


 私にだって良心というものがある。


 カイルの辿った悲しすぎる未来が予測できていたのなら、きっと私は「願いは叶うけど裏切りの十字架を背負うのと、世紀の対決を見逃した仲間内で大人しく慰め合うのとどっちが好みー?」と本人の選択に委ねていたんじゃないかな。


 言い方はアレだけど、本来一択しかないところに選択肢を用意してあげるあたり、私は良い雇い主なんじゃないかと思うね。神殿騎士団の福利厚生は充実してるのですよ。ふふふ。


 まあ、つまりだね。今回のは本当に善意だったのよ。


 ソフィアちゃんに含まれてる、純然たる優しさの発露なのでございます。


 見逃したことを本気で嘆いてたカイルが見てらんなかったから仕方なく施しを授けたというのに、まさかその行動がさらなる悲劇を産むだなんて誰に予想できただろうか。カイルの人生は波乱万丈に満ちているね。きっとそういう運命なんだろーねーご愁傷さま。


 言うなれば主人公の宿命ってやつだね。


 そしてここにもう一人、カイルよりもなお主人公らしい主人公さんがいるのでした。


「ミュラーおつかれ。今日は大人気だったね」


「本当に疲れたわよ……」


 昨日の主役は今日の主人公。

 教室でも、廊下でも。果ては授業中に先生からも。


 一日中ありとあらゆる人から声を掛けられまくって疲労困憊になったミュラーは、いよいよ疲れ果てて私の元へと逃げ出してきたのでしたとさ。


 ……最初は助けを求めてというよりも、今日最も長く対応していて圧力の減じたクラスメイトなら、私の身体を差し出せば止まるんじゃないかとか考えてたみたいだけど。疲れ果てて頭の回らなくなったミュラーに大人しく売られる私じゃないよとにっこり笑顔で諭してあげたら「お願い、今日だけで良いから匿って!」と必死に縋りついてきたのですよ。もはや家ですら安息の地にはならないらしい。


 家ですら休めないってヤバくない? と同情した私が、軽い人避けの結界を張ってミュラーの安全地帯を確保したと、今はそういう状況であります。


 もうちょい人少なかったらヘレナさんとこに連れてっても良いんだけどね。今はまだ無理かなって。帰宅目的の生徒がまだ廊下にはわんさといるからね。飛んで火に入っちゃうわけにはいかないからね。


「ていうか、昨日の疲れはもう無いの? 私としてはそっちの方が信じられないんだけど」


 ぐってりとしつつも周囲の反応以外はいつも通りの日常を過ごしていたミュラーさん。


 お昼にカイルが心配した通り、昨日の激しい戦闘の後遺症というか、疲れ的なものは無いのかと聞いてみたものの。


「戦いの疲労には慣れてるから。あの程度、一晩休めばどうということはないわ」


 だそうですよ。聞いても信じられないから魔力診断してみたら本当に大部分治ってるからね。やっぱりなんかおかしいってセリティスの人達!


 そもそも身体強化の魔法にしてもさ、「肉体構造の理解+魔法適正言語たる日本語による魔法の実行」という最強コンボを使ってる私を上回るとか有り得ないと思うんだよね、常識的に考えて。


 なんなの? セリティス家に伝わる《加護》ってのは《身体強化》の魔法とは別物なの?


 別に私の方が優れてなくちゃ嫌だって訳じゃないんだけどさ。



 剣士の身体って割とフシギの塊だよなぁと、私はそんなことを思うのでした。


おさらい。

修練を積んだ戦士が叫ぶと超パワーが出せます。通称《加護》。

動体視力が上がったり、身体能力が上がったり、剣から衝撃波が出せるようになったりします。

ソフィアの認識では「戦闘用便利魔法セット」という感覚ですが、一般的には魔法であると認知されていません。

《加護》とは一体何なのか。その真実は誰も知らない。

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