表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
943/1407

テレビは異世界でも人気っぽい


 カイルが映像に夢中になっていくのと反比例するように、ヘレナさんの興味は次第に映像の内容についてよりも、映像自体の方に比重が高まっていたようだ。


「体内の魔力を見てた!? いやでも、あんなに距離が離れている上にものすごい速度で動いてるのよ!? 本当にあの光がそうなの!?」


「魔力だけを見れば、砂埃の中でも輪郭が視える……? いやでも、これはそんなことで済ませられる精度じゃないでしょう!? 服も表情も全部はっきりと見えているじゃないの!」


 ヘレナさんってば元気よね。

 淑女たるもの、ご飯を食べる時はもっと優雅でいないといけないのですわよ〜、もぐもぐごっくん。


 シャルマさんにデザートを要求しながら食後の紅茶を楽しんでいると、「ちょっとソフィアちゃん、聞いてるの!?」とヘレナさんが私の隣に移動してきた。そんな近くで叫ばなくても聞こえてるって。ていうか飲み物飲んでる時に身体揺さぶるのはやめてね?


 カップをソーサーに戻してから一息つく。


「あれに映ってる映像は全て私の記憶から作られたものですよ? つまり今見えているものはそのまま、当時の私に見えていた光景だってことです」


 何に驚いているのかは何となく分かるけど、見えるものは見えるんだもの。しょうがないよね。


 一応、魔力しか見えるようにならないはずの魔力視で視界の通らない場所を正確に見えるようになるのはおかしいって話には、理屈で説明は付けられるんだけど。魔力の同定とか透視化とか、空間把握とか千里眼とかとか、色々諸々併用してね? 脳内でぐるっと情報を一元化して視覚情報として取り込む工程を取っていたりはするのだけども、それをいちいち説明しろって言われてもぶっちゃけ無理。感覚的な面が強すぎて何がどうなってるかは説明できない。


 なので、説明しても長くなるだけで要領を得ないだろう情報はこちらの都合で割愛した。映像を楽しむ分には必要ないだろうと思ってね。


「ソフィアちゃんの魔力視が優秀なのは知ってたつもりだったけど、まさか見えているものが違うとは思ってもみなかったわ……」


 ヘレナさんは何故だかショックをを受けているが、これは多分、私のせいじゃないよね?


 人によって常識が違うっていうのは良くあることとまでは言わないけど、まあ、それなりにある事だと思う。不幸なすれ違いってやつだよね、うんうん。


「ヘレナさんも練習すれば出来るようになりますよ」


「なるわけないでしょ……」


 そう思ってるうちはならないだろうけど。

 コツさえ掴めば聴力強化くらいは簡単に出来るようになると思うんだけどなー。


「おいソフィアッ!! これ大丈夫なのか!? 大丈夫なんだよなってイテテテテ!」


「もー、急に何? 何の話?」


 とか思ってたら、今度はカイルが掴みかからんばかりの勢いで襲いかかってきたので、伸びてきた手を掴んで指を間接とは逆の方向に曲げてやると、面白いくらい簡単に私の前に屈服した。


 映像は……ああ、終わったのね。


「カイル、今日教室にミュラー来てるの見てたでしょ? これ昨日の映像だよ?」


 当たり前のことを告げただけなのに「コイツは何を言ってるんだ?」という目で見られる経験ができるとは思わなかった。カイルってばどれだけ映像にのめり込んでいたんだろうか。


「え? ……あ、ああ、そうだよな。悪い、取り乱した」


「ちゃんと反省してよね!」


「ああ」


 ああ、じゃないが。素直に返されると私の性格が悪いみたいに見えるじゃないの!


 チラリとシャルマさんの表情を窺い見ると、私の視線に気付いたシャルマさんはクスリと小さな笑い声を零した。


 ……!? その笑顔にはいったいどんな意味があるのですか、シャルマさん!? 私への好感度は下がってるの、下がってないの、どっちなの!?


「ほら、カイル。観終わったなら早く食べないと冷めちゃうよ。興奮してたから喉も渇いてるんじゃない? 新しいの淹れて貰おうか?」


「は? い、いいよ、別にそこまでしてくんなくても……」


 甲斐甲斐しく世話を焼いて下がった評価を取り戻そうとしてみたものの、カイルの反応が思ったよりもよろしくない。


 ……こっちがダメならヘレナさんの方だな。


 瞬時に瞬時に切り替えた私は、シャルマさんからの評価を取り戻す為に彼女の主であるヘレナさんにゴマをすることにした。


「ヘレナさん。もし本気でやる気があるなら、魔法が使えるようになるまで教えることもできますけど……どうしますか?」


「教えてくれるの!? この映像出す魔法を!!?」


 あっ、そっち? そっちはちょっと、難易度が高いんじゃないかなと。精密な魔力操作とか必要になってくるし……。


「いえあの。聴覚強化の方です」


「…………ああ、そうなの」


 うっわめちゃくちゃ興味無さそう。地味だけどすんごく便利なのにな〜。


 あーでも、聞こえてきた音を処理するのに《思考加速》とか使えないとイマイチ使い勝手は良くないかもしれない。大きな音が弱点になったりとか、慣れるまで自分の心音がうるさいとか弊害もあるしね。


 でも記憶からを再生する魔法はなぁ……。

 自分の脳内で再生するだけならまだしも、皆に見える状態にするのとか結構魔力垂れ流しにするし……。


 再生が終了して自動で消滅していた魔法をもう一度発現して見せれば、ヘレナさんが前のめりで食いついてきた。


「……そんなにこの魔法が気に入ったんですか?」


「ええ! 是非とも教えてちょうだい!!」


「俺も俺も!!」


 ん? なんか聞いてない人まで参戦してきたね。なんて卑しい人なんでしょう!


 ていうかカイルはさっさと食事を終えようね。

 口にものを含んだまま喋るのは行儀が悪いよ!


ご主人様第一主義のシャルマにとって、ソフィアは来てくれるだけでも主が元気になる相手なので好感度を下げる理由がない。

それがなくとも、自らが作ったお菓子を美味しそうに食べる姿には常日頃から好感を抱いているようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ