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鑑賞会


 お昼休み。カイルを連れてヘレナさんの研究室へとお邪魔した私たちは、シャルマさんの用意してくれた軽食を頂きながらとある映像の鑑賞会を行っていた。


 中空には私の記憶から抽出した映像が大画面で拡がっている。


 剣姫対剣聖の対戦映像は、食事を楽しみながらの片手間で見ても、かなりの見応えと迫力があった。


「おぉおお〜……」


「はー、凄いわねぇ……」


 映像に一番の食いつきを見せているのは当然の如く、見逃しちゃった悔しさから涙まで見せてくれたカイルではあるが、意外なことにヘレナさんも映像の内容の方に興味を示している様子だった。


 どうやらヘレナさん達も観戦はしていない組であるらしい。


 剣術にはあまり興味が無いから行かなかったのだと言ってはいたものの、いざ映像の再生が始まると割と食い入るように見ているあたり、今まであまりこういった催し物を見る機会が少なかったのではないかと思う。ヘレナさんって見たまんま、ひとり遊びで満足しちゃえるタイプの人だからね。


 それでもやはり、どのような分野であれ、その道のプロというのは人を惹きつけるだけの華がある。芸術しかり、料理しかり、剣術だってそうだ。やけに興奮していたミュラーの家の人たちの気持ちが今なら少しだけ分かる気がする。


 ミュラーもバルお爺ちゃんも、やっぱりスゴい人なんだよね。


 剣術の腕前は言わずもがなそうなんだけど、それだけじゃなくて、なんかこう、生き様というか。存在感というか?


 戦ってるとこ見てるだけで時間が勝手に過ぎてく感じ。目が自然と奪われちゃうんだよね。


 あの二人と知り合いなんて、実はかなり凄いことなんじゃないかって思えてきちゃうけど、普段の二人からはこの映像から感じられるような鮮烈な印象は受けない。二人とも自分に自信を持っててピシッとした存在感はあるけど、逆に言えばその程度の存在感しかない。人の中に埋もれててもちょっとくらいしか目立たないレベル。


 それが……はあー。人ってのは不思議だねぇ。勉強苦手で半泣きになってたミュラーがこんなにカッコよく見えちゃうんだもんねぇ。


 映像の中では丁度ミュラーがバルお爺ちゃんの猛攻の嵐から抜け出して、向かい合っているシーンだった。


『――まだ立ち向かう元気はあるようじゃな』


『お爺様はお疲れでは? 休まれても構いませんよ?』


『ぬかせ』


「おおおお! かっけぇ!!」


 うん、そーね。かっけぇよねー。最早映画のワンシーンみたいだけどこれ、未編集の私の記憶そのまんまなんですよねぇ。


 私が見たものをそのまま再生しているせいで体内の魔力移動やら剣に込められた魔力濃度やらが可視化されてて、いっそ半端な映画よりもよっぽど迫力あるシーンになっちゃってたりもするんだけど、まあカイルが喜んでいるからいいかなって。身体を動かすたびに光が尾を曳いて、剣がぶつかり合うたびに発光が起こるんだもん。そりゃーカッコイイと思うわな。某ライダー要素が満載で、意図していないながらも実に男児向けの娯楽作品に仕上がっていると言えよう。


 てかさっきからカイルが幼児退行しててウケる。


 目なんかキラッキラさせちゃってさ、まるで新しいオモチャを渡した時のノアちゃんみたいな顔してるんだよねー。一人だけご飯が全然減ってないのマジで笑える。食べるのも忘れて映像に釘付けーって、まるで子供そのものじゃんね。


 ……まあ、それだけ喜んでくれてるのなら、私としても誘った甲斐があるんだけどさ。


「ねぇソフィアちゃん。ずっと気になってたんだけど、この二人が発光してるのって魔力の光よね? これは……ソフィアちゃんがずっと魔力視を使ってたってことで、いいのかしら」


「そうですね」


 ヘレナさんからの質問に答えた途端、シャルマさんの視線に非難めいたものが込められた気がする。


 え、私何か変なこと言った?


「あとこれ、結構な距離があるはずよね? 魔力視を使っていたなら見えるのは納得できるけど、なんで二人の会話まで聞こえているの?」


 ……なんで? なんでってなんだ? 聞いてたんだから聞こえるのは当たり前だろうに。


 質問の意図が理解できない。あの激しい剣戟の後でよくも聞こえたなとかそーゆー話かな?


「……耳を澄ませていたので?」


「それで聞こえる距離じゃないでしょう!?」


 ああ、そっちか。そういうことね。


 目に魔力込めたら視力が良くなる。なら耳に魔力を込めれば聴力が良くなるのは当たり前だと思うのだけど、ここではそんな当たり前は存在しないんだったね。常用しすぎててすっかり忘れてたよ。失敗失敗。


「魔力視と似たような方法で聴覚も強化できるんですよ。任意の位置の音だけを拾うのにはコツもいりますけど、慣れれば案外簡単な――」


「もういいわ。少なくとも私にはとても難しい魔法だというのはよく分かったから」


 出たよ、言葉通じてるのに信じてくれないやーつ。慣れれば本当に簡単なのになー。


 思うに、この世界の人々は魔法を神聖視しすぎているんじゃないかと思うのだ。

 

 生まれつき両腕が生えてなかったら腕は使えないだろう。でも、腕が付いてたら使えるのは当たり前だ。魔法だってそれと同じ。


 出来ることは出来る。出来ないことは出来ない。


 ただそれだけの事なのに、何故やる前から出来ないと決めつけてしまうのか。それってものすごく勿体ない事だと思うんだけどな。


「おおおおっ!? おいソフィア、見ろ! ミュラーが押し返してるぞ!!」


 とか考えてる間に、映像は折り返し地点に入ったようだ。


 ……ふむぅ。

 私の中にある好奇心が疼く。


「ここで一旦CMです」とかやったら、カイルはさぞかし面白い反応をしてくれそうだよね。やらないけどさ。


邪気があるカイルは容赦なく遊び道具にできるけど、無邪気なカイルで遊ぶ気にはなれないソフィアさん。

一方的に弄るだけだとイジメになっちゃいますからね。

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