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尽きない闘志


 エステラは語った。ミュラーがどれほど素晴らしい存在なのかを、そりゃもう長々と語り尽くした。


 ミュラーがどれだけ凛々しく、どれほど誇り高いのか。皆の憧れでありながら希望の象徴となるのがどれだけ凄いことなのか。


 王様にも負けないカリスマの持ち主で、全国民がミュラーに恋して全国民がミュラーの戦いに涙を流したのだという虚言でさえも混じえて、感情豊かに、それはもう延々と、聞いてるだけで「ミュラーすごーい」以外の感想が出なくなるくらいに語り切ったのだった。


 もうねー、ちょっと身体が震えちゃうくらいすごいよねー。

 ミュラーを見る目が確実に変わっちゃいましたよ。ってかミュラーってば本当にスゴすぎ。


 これだけの恥ずかしい称賛を自身に向けられているというのに「興奮しているのね」の一言で笑って済ませられるその心の広さはどういうことよ? まるで称賛を受けることに慣れきった百戦錬磨のアイドルのようではないか。


 私はもう、ふかぁく反省したね。

 私はミュラーのことを大きく見誤っていたのだと、認識を改めざるを得ない出来事だった。


 だってこのエステラの熱量、向けられてたのが私だったら半分くらい聞いたあたりで間違いなく「もう黙って」とか言ってる事案よ?


 前半の「勇気を貰った」云々くらいならまだしも、後半なんて嘘八百もいいとこ。「皆がミュラー様の無事を祈って」とか「誰もが涙を禁じ得なかった」とか、まるで私の存在を無かったことにするような発言ばっかでさ。次があったら泣いてない顔で視界を塞いでやろうかとか思ったよね。


 仕舞いには私たちのことを指して「崇高なるミュラー様に相応しい御友人方」だもん。よく言うよね。ホント、あれ聞いた時にはエステラの正気を疑ったよ私は!


 事実を知る本人が真横にいるってのに、よくもまあ都合の良い話をべらべらと。


 私、エステラには舐められてた記憶しかないんだけどなー。ミュラーの良さを理解出来ない残念なお子様扱いされてた気がするんだけど、あれは私が見た夢だったのかなー。どうなんだろうなーぁー!


「……それで、ソフィアはなんで不機嫌そうなの?」


「……えっと、分からないけど、多分お兄さんに会いたい気持ちが我慢できなくなってる、とか……?」


 小声でひそひそ話そうと私には聞こえている。


 残念、カレンちゃん。それは違うんだ。

 今の私が不機嫌な理由は「個人の『戦いたい』ってワガママだけでこれだけの人を巻き込んで大事にしたミュラーよりも、私の方が人としての器がちっちゃい」というのが証明……されてはないけど! それっぽい感じになっちゃったのが気に入らなくて! 私は不満に思っているのですよ!!


 オマケに包帯ぐるぐる巻きの「敗者ここに極まれり!」みたいな格好してるくせに、ミュラーにはファンまでいることだしさ。なんか人間的に負けてる感じがスゴいじゃん。スゴくやばいじゃん。私の惨めさの引き立ち方がさ。


 ……まあ、格好良く剣聖に立ち向かった友人を見て最初に思い浮かんだ感想が「よくやるなぁ」だった時点で、自分が悪意を振り撒くに足る存在であることは自覚してるけどさ。それでもやっぱり人並み程度には、良い人になりたい願望もあるわけでして。


 でもこの世界で他人と比べてる時点で私が「善い人」になれる可能性なんてないのよね。誰選んでも勝てる気がしねー。変態にすら善い人度では負けてそうとか普通に精神にクるからね! だからそんなこと、気にしないことに限る!!


 ――はい、というわけで。不快な心は取り除いちゃいましょうねー。


 悪意はギュッと吸って集めて固めて、アイテムボックスにポーイ♪ ペットへのお土産の完成である。


 大分スッキリとした頭で、興奮が一周まわって恥ずかしさに転化したエステラのフォローをすることにした。


「エステラ。憧れのミュラーに会えて、言いたいことは全部言えた?」


「ふぇえっ!? ……は、はいぃ」


 なんかカレンちゃんみたいな悲鳴が出たな。これがさっきまで熱弁を奮っていた女の子だとは……なんだか不思議な感じがしてしまうね。


「ソフィアは私に、何か言うことは無いの?」


「え?」


 もうちょっとエステラをけしかけて遊ぼうかなとか考えてたから、一瞬ミュラーに何を言われたのか理解出来なかった。


 言うこと? 言うこととはなんだ。そんなもんないけど?


「……えっと?」


 意図がわからず、ミュラーの顔を見つめる。


 ミュラーの瞳は、思ったよりも真剣な色を帯びているように思えた。


 ……………………ふむ。


「……満足した?」


「まさか」


 笑い飛ばそうとして、「イタタ……」と痛みを訴えるミュラー。自身が怪我人であることを忘れていたらしい。


 その姿を見て、私は思わず吹き出してしまった。


「はは、あはは! そっか。なら、リベンジしないとね。負けたままなんてミュラーらしくないしね」


「当然!」


 不敵に笑うミュラー。

 傷だらけの身体になっても、戦う意思は欠片も挫けていないようだった。


 ――戦いに燃えるミイラ、ここに爆誕。


「くふっ、……!?」


 頭に浮かんだ一節に爆笑しようとした時。不意にゾクリと悪寒を感じた。


 …………ん? ミュラーが、リベン、ジ……?


 ……私って、ミュラーに勝ち逃げ、してたような……?



 ――あ、やっばい。


 ひゅっと血の気の引いた顔でミュラーを見ると、私の視線に気付いたミュラーは、口角を挑発的にニィッと吊り上げて見せた。


 …………や、やだー。


「ところで、リベンジって何?どういう意味?」

「あー……。復讐、再戦、負けた借りを返す、みたいな……」

「ソフィア。リベンジするから楽しみに待っててね?」

「丁重にお断りしますッ!!」

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