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ごたーいめーん!


 その身をもって戦闘の激しさを証明した司会のおねーさんに代わり、誰よりも高い位置で観戦していた王様が「実に素晴らしい戦いだった!」と声を上げミュラーの健闘を称えたことで、この度の突発的お祭り騒ぎは終幕となった。


 皆に尊敬されてるお偉い国王陛下様は、なんかその後も「未来ある若者が――」とか「高い(こころざし)を持って――」とかなんやかんや言っていたけど、私はこの戦いが些細な一言から始まったことを知っている。


 ……とはいえ、ミュラーが本当に何も考えずに、ただ戦いの機会に飛びついただけ、なんて思ってはいない。思っていないからこそ、ミュラーなりに考え、選択した結果であるはずのあの戦いを、外野にしか過ぎない王様がミュラーの気持ちさえも無視して好き勝手に脚色し、「だから皆も向上心を持ちましょう」なんて国民を操る材料に変換した事実に対し、私は言いしれない不快感を覚えていた。


 そう、不快感だ。不愉快極まる負の感情。

 それはまるで、見たくないものを無理やり目の前に突きつけられたかのようで。


 ……せっかく今まで気にしないようにと努めてきたのに。


 その努力を嘲笑い、あまつさえ集まった国民の前で、私の罪の深さを晒しあげるかのような……そんな不快感。


 ――私は、知っているのだ。国王という影響ある立場の人物が何故あのような発言をしたのか。何故、騎士を増やそうとするかのような言動をとったのかという、その理由を。


 ここ数年で異常と呼べる程の集め方をしてもまだ足りず。未だ数多(あまた)の騎士を必要としている、その理由(諸悪の根源)を。


 ……見たくないものからは目を逸らす。それが私の生き方だ。


 変える気は無い。変えられる気もしない。だが、それでも辛くなる時が無いとはいえない。そんな時にはどうするか。そんなものは決まっている。


 そういう時は気分転換でもして、憂さをさっぱり晴らすに限るでしょう!!



 ――と、いうわけで。


 所変わって、ここは闘技場の救護室。

 ミュラーが運ばれて行ったその部屋に、私とカレンちゃん、エステラの三人は仲良くお邪魔しているのでありました。


 私達が訪れた時には、既にミュラーはベッドの上で退屈そうに剣を振っていたりなぞした。頭も肩も腕も、見える箇所はおおよそ全て包帯まみれで、まるでミイラの新型開発現場みたいな有様だったけれども、本人は元気に動いているし魔力残量も問題なさそうだった。大きな怪我は無かったようでなによりである。


 問題があるとすれば、それはお見舞いに来たこちら側の一人にあるんじゃないかと思うね。今のところ失神とかはしてないけど、それはあくまでも「今のところは」でしかない。(しばら)くは注意して見ておかねばなるまい。


「みみみゅミュラはサま!? おおおお会いでキて光栄ですワ?!?」


 ――エステラはー、出会ったー。憧れの剣士ー、剣姫ミュラーその人とぉー。


 不幸になる人がいない、誰もが幸福になりなおかつ私の気分も上向くという最高の娯楽……げふんげふん。

 私の親切心に震えて喜んでいるエステラを見ていると、私もとっても優しい気持ちになれるね! ああ、喜んでもらえて良かったなあ! 紹介した甲斐があるなあ!


「ええと、ありがとう……でいいのかしら? ……ソフィア、カレン。この子、なに? 誰? どうしてここに連れてきたの?」


 ミュラーの顔面には大量の治療痕があるが、今のエステラにはそんなもの、目にも入っていないようだ。


 素っ気ない対応をされたにも関わらず「はにゅわ!」と謎の鳴き声を上げ感動に打ち震えている。彼女にとってはミュラーに見つめられるというその一事が何よりの重大事であるらしい。実に幸せそうな顔でトリップしていた。


「そう邪険にしないでよ。彼女は一緒に観戦してたエステラちゃん。剣姫様にものすごーく会いたがってたから連れて来ちゃった♪」


「その……怪我してるのに、ごめんね? …………試合、残念だったね……」


 ――などとエステラの反応を堪能してたら反応が遅れた。


 カレンちゃんがシリアスな空気(えあー)召喚の儀式を初めてしまったが、対応の遅れた私はあざとい演技がスルーされたショックで動くことが出来ない。道化役へと堕した私は、大人しく存在感を薄めていることとしよう……コソコソ。


「ああ、そうよね、見ていたのよね。……あはは、残念と言えるほどの内容でもなかったでしょう? 私ももう少しくらいは戦えると思っていたんだけど、結果はこのザマ。情けないわよね」


「!? そんなことないですッッ!!!!」


 ――自虐するミュラーの言葉を力強く否定したのはエステラの絶叫だった。


 私もエステラに同意見。

 私達だけじゃなくて、あの試合を見ていた全ての人がミュラーのことを「凄い人だ」と認識したに決まってる。情けないなんて思うわけない。


 ……そう、私も伝えられたら良かったんだけどね。


 困ったことに、私にはそれを伝えられない理由があった。


 あのね、シリアスな場面って、よく小声で心の声的なもの漏らしたりとかしてるでしょう。私あーゆー聞こえそうで聞こえない声って嫌いなのよね。


 だから聞こうとしてたの。聴力上げて。

 そしたら聞こえてきたの。エステラの絶叫が。真横で。


 …………耳が。耳がキーンってするよぅ……。


 今はちょっと、何も出来ない。

 ミュラーの弱気を否定する役目は、御二方に譲ることとするよ……ううぅ……。


軽快に剣を振る新型ミイラ。その名はミイラー。

包帯をグルングルンに巻いて動きが阻害されてたとしても、中の人がミュラーである限り、多分大抵の人には余裕で勝てる。ミイラの時代の幕開けである(開けません)。

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