表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
938/1407

試合が終わって


 ――試合はあの後、すぐに決着した。


 魔力を全放出したミュラーのどこにそんなに魔力が残っていたのか未だに謎なんだけど、とにかくミュラーはあの後、バルお爺ちゃんが近くにまで寄ってきた途端に弾かれるように飛び出して、一撃目で剣を弾かれ、返す二撃目を反応も出来ずに敗北した。


 地面を転がり、ピクリとも動かなくなったミュラーを見たエステラが「ミュラー様ああぁぁあ!!」って叫びながら飛び降りようとしたりしてもーー大変だった。何が大変って、スカート姿で手摺乗り越えようとするから後ろにいた全ての人にスカートの中身を晒しそうになってね、カレンちゃんやエステラの両親と一緒に頑張ってなんとかエステラを押し留めましたよ。主に押し留めてたのはスカートだけどね。


 エステラのお父さんなんかジタバタする足にアゴとか蹴り上げられてたからね。ゴッ! って音鳴ってたよ、ゴッ! って。


 めちゃくちゃ痛そうな音してんのに、エステラってばそんなの気にもしないでしばらく暴れまくってたからね。

 痛みに震えながらも娘の痴態(スカートの中身)を隠すことを優先する姿を見て、思わず「父親ってどこも大変そうだな……」なんてことを思ってしまった私がいます。あんな可哀想な姿見せられちゃったら、今日は帰ってからお父様に、ちょっと優しくしてあげようかな〜とか思わずにはいられませんよね。


「うぅう、ううぅぅぅ〜。ミュラー様ぁ……」


 まあそんなわけで、今はエステラ父の介抱に向かったエステラ母に後を託され、カレンちゃんと二人でエステラを見張っているわけであります。


 見張りはついでで、むしろ今はミュラーの戦いについての感想がメインになってるけどね。


「ミュラーがあんなに一方的にやられちゃうなんて思わなかったよ……」


「そうだねー。バルお爺ちゃんが強いってことは知ってたつもりだったけど、まさかあんなに差があるとは……」


 いやホントびっくりですよ。あの鬼強いミュラーを完全に圧倒してたもんね。


 とはいえ、速度は多分互角だったと思う。

 距離があったから細かい魔力の動きまでは見えなかったけど、少なくとも私の目には、二人の動く速度にそれ程大きな差は無かったように思う。


 ミュラーがお爺ちゃんに完敗してたのは技量の方。あと戦術。


 ――地に足をつけて。剣を振るって。相手の行動を受けてすぐさま次の行動に移す。


 こう言っちゃ身も蓋もないんだけどさ。戦いなんてものは所詮、これの繰り返しに過ぎない訳よ。


 相手を倒す。その為には攻撃を当てる必要がある。その為には攻撃を当てやすい状態にしなくちゃいけない。その為には。その為には……ってのを、ずっとずっと繰り返して、相手の想定を上回った方が勝つ。ただそれだけのこと。


 それらをやりやすくする為の事前準備の結果が、筋力や剣術の習熟度合い、思考の速度、頭の良さなんかになってきてさ。そーゆー諸々の総合力で上回った方がこーゆー試合で勝てるんだろうなって、そう思うわけさ。


 だから当たり前の話ではあるんだけど、勝者であるバルお爺ちゃんの方が、ミュラーよりも効率的で合理的な攻撃、防御を選択し続けてたんじゃないのかなーって。剣術初心者のソフィアさんは思ったのだったとお話でした。ちゃんちゃん。


 ……いやあ本当に。本当に熱い戦いだったからね。思わず好きでもない剣術の考察なんかしてしまいましたよ。戦いは野蛮なものと断じてる私が言うんだから相当ですよ? サッカーのワールドカップとかテレビでやってても余裕で消せる私だけど、さっきの戦いが生中継とかでやってたら多分目を奪われてたんじゃないかな。そのくらい見応えのある、実に良い勝負でした。


 ……まあ、結果はミュラーのボロ負けだったわけだけどさ。


 ミュラーがこれに懲りて対人戦控えるようになったりしたら私としては万々歳なんだけどね! ま〜ないだろうね! 逆に勝負を吹っ掛けられる機会が増えたら私はバルお爺ちゃんに恨み節を言いに行く用意があるよ!!


 バルお爺ちゃんも脳筋族で話があまり通じない人種だけど、万が一その時がきたらこう言ってやるんだ。「私、育毛剤の伝手あるんですけど」って。「その髪の毛、それ以上減らさないようにお手伝いできるかもしれませんよ?」って。


 お父様が言ってたもんね。「髪の毛は心を守る鎧」だって。

 戦闘民族のバルお爺ちゃんならさぞかし鎧は大事にしていることでしょうね。フハハハハ!


 もしこの試合のせいでミュラーが凶暴になったとして私には退路が約束されている! だから平気! 怖くないもん! 「折角だからミュラー、療養って事でしばらく寝てればいいのになー」とか考えてないよ!


 ――なんて考えたタイミングに限って心臓に悪い言葉が掛けられるのは、実は何かの呪いだったりするんでしょうかね。私にはとんと心当たりが無いのですが。


「貴女達はミュラー様の御学友なんでしょう!? なんでそんなに落ち着いていられるのよ!! ミュラー様が心配じゃないの!?」


 泣きながら振り向いたエステラに何故か逆ギレされてしまった私達は、互いに顔を見合わせる羽目になった。なんとなく私が先に言う流れっぽい気がする。


「……だってミュラー、外傷無かったし? あれ気絶してただけでしょ。そんなに心配しなくても大丈夫だよ」


 魔力は、まあ、子供並みにまで減少してたけど。生命維持には何の問題もない。


 真剣での勝負ってこと考えたら無傷の範疇でしょあんなの。


「私も、ソフィアと同じ意見。剣聖様、ちゃんと剣の腹で叩いてたから。ミュラーなら大丈夫……だと、思うよ」


 というわけで、ミュラーの友人側としては「大丈夫」で満場一致。心配事はないのですよ。


 そもそも真剣使ったあの激しい戦いで、お互い被害なしって……。


 冷静に考えると凄まじいよね。私にはやっぱり剣は無理だな!


剣聖様の毛根は未だ存命です。

そもそもセリティスは公爵家なので、ソフィアを通さなくても育毛剤は手に入ります。というか、元締めのロランドに直接頼めます。ソフィア要りません。

ソフィアの力を必要としているのは、もっと立場が弱くて、心の鎧に綻びが見え始めた……ソフィアの父親とか、じゃないですかね……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ