剣聖vs剣姫 必死の剣姫
私、自分でもよくやるから知ってるんだけどね。魔力って結構簡単に爆発するんですよ。
高圧縮状態から何も考えずに解放したり、圧縮密度が低くても何かにぶつかれば簡単に破裂するしね。あと性質の違う魔力の層を勢いよく突破しようとしてもやっぱりそこそこの爆発が起こる。魔力を潤沢に含んだ魔石が危険物として扱われるのもよく分かる爆発っぷりなんですよこれがまた。
そんな爆発マイスターの私だからこそ分かる。
今起こった爆発は、衝撃波が起こしたものじゃない。
高濃度の魔力を纏った剣が、同じく高濃度の魔力を纏った剣に衝突したもの。使い切りじゃない減衰ゼロの魔力をぶつけ合った時にのみ起こりうる大爆発。爆心地付近なら、下手すると腕とか吹っ飛ぶ威力じゃないかと。
いやね、ほら。「相反する属性が交われば最強になる」みたいなのってあるじゃん。火と水の魔法を合わせたら最強魔法完成的な。そんで操作性悪いけど密度のむっちゃ濃い魔力と、操作性抜群だけど操作性良すぎてむしろ扱いづらい魔力を力技で混合してみようとした事があるのよ。こう、両の手のひらでそれぞれの魔力塊作ってね。「合体!」ってなノリで。
いやマジで、あの時は死ぬかと思ったね。手の中で魔力が膨れ上がった時には走馬灯が過ぎったもんね。お母様にありとあらゆる方法で責められる想像を走馬灯と呼ぶならだけど、とにかく「これは確実に部屋が壊れた」と思ったもんね。
まあその時は、視界にリンゼちゃんが映って「部屋の前にリンゼちゃんが壊れる!!」って死ぬ気で暴発防いだんだけど。あの時に要した結界の強度から察するに、部屋を吹き飛ばして屋敷は半壊、くらいの威力はあったんじゃないかなと。ハイ。その様に思いますね。
んで、今みんなが見守る闘技場のド真ん中で起きた爆発。アレがちょうど、あの時の爆発と同じくらいの威力じゃないかなーと思うわけで。
砂埃がもっくもっくしてて戦場に近い観客席では悲鳴が実に賑やかしい。被害に遭ってない人達も「どうなったの!?」「何が起きたんだ!?」と大パニック。
その様子から察するに、卓越した剣技の人同士が戦う闘技場でも、こういった事態は珍しいのかもしれないね。
「何!? 見えない!! ミュラー様はどうなったの!?」
「まだ……戦ってる……! 戦ってる音、聞こえてくる……!」
慌てるだけのエステラとは違い、カレンちゃんには戦いの様子が薄ぼんやりと見えているようだ。魔力視に慣れれば煙幕とか意味ないからね。まあそれを逆手にとった戦い方もあるんだけども。
とにかく、魔力視ができない人には残念だけど、二人の戦いはまだ続いている。むしろ漸く良い戦いになってきたと言える状況。やっぱ戦いって力関係が均衡してないと見ていて面白くないよね。
バルお爺ちゃんは魔力をたっぷり込めた一撃を避けさせるつもりだったんだろうけど、ミュラーはそれを避けずに真っ向からぶつかりに行った。爆発を意図して引き起こした。
当然のように反応したバルお爺ちゃんに被害はないけど、爆発から身を守ったお爺ちゃんに対し、ミュラーはこれまでのお返しとばかりに爆発の余波を突っ切って攻撃を選んだ。視界も聴覚も封じた上での絶妙な奇襲。
結果、バルお爺ちゃんは受ける側に回った。こうなれば後はもう、立場を逆転した先程の焼き直しだ。
受ける剣聖、攻める剣姫。
一撃の軽さは手数でカバーし、力業はきっちりと回避。
バルお爺ちゃんが嫌がる攻めをチクチクチクチクと繰り返す様は、まるで鬱陶しい時のカイルの口撃を思い起こさせるしつこさだよね。
それでもやっぱり技量差は大きいみたい。
ミュラーが受けに回っていた時と比べてバルお爺ちゃんの防御には無理が少なく、反撃に出てる回数が明らかに多い。ミュラーが捉えられるのも時間の問題だろう……と思っていたまさにその時。私が注視している中でそれは起こった。
「奮っ!!」
「がっ、は!!」
うっわぁ。切り返した剣の横に魔力で作った剣閃並べるとか酷過ぎない? それも五重って、それもうほぼ面攻撃じゃないですか。
身体を捻ってなんとか躱そうとしたミュラーだけども、回避に成功したのは三つ目まで。四つ目の攻撃は掠る程度に抑えたものの、五つ目は直撃。威力は減衰したが、防御を抜けて脇腹にモロに入ったように見えた。うーわ痛そー……。
「えっなに今の声!? まさかミュラー様が押されてるの!? いやー! ミュラー様頑張ってえぇ!!」
エステラ見えてないくせに元気だな。
そんな事を頭の片隅で考えつつも、意識は依然二人の戦いに集中している。バルお爺ちゃんはここで試合を決める心算らしい。吹き飛んだミュラーに容赦の無い追撃が迫る。
あー。これはもう決まっちゃったかなーって――
「ッぁあァあああアア!!!」
思っちゃった思考を闘技場ごと吹き飛ばすようなすんごい獅子吼。声と同時に私の視界が真っ白に染まる。
これは光じゃない。魔力だ。ミュラーから放射状に放たれた濃密な魔力が視界を塞いだ。
魔力視の調節をすれば、晴れた砂埃の中心でミュラーが剣を支えにしながらもなんとか立ち上がる姿が見えた。一方、バルお爺ちゃんの方はと言えば――
「――ハッ。この負けず嫌いめが……」
お、おおおおお!? バルお爺ちゃん膝付いてるじゃん! ミュラーってばすごいな!!?
……とはいえ、被害の差は歴然。
最早立っていることさえ辛そうなミュラー比べて、バルお爺ちゃんはまだ余力を残している。
――今度こそ勝敗は決したかな。
残念ながら勝つことは出来なかったけど、ミュラーも凄い、大健闘したと思うよ。
「ッぁあァあああアア!!!」
「ぎょぺ!」
壁際まで退避してても巻き込まれる、エンターテインメントの体現者。
名物司会者である彼女の逃げっぷりを楽しむファンも一定数はいるらしい。




