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剣聖vs剣姫 剣聖の猛撃


 ――ミュラーとバルお爺ちゃんの戦いがガチ過ぎてヤバい。


 特にバルお爺ちゃんの方。

 剣の太さが倍以上も違うのに、そんなことは全く気にせず太くて重そうな聖剣を小枝みたいに軽々と振り回して、ミュラーの奏剣を叩き折ろうとしているかのようにガンガンガンガン叩きまくってる。剣のぶつかり合う音が一向に止む気配がない。


 ミュラーはちゃんと防いでいるし、今のところ防げていることに違いはないんだけど、それでもギリギリ防げているだけという状態なのが伝わってくる危うさがある。


 ――気を抜いた瞬間に勝負が決まる。


 そんな緊張感がミュラーから伝わってくる。……その気配は、この場にいる誰もが感じているようだった。


「あああああ!! ミュラー様! ミュラー様頑張って下さい!!」


「わっ、あっ、ひゃあ! ああ、ミュラー押されてる……。やっぱりバルスミラスィル様、強い……!」


 エステラもカレンちゃんも。二人の戦いに首ったけだ。


 興奮し過ぎて手摺から落ちないよう注意して見ておこうと思った次の瞬間には、ガギィン! とまた大きな音がして、ミュラーが受け流し損なったのを伝えてくる。これでもう六回目。前回からの間隔も短くなってて、ミュラーの防御が通じなくなるのも間近だと分かる。


 ……正直、ミュラーが防戦一方になるとか予想外だった。


 もっとこう、攻めるミュラーをバルお爺ちゃんが余裕の貫禄で受け止めるような試合展開になるものと思っていたから、あの場所で身を縮めているのがミュラーだということにどうも実感が湧かない。現実味が無い。


 理屈は分かるんだ。ミュラーの得意とする剣術は制する剣術。


 相手の初動を止め、流し、行動自体を無力化し、相手に「何をしても通じない」と思わせることこそがミュラーの剣術の本当の怖さ。その恐怖から逃れるためには、初動を捕えられないようにする事、つまりはミュラーと剣を交えないような戦い方が効果的だ。


 その答えのひとつが、今バルお爺ちゃんがやっている戦い方。

 要は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()みたいな。んなもん出来たら誰でもやってるわ的な攻略法。


 単純な力押しとはちょっと違う。ミュラーの攻撃が速いということは当然、回避能力だって高いということ。


 そのミュラーに、力押しを押し付けてる。

 剣を受ければ必然、次の攻撃がその分遅れることになる。後の先を取りたいミュラーは相手の攻撃を剣で防ぎたくない。足を使った回避を心掛けてるはず。それなのに。


 私たちの目に映るのは、バルお爺ちゃんの攻撃を殆ど剣で受け止めているミュラーの姿。足は基本動かさず、動かすとしてもそれは一歩分の後退をする時だけ。それ以外では地に縫い止められたように動かない。


 分かる。その理由が分かってしまう。だって剣が、剣戟の位置が、あまりにもミュラーに近い。


 通常、剣を振るう時には助走をつける。振りかぶるのも良いし、腰だめに構えるだけだって良い。実際に走って勢いをつけることもあるだろう。


 なのにバルお爺ちゃんは、その予備動作を必要としない。構える暇があるのならその時間で一撃でも多くと、弾かれた剣すら腕力でねじ伏せて攻撃の為の刃と成す。初動なんか突然生まれる無茶苦茶な剣。


 けれどその剣には威力がある。合理がある。


 引いて躱すには近過ぎて、避けて躱せば次が来る。無理な体勢になれば防げない。避ける選択肢は選べない。


 結果ミュラーは剣で受けるしかない。腕の力で無理矢理引き戻しただけなはずの剣が、ミュラーの剣とぶつかり甲高い音を立てる。押し勝てない。均衡した力を受け流す選択をした途端に剣は離れ、次なる攻撃が襲い掛かる。


「鬼か」


 思わず声が漏れてしまった。いやでも、あの攻撃はエグい。エグすぎる。私が受ける側だったら間違いなく降参してる。


 何が酷いって、受け流しが受け流しになってないのがちょっと理解出来ない。バルお爺ちゃん何処見てるんだろ? 目? 魔力? とにかくミュラーが次にどう動くのかを理解してるかのような正確さで押し引きの選択してるのがもうね、ミュラーが可哀想になるくらい見てらんない。


 何あれどんな仕組み? あんな完璧に動き読まれてたらそりゃ反撃どころじゃないじゃんね。むしろよくまだ耐えてるなって感心しちゃうわ。


「あっ!」


「いやぁあ! ミュラー様ぁ!!」


 なんて、じっくり観戦してる間についに攻撃が通ってしまった。肩を強打されたミュラーが派手に地面を転がったけど、あれはむしろ自分からいったっぽいな。その証拠にもう立ち上がって構えを取ってる。肩も問題なく動くみたいだ。


 バルお爺ちゃんは追撃を選ばず、今はひと息ついている様子。


 そりゃ年齢考えたらね。お爺ちゃん、ちょっと自分の年齢を忘れてはしゃぎ過ぎたでしょう。終始圧倒してて余裕ぶってるけどその体内では未だに魔力がギュンギュカ駆け巡りまくってる。その密度と言ったら先程の猛攻の時とほぼ変わらないくらいだ。


 あれはお爺ちゃん、魔力切ったら立っていられなくなるくらい疲れてると見たね。


 両者への応援が益々熱を増す中、外野の声などまるで意に介さない二人の会話が会場の真ん中で交錯する。


「剣姫などと呼ばれて図に乗ったか。ただの一度も反撃出来んとは、情けないとは思わんのか?」


「お爺様こそ、戦い方がらしくありませんね。私が怖いのではないですか?」


 わぁ、お爺ちゃんの剣に魔力がぐわんと上乗せされたよ。この闘技場って衝撃波対策どうなってんの? 下の方の席の人逃げてぇ!


「まだ立ち向かう元気はあるようじゃな」


「お爺様はお疲れでは? 休まれても構いませんよ?」


「ぬかせ」


 ――二人の姿が掻き消えるのと、異常な爆発音が聞こえたのは同時だった。


「ぶふぇあああぁぁげっほごほげほ!ま、まだ戦うならそう言っておいてくださいよぉ!!」

ついでにどこぞの司会者の悲鳴も爆発音に紛れつつ確かに響いた。

二人が何を話しているか中継すべく近付いたら巻き込まれたらしい。司会者としての心得も一応、持ち合わせてはいるようだ。

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