お姉様を祝福しよう
「お兄様ぁぁぁ」
「ほら、そんな顔しないで」
この傷心を癒して。
もうなにこれ。こんなのってないよ。
そりゃ確かにお姉様とロバートさんの恋の応援もしてたし、結婚させるつもりではあったよ。
でもお姉様があの蕩ける笑みを私以外に向けてるのを見た瞬間、胸が軋むのを感じたんだよ。
こんなにショックを受けるなんて思わなかった。
私、お姉様に依存してたんだなあ。
「ソフィア! 泣いているの!?」
え?
言われて初めて、頬を伝う液体に気付いた。
あはは、これくらいのことで泣いちゃうなんて。
「どうしよう! 私、ロバートとの結婚やめた方がいいかな!?」
待ってお姉様、待って。それはさすがに鬼畜が過ぎると思う。
思わず涙も引っ込んじゃうくらいのびっくり発言だよ。
ロバートさんも、えっ!? って顔で見てるし、そんなことされたら私も罪悪感で押し潰されちゃうから絶対やめてね。
「いえ、大丈夫です。お姉様が幸せそうなのが嬉しくて……」
うん。お姉様が幸せそうでうれしい。
ただ結婚して家を出るということは、今までのように朝から晩まで一緒に居られなくなることでもある。
その日々を想像して、寂しくなっちゃっただけだ。
「そう? 本当に大丈夫? ソフィアの為だったら私、なんでもするからね」
「ありがとうございます、お姉様。そのお気持ちだけで十分ソフィアは幸せですから」
だからほんとにやめてね。
お姉様が言うと本当になんでもしちゃいそうで怖いから。
「それと、おめでとうございます。お姉様が幸せを掴んだことが、なによりも嬉しいです」
「――ありがとう」
ああーいい笑顔だなあー。やっぱりロバートさんのこと好きだったんだなあ。
まあそれは分かってた事だしいいんだけど。
それよりお兄様が微笑ましいものを見る顔で私を見てる気がするんだけど、私そんなに寂しそうな顔してるのかな。いや泣いたりしてたし今更か。
「そういえば姉上。このあとのことは大丈夫なのですか?」
「このあと?」
「結婚すると決めたのなら、ほら。父上に報告しないと」
それね。
お父様、素直に認めないだろうけど、お姉様のこと大好きだもんね。不機嫌にならないといいけど。
「アリシアと一緒になるために必要ならなんだってするさ」
「ロバート……」
うわぁ、一瞬で甘い空間が発生した。
……ロバートさんこんな人だったっけ? いやお姉様もだけど。
私がいない間にいったいどんなことが行われていたのやら。
本当、見たかった。見たかったー!
あのメンバーでロバートさんをここまで前向きにできるとは考えにくい。
となれば必然、ブライさんが焚きつけたんだろう。
いい仕事をしてくれたのは確かだけど、私のいる時にして欲しかったなー。期日まだあったし、っていうかお父様達の用事さえ入らなければ何も問題なかったのに。
でもそれだとアンちゃんとメイちゃんを助けられなかったことを考えると、行ったことに後悔はない。ないけど、お姉様がプロポーズされて乙女チックに胸をときめかせる場面は見たかった! とても見たかった!
むしろ私はなぜ見ていないんだろう。
姉のかわいいところを余さず把握するのは妹として当然の義務ではないか?
姉の初恋も、初恋を自覚して胸キュンとするところも、真剣な眼差しで見つめられてドキドキするところも、プロポーズされて顔が熱くなるところだって、妹はその全ての場面に立ち会うべきだと思う。
なのにそれが為されないなんて、運命を司る神様が仕事をしていないとしか思えない。
神様ちゃんと仕事して。
あと怠慢の賠償としてお姉様のかわいい場面を集めた映像記録を所望します。
頼みますよーホントに。オーマイゴッドってやつですよ。
「ソフィア、二人きりにしてあげよう」
「……はい」
あー、甘々な空気醸してるお姉様もかわいいなー。
神様はもっと私に優しくするべきだと思う。
オーマイゴッド。オーマイゴッド。