ミュラーの次なる恋の相手は!?
「……憧れている人がいるのよ」
ミュラーがバルお爺ちゃんへと挑む理由。
それを聞いたのは私だけど、まさかこんな答えが帰ってくるなんて思わなかった。
憧れ? えっ、それって好きな人ってこと!? まさかウォルフのことをまだ……ってわけじゃ、ないんだよね?
突然の恋バナ展開にカレンちゃんも前のめりになっております。 もちろん、私だって興味津々。
これはもう、話を聞くまで収まりそうにありませんよ〜!
「で? 誰? 私の知ってる人?」
「そうそう、誰のこと!? ミュラーが憧れるってことは剣術の得意な人? あっ、まさかバルスミラスィル様に憧れてるとかそういう話!? バルスミラスィル様はとても魅力的な方ではあるけど、流石に家族ではダメだよぉ〜!」
……カレンちゃんが荒ぶっておられる。
普段は大人しめの美少女がくねくねと見悶える姿を見て、ちょっと熱が引いた。これが傍目八目ってやつかな。
というか、えっ? カレンちゃんってバルお爺ちゃんに憧れてる系?
いつもは人見知りするカレンちゃんがバルお爺ちゃんにだけは普通に寄っていくの、年寄り=ノット男の図式かと思ってたのに、まさかの憧れ? カレンちゃん枯れ専なの?? へえ〜〜。
バルお爺ちゃんを指して「枯れてる」という単語が妥当かどうかという部分に疑問は残るけど、ふーんそっかぁ。カレンちゃんがねぇ。そっかそっかぁ。うん。
……なんとか頑張って恋愛感情だって事にこぎつけたいけど、十中八九、バルお爺ちゃんの強さに憧れてるとかそんな理由なんだろうなぁ。
カレンちゃんって、何故か強さへの執着すごいし。
戦い好きが高じて強くなった感じのミュラーとはまた違った意志の強さっていうか、強さというより「剛の者」? 誰かに勝ちたい負けたくないみたいな強さじゃなくて、雨ニモマケズ風ニモマケズ的な概念としての強さを求めてる感じがする。
そしてそのよく分からん目標に、着々と近付いていってそうなのが分かっちゃうっていうのがまたね。
美少女って世界の財産なんだから、危ないことなんてしない方がいいのにね。
万一カレンちゃんが顔に一生残る傷なんか負ったら、私は友人の怪我という理由じゃなく美少女の損失という理由で泣いちゃいそう。そんで我慢出来なくなって治療魔法を研究して治してあげたら、「ソフィアがいればいくら怪我しても大丈夫だね!」とか言われて今度は絶望に涙するんだ。くそう、妄想のくせに現実味がありすぎるぞ……?
どうせ妄想するならもっと楽しいことがいいな。
例えば、そう。ミュラーがその憧れの恋人とキャッキャウフフして腑抜けてる感じのやつ。
世界中の幸せを凝縮したような甘々空間で砂糖吐きそうな程に激甘なテンプレ行動てんこ盛りとか? 見ているだけでも恋したくなるくらいだとなおいいな。
ミュラーって戦うの大好きすぎるけど、意外と恋愛関係も興味ありそうだからね。一度ハマったらどっぷり浸かるんじゃないかと思ってたりする。
ただミュラーは有名人でもあるから、そんな大恋愛ができるかは相手の度量に拠るところが大きいかなーって……思ってたんだけど。
「ソフィアもカレンも知ってる人よ。……剣は、まあ、そんなに上手くはないんだけど……」
「「え!?」」
二人揃って「でも一所懸命で」という続く言葉をかき消すほどの大声を上げてしまった。馬車の外から聞こえていた、恐らくバルお爺ちゃんの乗る馬の規則的な足音さえも揺るがす一大事。
いやでも、だって、ミュラーが剣の下手な人に恋したって……!? 剣の腕前が向上しないことが原因で破局した、ウォルフの後に!!?
「そそそそれってそれって、もしかして恋なんじゃないかな? ううん、きっと恋だよ! ミュラーが剣の腕前もない人に憧れるなんて、そんなの恋以外の理由があるわけないよ!!」
……いや、カレンちゃん。そんな断言しなくても……。
その人にだって他の人にはない、その人だけの特別な魅力があるのかもしれないじゃないですか。
例えばほら……えっと、か、顔が良いとか? あと優しい、はそうじゃない人が珍しいくらいだから、あーっと…………ミュラーの暴力性を受け止める大きな器……と、とか……?
自分で言ってて自信なくなってきた。
ウォルフも顔は良い方だったけど、あのくらいなら学院にはゴロゴロいるしなぁ……。
「それで告白はいつするの? 協力は必要? それとももう告白済みで返事を貰ってたり?」
とりあえず勢いで押して追加の情報をポロリしないか狙ってみた。が、事態は想定の更に上をいっていた。
「本当にそういうのじゃないんだってば! ……それにあの人はもう、結婚もしてるし……」
「「ええええっ!?」」
余所の旦那……っ! 横恋慕……!?
うひゃあ〜! ミュラーってばいつの間にそんないやらしい子になってたんだい!? 私はミュラーをそんな子に育てた覚えはありませんよっ!
――なんて、カレンちゃんと二人で騒ぎ過ぎたらしい。
バァン! と突然大きい音を立てて扉が開かれ、バルお爺ちゃんが走行中の馬車に飛び移ってきた。
「さっきからどうした! 何かあったか!?」
どうしたも何も。お宅のお孫さんがドラマティックな恋愛を……あれ、これバラしてもいいやつなのかな?
バルお爺ちゃんの乱入により、私達は程よくクールダウンする機会を得られた。恋に恋する女子トークは閉幕の時を迎えたのだ。
「ミュラーが憧れてて、剣は上手くなくて、既に結婚している……。まさか私のことじゃないよね……?」
実兄と幸せな新婚生活を送る妄想をし過ぎたせいで、ソフィアの脳は若干バグっているようだ。




