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【王国最強】


 受け入れ難い性格さえ我慢出来れば、話の内容は結構役に立つこと知ってるんだよね、この人。


 カレンちゃんを庇護しつつ心を無にして聞いた説明によれば、これから始まろうとしている決闘はセリティスの人間が生涯に一度のみ挑むことを許された神聖なもので、この戦いに敗れると当代への挑戦権とその技の継承権利、つまりは指導される権利を失う代わりに、勝てた時にはセリティス家当主の座を譲られるのだという。


 新たなセリティス家当主が生まれるかもしれない一世一代のみの大勝負である。


 いやー、ありえないね。周囲の皆さんが揃いも揃って「早すぎる」というのもさもありなん。

 ミュラーは現時点でさえ相当強くはあるけど、それでもまだ伸び代はある。十年先か二十年先かは分からないけど、バルお爺ちゃんを越える剣豪になる未来はあるだろうに。何故今なのか。


 ちなみにロビンさんは、この権利を使うこともなくこれから先に使う予定もなく、剣術の鍛錬も昔からの惰性で続けているという剣術エンジョイ勢であるらしい。「妹に負ける程度の実力で挑む意味ある?」と聞かれたら、そりゃ現時点ではその通りかもしれないけどさ。未来は未定ってよく言うじゃんか。


 私も護身術程度の学び方しかしてないから他人の事をとやかくは言えないんだけど、そーゆー話を聞くとたとえ(かな)わないと分かっていても挑む事を選んだミュラーが殊更に格好良く思えてくるよね。なんで今なのって疑問は尽きないけど、リスクを承知で挑むのは相当の覚悟がいることだろう。私そーゆーの苦手だから尚更すごく思えてきちゃう。


 今にして思えば、ミュラーがやけに私に絡んで来てたのもそれが理由なのかなって。


 近々バルお爺ちゃんに挑むつもりだったからこそ、お爺ちゃんに一撃だけでも入れた私相手に勝利を収めて、自信をつけてから対決、みたいな?

 勝つか負けるかの追い詰められた時って心の強さが大事だもんね。諦めない理由はいくつあってもいい。私も魔法開発の時しょっちゅう諦めそうになってるからよく分かるよ!


 ともあれ、【王国最強】のセリティス家はこうして最強を上回る最強を当主に据え続けることによってその強さを磨き上げてきたのだそうな。正に武闘派の家って感じですよね。


「ふーん……。カレンの家もそんな感じなの?」


 ということは、当然、カレンちゃんのお家でも同じシステムが採用済み? だとしたらカレンちゃんもいつかはあの筋肉お父様と戦うのかな? と思って、同じく武門として有名なヴァレリーのお家事情を聞いてみたところ、ヴァレリー家にそのような仕来りは無いようだった。やはりミュラーのとこだけがおかしいらしい。


 まあ、そりゃそうか。武門の家というだけでどこもかしこも実力主義だけで当主を選んでたら秩序が崩壊してしまう。


 武門の当主たちは緊急時には騎士団の指揮を担う国防の要でもあるんだから、武力だけでなく頭脳だってそれなりに求められるに決まっている。むしろ人を指揮する立場にこそ知能というのは必要なものだ。個の強さのみで選んだ当主しかいない戦略会議とか方針決めるのにいちいち決闘とか始めそうだし「勝つまで進め(前進あるのみ)」以外の作戦とか立案できなさそう。いや、流石にそこまで考え無しではないだろうけどさ。


 勘違いしないで欲しいんだけど、私は別にミュラーのことをディスりたいわけではないのよ。むしろミュラーのことは尊敬してる。ちょみっとだけね。


 武力極振りの全員が全員、知能皆無のザ・蛮族なわけでもあるまいし。ミュラーが勉強できないのは……まあ文武両道って言葉があるくらいだから、元来武力と学力は両立が難しいものなのかなと。そう思うわけでして。


 私の知る中で一番の文武両道な存在はカレンちゃんなわけだけども、そのカレンちゃんでも学力に秀でている分、剣術ではミュラーに遅れを取ってるわけだしね。そこらへんはバランスというか、棲み分けというか。どちらが良い悪いとかは簡単に言えるもんじゃないよね。


「――だから外では天才だなんだと持て囃されるあいつもさ、家では結構大変な立場なんだぜ。ジジイに挑んでさっさと面倒事を断ち切りたいと思ってたとしても、俺は不思議には思わないね」


 というのがロビンさんの結論らしい。


 まあ、要するにこういうことだ。


 ――ミュラーが無謀な挑戦に挑もうとしているのは、神殿騎士団に参加したせいだった可能性が浮上しました!!


 武門=騎士団。

 貴族という枠組みの中で常識とも言えるこの構図を真っ向から否定した形になったミュラーの存在は、実は方々で結構な問題になっているらしい。


 なぜなら、ミュラーの家格は王家に次ぐ権力を持つ公爵。その上【剣姫】の称号持ち。


 将来の騎士団長ポストが確実であったにも関わらず、ある日ぽっと出の謎騎士団へ入るからとその椅子を蹴ったとなれば……良く思わない人もいると。そういうことだ。


「その件は解決しているはずでは?」


「ジジイが認めてるんだ、解決はしてるんだろうさ。でも人の感情はそう簡単には収まらない。期待も大きかった分、余計に……分かるだろ?」


 分かりたくないなぁ。


 私の言葉が切っ掛けではない、ミュラーが自分で挑む時期を考え熟考した上で出した答えなんだと思い込もうとした矢先にこれよ。この情報よ。結局私が原因ですか、と。はあーあ。


 いやでも、神殿騎士団は私が創設したわけではないし……いやいやでも、お兄様が悪いなんてことはもっとありえないし……。


 とりあえずカレンちゃんでも眺めて癒されようと顔を上げ、直後、慌ただしく駆けてきた青年の声が大きく響いた。


「王城から連絡が来た!! 決戦の場は闘技場だ! 闘技場が開放されるぞ!!」


神殿騎士団の現在の知名度は街の噂レベル。王子の娯楽か聖女への報酬か程度の認識しかない。

その一方、【剣姫】の名は国民ならだいたい知ってる。つまりは全世界の人々に知れ渡ってる。

現時点で問題が起きてないのが奇跡に近い。

人知れず奇跡を量産する苦労人は、今日もソフィアの為にと奔走していた。

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