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ヴァレリーの評価


 意固地になったミュラーが一度口にした戦いを取り下げる訳もなく。


 ミュラーとバルお爺ちゃんによる決戦の場は、益々人数を増した観客達によって着々と準備を整えつつあった。


「人数まだ増えるわよ。玄関に看板でも立てた方がいいかもしれないわね」


「掃除終わりました! 塵一つ残してません!」


「板持ってきました。これで足りますか?」


「とりあえず塞いどけば問題ないだろ」


 これから文化祭でも始まるのかな? と在りし日の記憶を刺激されるような光景。


 広いはずの訓練場が狭く感じられるほどに激しい人の出入りに圧倒されて、私とカレンちゃんは壁のそばに退避していた。


「人多すぎない?」


「あのね、ソフィア。剣聖様はもう公式な試合には殆ど出られてないの。国で一番の剣士による試合なの。剣をかじったことのある人なら誰もが見たいと思って当然でしょ?」


 ちょっと思ったこと言っただけなのにガチめに諭されてしまった。変な性癖目覚めそう。


 美少女に叱られるっていいよね、と現実逃避しながら更なる現実逃避を試みてみる。カレンちゃんに「そうだね……」と返事をしていると、こちらを見て指差す人達が見えたので、そっとその会話に耳を傾けてみることにしたのだ。


「なあ。あの穴昨日まではなかったよな?」


「それはほら、お嬢の友達の。えーと……ほれ、あっちの子が」


「あれだろ? 『環境を戦場にする戦士』ってやつだろ? 見た目からは想像できないよなぁ」


「あの子ヴァレリーの娘らしいぞ」


「ああ……それなら納得いくわ」


 どうやら床に空いた穴の話をしていたらしい。現在塞いでいる真っ最中とはいえ、まあ目立つよね、あれ。あんな大穴が空いてるのにみんな平然と試合の話しかしないから、この家では建物が壊れているのが日常なのかと疑っていたくらいだ。


 穴を開けたのがカレンちゃんだと聞いて疑わしげにしていた常識的な男性も、カレンちゃんがヴァレリー家の娘だと聞くなり手のひらを返した。やはりヴァレリー=筋肉という図式はここでも常識であるらしい。本当に有名なんだね。


「いやぁ、俺は納得いかないね」


 ……と思ったんだけど、どうやら万人の意見でも無いらしい。


 一人異論の声を上げた男性はやはり少数派であるらしく、周囲の男性から口々に「何言ってんだ」とか「ヴァレリーならできるだろ」とか言われているが、何を言われても崩れない余裕の表情は「お前ら何も分かってねえなぁ」という意思を雄弁に物語っていた。


 周囲の耳目も集まり、多少の騒ぎに発展するかと思われたその時。注目を一身に集めた男性は「いいか、お前ら」とひとつ指を立て、僅かに声のトーンを落とした。


 スっ、と波が引くように静かになった室内。

 数多くの視線を引き連れて、彼が指さしたその先にいるのは――私の隣に立つ、カレンちゃんだ。


「あの筋肉貴族(ヴァレリー)からあんなかわい子ちゃんが産まれてくるか? 見ろ、男たちに怯えたあの愛らしい姿を! あれが筋肉(ヴァレリー)の娘だって言われて信じられると思うか!?」


「「「確かに」」」


 はっ、しまった! ついうっかり頷いてしまった!!


 カレンちゃんとガルフレッドさんが本当の親子かと疑うほど似てないのは知ってるけども、それと同時に、私は二人がとても仲の良い父娘だということも知っている。


 二人の親子としての絆を否定するような態度を取っては、カレンちゃんに嫌われてしまう可能性が……と、恐る恐る隣を見れば。


「へうぅぅぅ…………」


 カレンちゃんは真っ赤になって振動中(バイブモード)。多数の男性から熱い視線を向けられてそれどころではないようだった。


 ……気付かれてないなら、ヨシ! ついでに可愛いカレンちゃんも見れてなお良し!!


 羞恥に震えている姿はそれだけでご飯何杯でもいけそうなほどの眼福モノだけど、流石に可哀想になってきたので助けてあげることにしよう。窮地を救うと好感度も……ゲフンゲフン。


 泣きそうなほど震えている友達を見て黙ってなんていられないからね!


 カレンちゃんを庇う様に一歩を踏み出し「誰の許可得て見てんだコラァ! 通報するぞ!!」と強い意志を込めて眼光を飛ばす。それだけで視線の圧は緩和し、半数以上の人は顔を背けてくれたんだけど……。


 代わりとばかり、少なくない視線が私に向く。


 その中の一人。見覚えのある顔と目が合った途端、その男は朗らかな笑顔を浮かべて近付いてきた。


「やあやあソフィアちゃん、久しぶりだねぇ。そちらの可愛いお嬢さんもこんにちわ♪」


「こ、こんにちわ……」


「お久しぶりです」


 私この人苦手なんだけどなぁ……。


 こっち来んなオーラを物ともせずに近寄ってきたのは誰あろうミュラーのお兄さんである。名前は確かロビン……だったかな?


 この人、初対面の時の態度と二回目以降に会った時の性格変わりすぎてて怖いんだよね。本心がまるで見えないし、私を見る目もなんか、爛々としてるというかキラキラしてるというか……。


 あとあれ。お嫁さんとのバカップルっぷりも目に毒な感じ。


 カレンちゃんと二人で相手するには骨の折れる人物だけど、私たちにいったい何の用事なんだろうね? 


久々登場ロビンお兄ちゃん。

性に奔放な性格で次のターゲットにソフィアを狙おうとしたところをソフィア兄によって矯正(実質洗脳)され、人畜無害な性格に生まれ変わった。その性格の変わり様にソフィアは恐怖を感じているらしい。

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