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戦い好きの一族


 結局、ヴァルキリーたんは回収することになった。


 回復に時間のかかる多量の魔石を内包する仕様上、それなりの期間ミュラーの興味を引けるのではないかと思っていたのだけれど、壊れたまま動かされる可能性があるのでは話が別だ。危険すぎる。


 ミュラーとの戦闘では使わなかった遠距離攻撃やロボット物のお約束である自爆攻撃なんかが何かの弾みに発動してしまったら不運な被害者が出るかもしれない。だというのに、それらの事態を極力起こさないよう対処するべき筆頭とも言える人物が「常日頃から気を張る訓練に良いな」とか言い出すんだから堪らない。怪我人が出たら怒られるのは私だというのに!


 そんななんやかんやがあって、「こんな危険な場所にヴァルキリーたん置いていけるかぁ!」という結論に至ったのですよ。


 もし置いてったら次来た時に残骸に成り果ててるかもしれないからね。

 そんな未来はノーサンキューなので。


「残念ね……。ソフィアがそれだけ危険だという攻撃、ぜひ見てみたかったのだけど……。本当に残念ね……」


「うむ、嬢ちゃんの搦手は儂ですら手を焼くからのう。ミュラーに唯一足りない経験を積ませるには打って付けなんじゃが……」


 あ、やっぱりミュラーが私を付け狙うのにはバルお爺ちゃんが絡んでたのね。どんな塩対応しても諦める気配が無いからそうじゃないかと思ってたんだ。


 とはいえ、今更それが分かったところで……ミュラーに一度勝っちゃった以上、もう手遅れなんだろうなぁ。


「注意を聞けない人達のところには置いておけません」


 とりあえず、ツーンとすげなく突っぱねてみたけど、これはマジです。魔石の暴発にどんな幻想抱いてるのか知らないけど、ホントにマジで、危険が危ないので。


 てゆーかね、二人とも残念だ残念だーって言いますけど、こっちだってヴァルキリーたんを回収するのは想定外の事態なんですよ?


 なにせ当初の目的だったミュラーの目を背けさせるのに失敗してるわけで。その上戦闘時に使った魔力もぜーんぶこっち持ち。


 一石二鳥の計画のはずが一気に大きな負債を抱えた心境ですよ。


「そう……ソフィアがそう言うなら仕方ないわね。ならやっぱり、ソフィアに相手してもらうしか――」


「そういえば!」


 大声を出してインターセプト。


 ミュラーはもう、ホントにもう、なんなの? 頭の中筋肉しか入ってないの? 単細胞なの?


 やっぱりも何も無いわ。私が土下座して頼んだの見たよね? ミュラーと戦うのがどれだけ嫌か説明したよね? まさかもう忘れたとか言わないよねぇ??


 もー……そりゃ私だって、涙の安売りしてるけどさ。

 それでも一日くらいは覚えててもらわないと「あれ? ひょっとして私の涙の価値、低すぎ……?」みたいなことになっちゃうでしょお? 終いにはガチ泣きするよ?


 ――と、一秒にも満たない時間で得にもならない思考を済ませ、《並列思考》で同時に考えていた内容を口の端に乗せた。


「私ってミュラーの戦うところは見たことあっても、世にも名高き【剣聖】様が戦ってるところは殆ど見たことないんですよね。良かったらミュラーと戦ってるところを見せて頂けませんか?」


 声の調子を調節し、自尊心を煽る感じでおねだりしてみた。期待に潤む瞳まで添えれば、他人の祖父だろうが関係ない。


 私はね、知っているんだよ。

 男というのは老若問わず、いつの世だって可愛い女の子のお願いには弱い愚かな生き物だってことをね……!


 男のしての本能。そこに庇護欲を刺激するという私の容姿まで加われば、それはもう必殺技も同然だ。お父様を相手にしてより要求を通しやすくするおねだりの仕方だって研究している。


 つまり、いくら【剣聖】という肩書きがすごかろうと、所詮は女の要求に傅く男であることに変わりはないということさ! ふはははは! よきにはからえ!!


「ふむ……。お友達はこう言っておるようだが、ミュラーよ。どうする?」


「あらお爺様。私の返事など聞かなくても分かっているでしょう?」


 二人共にもうすっかりやる気満々なようで、ふははうふふとどちらともなく笑顔の応酬が始まった。ちょっと怖いよ。


 私の内なる声が聞こえた訳では無いだろうけど、さっきの言葉は、要は「ミュラーの戦意がありあまってるみたいなので身内として発散させといてくれません?」ということだ。バルお爺ちゃんは私の意図を正確に読み取ってくれたと言えよう。


 その察しの良さがミュラーにもあれば……いや、察しが良いミュラーなんてミュラーじゃないな。やっぱ今のなし。


 ミュラーは戦い好きの同志と好き勝手に暴れ回って、私の相手なんてする暇もなく戦いに明け暮れてればいいんじゃないかと思うね!


 これで今度こそ私の役目は終わり……と気が緩んだところで身体が傾く。引っ張られた方向を見れば、カレンちゃんが私の服の裾を引っ張っていた。


「すごい、ソフィア、すごいよ……! この二人の戦いが見られるなんて、とってもすごいことなんだよ……!?」


 大興奮じゃないですか。

 まあ確かに、凄い戦いになりそうだけども。



 ――斯くして、自己保身から発した私の一言によって、【剣姫】対【剣聖】という傑物同士の対決が確定したのだった――。


老人と少女。二人の笑い声が響き渡るにつれて場の緊張感は高まってゆく――。


「……あの二人、いつまで笑ってるの?」

「戦いが終わるまでじゃないかな?」


えっ?始まるまでじゃなくて?

やはり戦闘狂は理解出来ない。ソフィアは思考を放棄した。

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