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涙を流せば望みが叶う(ただし美少女に限る)


 私知ってる。可愛い子は自身の可愛さを武器にしてるって。だって私がそうだもの。


 意識的にか無意識的にかの差はあるかもしれないけど、可愛い子は総じて、自身の意見を通しやすくする術を経験として身につけている。


 だから明らかにしょぼーんとしちゃったカレンちゃんを見て「これは可愛い子特権だ。想像してみろ、同じ表情を可愛くもないブサイクな子供がしてたらどう思うか? 余裕でスルーできるでしょ?」と囁く心の声が正しいことを言っているのだとは理解はしていても無反応を貫けない。具体的にいえば、庇護欲を刺激されるその姿を見せられると、なんとか笑顔にしてあげたいと思ってしまう。


 冷静に考えればね、分かるのよ。

 容姿や態度を抜きしてカレンちゃんが私に仕出かしていることを勘案すれば、むしろカレンちゃんは私にとって害を及ぼす側の存在じゃないかってことくらい理解してる。でもね、やっぱり容姿ってとても大事な要素だと思うのよ。


 私が何かをするたびに「やっぱりソフィアはすごい……!」と子犬みたいにキラキラした目を向けてくる美少女よ? それを切り捨てる? 有り得ませんね。


 そもそも私は「すごい」と賞賛されることには慣れてはいても、カレンちゃんが向けてくるような「憧れちゃうなぁ」といった視線を受けることは稀なのだ。耐性がないの。


 優秀な学業成績や教師陣から特別扱いを受ける魔法の才などが原因だと思うのだけど、クラスにはどうしたって「ソフィアは特別だから」という認識というか、統一された空気がある。それが悪いとは思わないけど、普段仲良くしている子達からも、どこかでその一線が引かれていることを感じることが多々あるのだ。それが時々、ちょっぴり寂しい。


 そこに現れる天使がカレンちゃんですよ。


 カレンちゃんは私と同じく学業成績優秀者で、剣術はまだ危なっかしいけど才能だけならミュラーが認める天才レベル。魔法の腕前はクラスが違うから知らん。けど、ヤバいという話だけは聞いたことがある。もちろんマイナス方向の「ヤバい」である。


 元々自分の筋力さえ調節できなかった彼女のことだ。魔力制御の熟練度なんか推して知るべし、って感じだよねぇ。


 で、そのカレンちゃん。事ある毎に私のことを尊敬してくれてる点からも分かる通り、私みたいに何でも出来て自信に溢れた女性になることが目標らしいんですよね、これが。


 いや〜、ふふふ。いやほんとに、参っちゃうよねぇ、うふふ♪


 ほんとにねー。もう、ほんとにねー。お母様にも聞かせてやりたいっ!! って感じ。ふふふふふ。


 是非! 私のすばらしさを!! お母様に語り明かして!!? って感じですよ。


 お母様が「全くこの子は、いつまでも子供で……」と常日頃から呆れまくっているソフィアさんは、なんと学院では他人に尊敬される程の崇高乙女だったのですよ! パーフェクト淑女なのですよ! オーホッホッホ!


 ……なーんて調子に乗っちゃいたいところだけど、ぶっちゃけ自分でも未だに信じ切れてないところがある。お母様にしてみれば尚更だろう。「ソフィアを尊敬? は?」みたいな。


 私の口から伝えようものなら「寝言は寝てから言いなさい」とか言われそうだし、カレンちゃんを自宅に連れ込んで直接伝えてもらってみても「友人を(たばか)るのは感心しませんね」とか言われそう。いや「相変わらず猫を被るのは得意なようですね」かな?


 どちらにせよ褒められる未来が見えない。家での私があんな(自由気まま)だしね。


「ソフィア、そんなに戦うの嫌なの?」


「何回聞くのそれ? そんなに嫌なの!」


「カレンとはまともに戦ったことないんでしょう? 一回くらいいいじゃないの」


「そのまともじゃない一回でも十分だったの!」


 ミュラーとやり合う私に向けられる、カレンちゃんの期待の篭った眼差しには気付かないふりをした。

 やめろぉ。そんな目でわたしを見ないでぇぇ。


 ……いや、ほんと、うん。


 カレンちゃんはやっぱり、憧れる対象を変えた方がいいんじゃないかな。


 改めて考えると、恥ずかしすぎて顔から火が出そう。


 私が同世代の中では割かしなんでも出来るスーパー少女なのは認めるけど、ミュラーと違って私、剣術の鍛錬とかしてないからね。カレンちゃん的に最重要な剣の腕前は初心者に毛が生えた程度なのよ。


 学院の授業で習う程度ならやれるけど、家での訓練はもうやめて久しい。


 なのでそろそろ、私への憧憬なんてやめてミュラーに鞍替えするべきだと思うの。


 ――だというのに!!


「ねぇ、ソフィア……。どうしてもダメ……?」


 何故、私にこだわるのか!! いつも通りミュラーに相手してもらえば済む話じゃん!?


 美少女+潤んだ瞳+不安気に揺れる声。


 この究極コンボに抗える人類がどれだけいることか。

 嫌だから断るという当たり前の行動にこれだけの罪悪感を抱かせるのは、一種の才能ではなかろうか。


「うっ、ぐ……!」


 カレンちゃんの瞳がうるうるしてるだけで突っ撥ねる気力がきゅんぎゅん減ってく。断ろうと意識するだけで申し訳なさに息が詰まる。おかしい、私の主張は間違ってないはずなのに!


 そ、それでも! それでも、私は……っ!


「お願い……」


「う…………ん……。わかっ、た…………」


 だあぁぁぁぁこんなの勝てるかァ!! 美少女の泣き顔とか卑怯すぎるでしょう!!?


 ほんの数十分前に自身がそれより悪どい行為を行った事実などすっかり忘れて、私は無理やり言わされた言葉に頭を抱えるのだった。


因果が巡る前に因果応報が起こったのではないかと疑うほどに見事な自爆劇。

ソフィアの周りの人間は毎日このようにして「悪意」の使い方を学んでいます。

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