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その名は鬼ヴァルたん


 戦いって、無益なものだと思うのですよ。


 いやね? 別に剣術が存在するのが悪いって言いたい訳では無いのよ?

 あれはスポーツのようなものだと認識してるし、努力する人たちを馬鹿にする意図だってもちろん無い。


 けど戦いたくない人を戦いの場に引きずり出すのは違うんじゃないかなって、ソフィアさんは思うんだよね。


 ――はい、そこで今日ご紹介したいのがこちら。

 こちらは高い水準の戦闘能力はそのままに、不慮の事故による危険性だけを極限まで排した自動戦闘用全身甲冑。その名も「ヴァルキリーたん鬼教官バージョン」と申します。


 ミュラーの動きを参考にした基本動作に加え、人ではありえない空間把握能力と多様な魔法の同時発動。それにより、このヴァルキリーたん鬼教官バージョン、略して鬼ヴァルたんはこの私の訓練相手が務まるほどの高い戦闘技術を有するに至ったのであります。


 私と同等の戦闘能力。

 つまりは私と戦いたい人にとって、この鬼ヴァルたんは代役が務まるということだねっ!


 戦いたい人は勝手に戦ってればいいんだ。戦っている間は私への興味も薄れるだろうし、なんなら鬼ヴァルたんに夢中になって私と戦いたかった事実なんかキレイさっぱり忘れてくれると最高に嬉しいんだけどなぁ〜。そこまでは難しいかなぁ〜。


 少なくとも鬼ヴァルたんに勝てないうちは、鬼ヴァルたんに勝とうと努力することだろう。そこに私との戦闘に割くリソースなんてあるわけない。


 私はヴァルキリーたんの改造ができて幸せ、ミュラーたちは大好きな戦いが堪能できて幸せ。みんなハッピーで不幸になる人は誰もいない幸せな世界。これが私の導き出した解決策だ。



「――というわけで、これ貸してあげるから試してみない? なんなら壊しちゃってもいいから」


 ミュラーの家を訪問しての押し売り販売。初回お試しは無料にてご提供させて頂きますよー。


 ミュラーとカレンちゃん的には見た目がイマイチだったようだけど、そこは製作者の好みということでご納得していただきたい。見慣れないだろう細ゴッツイ体型の良さも、きっとそのうち分かるようになるさ。


 ちなみに壊しても良いとは言ったけれど、普通にやってこれ壊すのは無理だと思う。強度設定は対カレンちゃんを想定したから呆れるほどに頑丈なのよね。


 ヴァルキリーたんのメインフレームは私の魔力から生成した特殊な物質。

 魔力強化を施した剣と肉体で同じ部分に何度も何度も攻撃を繰り返し続けていれば、そりゃそのうち壊れはするだろうけどさ。ヴァルキリーたんの装甲には魔力の強化だって入ってるし、それ以前に起動状態なら当然、回避もすれば受け流しだってする。損傷を自動回復する機能だって付いてる。いくらミュラーといえどもそう易々と壊せるとは思わないんだなぁこれが。


 あれも欲しいこれも欲しいと、とりあえず思いつく限りの機能を満載にしてしまったが為に、現在鬼ヴァルたんは燃費がひっじょーに悪いことになってる。正直魔力の消費量世界一だって狙えると思うレベルだと思う。が、代償の大きさに見合った性能もきちんと得ていた。


 鬼ヴァルたんは内部に大小合わせて五十以上もの魔石を積んでいるにも関わらず、リミッター無しの自動迎撃モードを起動すれば、なんと起動から僅か五分程で機能を停止してしまう可能性すらあるからね。つまりはそれだけの魔法を同時発動してるというわけで……。


 人とは違って、鬼ヴァルたんには魔石の数だけ魔法が生み出せるからね。継続時間はネックではあるけど、瞬間的な最高戦闘力はハンパじゃないんよ。


 ……つまり、それがどういうことかというと。


 私が自信を持ってお勧めするこの鬼ヴァルたんは、五分間だけなら、きっとミュラーも大満足の素晴らしい動きを見せてくれるんじゃないかということだ。


「……ソフィアが嘘をつくとは思わないけど……。これ、本当にミュラーと戦えるくらい強いの……?」


「試してみれば分かるわ。それで、どうやって起動させればいいのかしら?」


 説明が終わると同時に、ミュラーが早速食いついてきた。


 ですよね、ミュラーならそう来ますよね、うんうん知ってたー。だから!!


 ――私の説明通り、ミュラーが魔力を剣に纏わせて鬼ヴァルたんに触れると、静かに瞑目していた鬼ヴァルたんの頭部に灯りが点った。最上級コースに認められるだけの魔力は献上出来たようである。


 そう、これこそが鬼ヴァルたんの欠点にして最大の利点。

 一定以上の魔力を奉納し、それにより選定されたコースに必要な魔力量が鬼ヴァルたんに残っていた場合にのみ起動へと移行する起動シークエンス。鬼ヴァルたんと戦いたくば魔力を節約した生活を心掛け、長期にわたってせこせこと魔力を献上し続けるしかない、言わば淑女強制プログラム!!


 これによりミュラーたちには、鬼ヴァルたん相手の訓練を長い期間に渡って強要することができるのだ! ソフィアちゃんてばかしこーい♪


 ただまあ、それは次回以降に関わる仕掛け。

 今回は魔力フルチャージ状態だから普通に起動へと移行したね。


 あと数秒もすれば、ミュラーも思い知るだろう。鬼ヴァルたんは、ミュラーが戦うに値する相手だということを……!


 ……多分、そうなるはず。うん、問題さえなければ。きっとだいじょぶ。



 ちょっぴりドキドキしながらも、無事に起動を終え立ち上がった鬼ヴァルたんへと、私は期待の眼差しを向けるのだった。


鬼ヴァルたんに使用されている魔石はソフィアが自分で生成した魔石のみが使われているため、天然物よりサイズがでっかい。天然物換算だと魔石百個分以上をゆうに超えます。

もちろん、補充にかかる時間も、魔力も、相応に増えているので……。

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