寝落ちせずに帰ろう
日が高いけれど空の旅。
この飛行物体は、株式会社ソフィア・エアラインの提供によって運行されておりまあす。
幼少期より改良を重ねた結果、透明化、空調制御に加え、紫外線除去、自動運転機能など、あらゆるニーズにお答えする安心安全な空の旅をご提供致しまあす。
なんてね。
透明化のせいかお父様もお母様も全然喋ってくれないから暇すぎる。
鳥の群れが襲ってきたり隕石が降ってきたりするアクシデントが起こるならまだしも、このままではソフィアちゃん、寝ちゃいますよ。
ただでさえ日課の筋トレタイム以外では常時体内の魔力を循環させて心地良い体感温度を保ってる上、空の旅セットとしてポカポカの日射し、優しい微風、春のような気温までついているのだ。
我ながら全力で快適な睡眠空間。これは眠くなるのも道理だわ。
だからね、頼むから何か話して。話しかけ続けて。
ぷりーず。
そうお願いしたらお父様が、街で別れてた時の話をしてくれた。
「とは言っても、俺は報告を受け取っただけなんだがな。養父上の指導が行き届いているんだろう」
そのお陰で私が予定より早く帰れるんだからおじいちゃんには感謝だね。
お父様はアンちゃんの村の人がいたから村の食糧危機は乗り越えたことを伝えて安心させたりしていたらしい。
村の危機を伝えに来たのに魔物のせいで今まで戻れなかったから、とても心配していたそうだ。
魔物、やっぱり増えてるんだね。
お母様の方もお父様に魔道具屋に行ったことを報告してた。
店主さんと話してる時は知らない単語が多すぎて内容が把握できなかったけど、お母様の方も魔物対策に関わる話をしていたらしい。
正直、趣味に一直線だと思ってました。お母様ごめん。
そんな話をしている間に愛しの我が家に到着。
相変わらず裏の目立たない場所にひっそりと着地し、預かっていた荷物を荷台に積み上げて、今度こそ全行程が終了だよね!?
帰ってきた、私は帰ってきたよ!
「ソフィア、おかえり」
「ただいまです、お姉様!」
たった一日離れていただけで、なぜこんなにもお姉様が愛しく感じられるのか。
それはきっとレニーのせい。
お姉様と同年代なのに、お姉様とは似ても似つかぬ暴走っぷり。
淑女を地でゆくお姉様の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいねっ。
「おかえりなさい、ソフィアさん」
……んん?
ロバートさんがまだいるのはいい。
お母様に切られた期日がある以上、毎日だって相談したいこともあるだろう。それはいい。許そう。
だけど、その、お姉様との距離感はなんだ。なぜお姉様まで頬を染めているんですか。そんな乙女なお姉様見たことないんですけど!?
これはまさか。まさかなの? 嘘だと言ってよお兄様!
「お兄様、これは……」
ああ聞きたくない。
プロポーズ指導なんて面白エピソードを強制スキップされたどころか、一番美味しいところを見逃しただなんて、そんなこと。
「うーん。まぁ見ての通りだよね」
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛やっぱりいいぃぃぃ!
ガチプロポーズ終わった!? 終わっちゃった!? ってゆーかしたの? 今まで何年も足踏みしてたロバートさんが告白できたの!?
うそでしょそんな、お姉様の乙女が一番輝く瞬間に立ち会えなかったなんて! あれだけ苦労して頑張って帰ってきたのに、いいところに間に合わなかったなんて!!
もうやだあ!
男を舐めると痛い目に遭うという教訓。
なぜか寝取られという単語が浮かんだ。




