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ダラダラ焼き


 ……あのね、勘違いしないで欲しいんだけど。


 私は別に、アドラスを許したわけじゃないから。むしろお年寄りを盾にするような卑怯な行いに怒り心頭だから。激怒のソフィアちゃんにクラスチェンジしちゃうレベルだから。


 でもお婆ちゃんに罪はないし、お菓子にだって罪はないし、出された物に手をつけないのは失礼に当たるからね。仕方ないよね。持て成されている最中に暴れる訳にもいかないからね。


 だから私が大人しく持て成しを受けて、もそもそと田舎風味溢れるお菓子を食べているのは、決してお菓子の誘惑に負けた訳では無いのです。これは客人としてのマナーを遵守した結果なのだ。どーゆーあんだすたん?


 …………まあ、このダラダラ焼き? なるおやつが美味しいことは、否定しないけどさ。


「どーだい、ソフィアちゃんん。うまかろーやい?」


「はい。美味しいです」


 なんだろうこれ。なんなんだろう、これは。


 まるでフランクフルトの皮だけ食べてるような不思議な感覚。あまじょっぱいタレのお陰で意外な程に美味しいけど、もっそもそしててお腹に溜まる。


 美味しいは美味しいけど、いくつも食べるようなものじゃないな、これは。


 ……そんな私の感想は、お婆ちゃんには届かない。伝えてないから当然ではあるのだけれど。


 善意しかないお婆ちゃんが引っ込んだかと思ったら「もっと食べえ。ほれ、ようさんあるからのお」と追加を出してきたのだから堪らない。器にこんもりと盛られたグダグダ焼きは、見ているだけでも胸焼けを起こしそうだ。


 ネムちゃん、ヘルプヘルプ! 穏便にこれお断りして! とアイコンタクトを送るも、ネムちゃんは「ありがとー!」といい笑顔。そのままお婆ちゃんと楽しそうにお話を始めてしまった。


「……カイル、さっきこれ美味しいって言ってたよね? 全部食べてもいいよ?」


「お前だって言ってただろ。つかこんなに食えるわけないだろ……」


 激しく同意。これ三人で分けても夕食以上の量あるでしょ。もはやおやつと呼べる分量ではないよね。


 どうする、どうしようと視線を交わすも、答えは出ない。


 三人、いやアドラスも含めた四人でなら、なんとか食べ切れるかも……? とカイルの視線を誘導し、家の奥へと目を向けさせた隙に山と積まれたダラダラ焼きの器を掴み、音もなくカイルの側へと移動させた。


 よし、これであとは、お婆ちゃんに聞こえるように「カイルそんなに気に入ったんだー! たくさんもらえて良かったねぇ!」と声を上げれば作戦完了。私のお腹は過食の危機から救われるだろう。


 お婆ちゃんに向かって今にも声を張りあげようかというまさにその時、微かな音を耳にした私はすぐ様その方向を振り返り、慌てて顔を背けるカイルの姿を視界に捉えた。その傍らに、私の置いたグダグダ焼きは既に無い。


 あっれれー? おかしいなー? あんなに沢山あったグダグダ焼きはどこにいっちゃったんだろー?


 あっ、なーんだ私のすぐ傍にあるじゃーん。やっぱり私とお菓子は切っても切れない関係だったんだねー、ソフィアちゃんうれしくなっちゃうー。


 ――ってなるか馬鹿☆


 再度、カイルの傍らに突き返す。器から手を離した瞬間に私の真横に置き直された。同じやり取りを数回繰り返すまでもなく、私達は互いに理解した。この勝負、お婆ちゃんに気付かれた時により近くで器を持っていた方が負ける、と。


「カイル……女の子に間食を強要するのは感心しないよ……?」


「いつも出された菓子一人で食ってるやつがなにを……!」


 いやいや、いやいやいやいやと両者互いに譲らない。


 互いにがっちりと握りこんだ器が今にも壊れそうな音を立てる。これは魔力操作で器の強度を上げられる私の方が有利かと思ったその時、遂に勝敗を分かつ動きがあった――!


「あんれまあ。あんたらそがい気に入ったんけえ。そう取り合わんでも新しいの作ったるで待ちんしゃいな」


「「いえ結構です!!!」」


 お願いしますどうかそれだけはご勘弁を!!

 これだけでも多いのにその上追加まで来るとなると、夕食が一切入らずお母様にキツいお叱りを受けてしまうのが確定するので!!


 カイルと二人、抜群のコンビネーションを発揮してなんとかお婆ちゃんに追加のお菓子を諦めさせることが出来た時は、ぶっちゃけすごい達成感だった。こんなことで達成感覚えてるのもアレなんだけど、心の底から嬉しかったし安堵もした。お婆ちゃんの善意マジ怖い。


 私は今日、幼馴染みが共に危機に陥った時には本当に意思がひとつになるのだということを知った。


 そうとも、人類に必要なのは憎しみ合うことではなく、協力し合うことだったのだよ……!


 謎のテンションで感動に打ちひしがれている私に、カイルが顔を近づけそっと囁く。


「おいソフィア。今のうちにそれ、処理しておけよ」


 それとはもちろん、大量に余ったダラダラ焼き。


 ……哀しきかな。共通の敵がいなくなった途端、カイルは敵へと回ったようだ。


「自分でやれば?」


「は? できたらとっくに……待て。お前何か勘違いしてないか?」


 は、誰が? 何を勘違いしてるって?


 敵意剥き出しで警戒する私に、再度の耳打ち。

 ……その内容は、お婆ちゃんの目を盗んで、アイテムボックスの中に全部放り込んでしまえというものでした。


 …………そーね。それなら全部解決だね?


 カイルの呆れた視線から目を逸らしつつ、そそくさとダラダラ焼きの山を削り取る。


 その作業自体に苦労はないけど、カイルの白い目がいつもよりも鋭く刺さっているような気がいたしました……。


ソフィア的には「お菓子を裸のままアイテムボックスに突っ込む」という発想が無かったとはいえ、恥ずかしい失態であったことには変わりないらしい。

ソフィアの「恥ずかしい」ラインも独特な判断基準な予感がプンプンしますね。

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