表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
907/1407

カイルの胆力は白騎士クラス


「お?」


「おー」


 ――立ち塞がる魔物を前にして、二人で感嘆の声をあげてしまった。


 少し前から、魔物のサイズがちょっとずつ大きくなってきてるかなー? とは思っていたんだけど、この魔物は明確にデカいね。明らかにおっきいね。イノシシかブタかみたいなサイズから、急にクマみたいな巨体の出現ですよ。立ってなくても私の胸くらいまではありそう。迫力あるねー。


 試し打ちしながら歩いていたら、いつの間にか結構奥まで来ていたみたい。ここの魔物って体格良いから的にすると気分が上がっちゃうんですよね。飛びかかって来る魔物の眉間に見事に攻撃が入ったりすると楽しいしねー。


 とはいえ、正直ここまでのサイズが出るとは思ってなかった。

 この森マジで魔物めちゃくちゃいるよね。大っきいのがこれだけいるのって普通に危ないと思うよ。いやこれマジな話ね。


 個人的に魔物の一番の驚異だと思ってるあの人を恐怖に陥れる能力って、魔物の大きさによって影響力が全然違うんだよね。


 最近の主流である小動物サイズなら街の子供が出会ってもまだ普通に逃げ出せる範囲だけど、一般的なサイズにもなれば気の弱い大人なら恐怖で竦んで動けなくなる。ここまでの大物だと、多分魔物との戦闘に慣れてる青の騎士団ですらまともに動けなくなるんじゃないかな。隊長格でやっと抵抗できるかどうかってレベルだと思うの。


 つまり、本来非戦闘員である私達がそんな魔物に出会った日には、恐慌に陥って動けなくなる人が出てくるかもしれないということだ。


 もちろん私は平気だけどね。

 森に入ると同時に魔物対策用の魔法は掛けてあるから、災厄の魔物レベルでも出てこない限り追加の対策すら必要ない。というか、実は対策なんてしなくても動けなくなったりはしないんだけどね。


 ただ魔物の声ってやけ心に響くから、対策しないと「うるせー!!」ってなっちゃうんだよ。だから鬱陶しいのが嫌いなソフィアさんは、魔物に出会う予定がある時は毎回魔法でメンタルを保護しているわけです。あの声さえ無効化すれば、魔物なんて知能の低い害獣ですしね。


 それでも万が一が起こりうるのが現実の怖いところなわけで。


 もしも魔物を格下と侮ってるネムちゃんが恐慌状態に陥ったりしたら……なんて心配をしてたんだど、どうやらいらない世話だったいだね。あははー。


 ネムちゃんは恐怖に身体が竦むどころか、キラキラした瞳で魔物を見上げながら手にしたステッキを待ち遠しそうにニギニギしていた。

 これはきっと、あの魔物、次に動いた瞬間に死ぬな。ご愁傷さま。


 で、後ろを着いてきてた二人に意識を向ければ、賢者アドラスは当然のように涼しい顔。


 その隣も、これまた別の意味で予想通り。

 この場で唯一カイルだけが、ひとり表情を険しくして自身を襲う恐怖の感情に抗っていた。


 ほーん、このサイズの魔物に相対して呑まれてないなんてやるじゃん。ちょっと見直してしまったよ。


 こないだの魔物退治でちょっとは慣れたのかな? でも、あの時は魔法で補助してたよね。となると完全な独力? ほほー、やるじゃん。


 これはこのまま放置した方がカイルの成長に繋がると思い、手助けはしないことを決定した。


 せいぜい頑張れ、男の子〜。魔物に吠えられてもおしっことか漏らさないでね〜。


 しかもこの魔物、余裕綽々な私達を警戒しているのか、今までの魔物たちとは違って一向に距離を詰めてくる様子がないのだ。これではまるでカイルの訓練の為だけに私たちの前に現れたようではないか?


 首輪でも付けてカイルに持たせたら半日くらいで白の騎士団長クラスの精神力が養われるかもしれないと思うと、いつかのネムちゃんのように魔物を飼い慣らすことを真剣に検討するのもアリかもしれないと思い始めた。竜騎士ならぬ、魔物騎士誕生の瞬間である。


「マジカルシャワー!!」


「――――」


 そんなアホなことを考えていたら、我慢が限界を迎えたらしいネムちゃんが、無造作にステッキを一閃していた。


 ステッキの軌道から溢れた光の粒子は魔力となって辺りに拡散し、光線を発射。四方八方から襲い来る魔力弾を避けることも出来ず、魔物はそのデカい全身を魔力弾で貫かれ、やがて霧が晴れるように消滅してしまった。雑魚魔物と何ら変わらない最期であった。


 パスっ、と魔石が地面に落ちる音が哀しく響く。


 普通の魔物に比べて明らかに大きく、威圧感があった魔物も、魔石になれば手のひらに収まる小型サイズ。それも、「ちょっと大きめ……かな?」という、よく見なければ見分けも付かない程度の違いしかないありふれた存在に過ぎなくなった。


 カイルにとっては強敵でも、ネムちゃんにとっては雑魚の一匹。


 悲しいけどこれが現実なのよね。


「んっふー!!」


「わー、すごいね、一撃だねー。魔法の魅せ方もだいぶ上手になったねー」


「むっふー!!!」


 褒めてあげれば、ネムちゃんもドヤ顔を超えての超ドヤ顔。大物を倒せて大満足の様子であります。この顔見てるだけで幸せになるね。


 一方のカイルは僅かな発汗、動悸と、魔物の重圧から解放された様子がありありと見て取れる。勘違いしそうになるけど、これカイルが雑魚いんじゃなくてネムちゃんがおかしいんだよね。同じく平気な私が言えた義理でもないんだけどさ。


 どうせあんたの仕業でしょ? と暇そうなおっさんを見上げれば、私の視線に気付いていながらにしてスルーされた。鼻で笑われなかっただけマシとか思っちゃう自分が嫌だ。


 もー……。

 いいもんいいもん、この怒りはぜーんぶ魔物に請け負ってもらっちゃうもんね!


 やっちゃえ私のヴァルキリーたん!!


ソフィアのことをしょっちゅう非常識だなんだと非難してますが、カイルくんも立派にそっち側の人間です。

なにせソフィアのグループはほら、非常識な人しかいないグループですから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ