技の進化
そういえば、今日はネムちゃんの魔法少女としての活躍を見に来たんでしたかね。ヴァルキリーたんをガシャコン動かすのが楽しすぎてすっかり忘れてしまっていたよ。
ネムちゃんの戦闘って花がないというか、ワンパターンすぎて見てるの飽きてくるんだよね。わざわざコスプレしてるのにあんまりポーズとか取らないし、使う技がマジカルアタックっていう魔力弾とマジカルシャワーとかいう魔力散弾しかないから変わり映えもしないし。期待外れ感がかなりある。
魔法少女を自称するなら、もっとこうさ。魔力が着弾したらドッカーン! とかさ。魔力塊の色も白一色じゃなくて様々に変化をさせてみたりだとかさ。色々あるじゃんやりようがさ? もっと遊び心を突き詰めたいよねー。
例えばこーして、魔力塊だけじゃなくて拡散してく魔力にも意識を集中させることでさ。魔力から魔素へと還る光を幻想的に……見せることが…………って、ちょっと、タンマ。ダメだわこれ。カス魔力の大きさ変えないままで魔力送るのが辛すぎる。これめちゃくちゃ神経使うわ。
試しに別のやり方で魔力の光り方を変化させてみたりもしてみたが、維持にかかる負担が大きいのには変わりない。見栄えを良くさせる為には実用度外視が当然とはいえ、魔法ひとつにこの労力はいただけないよね。これなら周囲の人を洗脳した方が楽になっちゃう。
問題は魔力。
魔法を発動する流れの中でもはや癖のようになってる環境魔力の取り込みが、残したい魔力塊まで吸い取っちゃうのが問題なんだ。
だから、魔力の吸収を、止めて。光を、色の着いた光を、細かな魔力と重ね、て……っ。
「ソフィア、それなに!? どうやってやるの!??」
うおっと、見つかってしまったか。
集中が途切れた瞬間に魔力がひとつに固まってしまった。やっぱりこの方法は現実的じゃないなぁ。やり方が根本的に間違っている気がする。
とりあえずやり方を教えるまで離してくれなさそうなネムちゃんに、魔力塊の飾り方をレクチャーした。
「――で、周りにね、小さな魔力を留めておくの。可視化してー、着色してー、でっかい魔力塊を遅延して追尾するように操作してー。でも同時操作数が多すぎて難しいんだよねー」
「ふーん……」
……お母様を相手にしてる時のようにつらつらと喋り続けたのは悪かったけど、ふーんはちょっと傷つく。ふーんは寂しい。
でもまあ、そうよね。ネムちゃんはお母様とは違って、魔法を解析したい訳じゃないもんね。私が悪うございましたよ。
退屈させたお詫びとして、いますぐに見せることができて、何よりネムちゃんを喜ばせられる魔法は何かないものかと考えていたら、そんな私の心の葛藤を吹き飛ばすように、なんとネムちゃんが信じられない光景を見せてくれました。
「ねー、ソフィア。こんな感じ?」
……私が難儀した魔法を、一発で成功させた、だと?
嘘だ馬鹿な有り得るはずない……!!
色とりどりに踊る光が、まるで心を焼き尽くす業火のようにすら感じられたが、ネムちゃんの魔法をよくよく観察したらそんな煮え滾るような嫉妬は必要ないのだと理解出来た。
「なるほど、《幻覚》か。威力は足りているのだからそれ以上の魔力は必要ない。合理的な判断だな」
ついでに何故か賢者さんがドヤ顔で語り始めたので、私のショックなど秒でどこかにすっ飛んでしまいましたとさ。
でもそっか、幻覚……なるほどね。
見る人の精神を弄るんじゃなくて、対象物に偽りのベールを掛けるのね。そっかそっか。
やっぱり発想って一人でうんうん唸ってても限界があるよね。
喋って、見せて、また喋って。
そうしてお互いの意見を交わすことで、一人では気づけなかった境地に辿り着けたりするんだよね。
まあ時間さえかければ、独りでも届く境地ではあるんだけどさ。
「ならマジカルシャワーは、こうだね」
言うと同時に、魔力弾が多数出現。
見た目には優に百を超える魔力弾が、タイミングよく現れた魔物に向かって殺到する。視線が通るようになる頃には、魔物の姿なんて影も形も残ってなかった。地面に転がる小さな魔石だけがそこに魔物がいた事を証明する唯一の証であった。
「おー! すごーーい!!」
ネムちゃんからの「すごーい!」、頂きました。
つーかこれ、もはやシャワーじゃないな。制圧射撃とかいうやつじゃないかなこれ。見た目の殺傷力高すぎぃ。
殆どが《幻覚》の魔法で生み出した幻であるため、実際には二十程度しか着弾していなかったにも関わらず、この迫力と、この威力。
これなら魔法少女の必殺技として申し分のない技と言えるだろうね。
あとは、その……もう少し可愛さを追加したら完璧じゃないかな?
やっぱり「魅せる」戦いができないと魔法少女とは言えないからね!
「ソフィア、今の! 今の教えて!」
「今の魔法はねー……」
――無邪気に、楽しそうに。えげつない威力の魔法について談笑する二人の少女。
そんな二人を眺めて、ある男はあからさまに眉を顰め。またある少年は、「いつもの事だ」と諦観していた――
フェルは走る。エッテも走る。
魔物が着いて来ているのを確認し、時に惑わし、時に挑発しながら目的地へと誘導する簡単なお仕事。
彼らはひたすらに走り続ける。
全ては、ご褒美のお菓子を手にするために――。




