見敵必殺
――魔物がやってくる。
ネムちゃんが手作り感溢れるステッキを振る。
「マジカルアターック!」
――ネムちゃんのステッキから白い光が放たれる!
魔物さんは消滅した。
「当たり前のように詠唱無しなのな。っていうかあれ、魔法なのか?」
「魔法というよりは魔力だね。魔法みたいに切り離した魔力を操ってるんじゃなくて、魔力をそのままぶつけてる感じ。水鉄砲とかに近いかもね」
――魔物がやってくる。
ヴァルキリーたんが大剣を引いて構えをとった。
ガシャンッ!!
――勢いよく振り抜かれた一撃が、魔物を一刀両断にする!
魔物さんは消滅した。
「…………で、あれはなんだ?」
「なんだ、って、私自慢のヴァルキリーたんですけど? カイルだって私の部屋で見たことあるでしょ」
「剣が白く光ってた! ぶわーって、ぶぉわぁ〜ってなってた! カッコイイ!」
――次々と現れる魔物を時に魔力で溶かし、時に魔力でぶった斬り。私達は快調に魔物溢れる森の中を突き進んでいた。
なんでもこの森、魔物が湧きまくる山の麓にあるらしく、いくら狩っても数日もすれば元通りの魔物群生状態に戻るのだとか。「いっぱい倒せてたのしい」と無邪気に笑っていたネムちゃんは尊いけど、普通に笑えない案件だと思う。
実際エッテに確認してもらった情報でも、山を登るにつれて魔物の数は増加傾向にあって、魔物のサイズも他の街では考えられないほどの多様性が見られるらしいんだよね。乗合馬車サイズの魔物までいたというんだから恐ろしい。
だって、ネムちゃんが魔法少女になって魔物狩り始めたのって精々数日前からでしょ?
見たところ騎士団が常駐してもいなかったみたいだし、あの村、よく今まで滅んでなかったよねっていう感想しか出ないよね。というか、騎士団どころか村を魔物から守る防壁の類すら一切見当たらなかったし。あまりに自然すぎてスルーしてたけど、普通に考えて明らかに異常だよね。色々とさ。
目と鼻の先にこれだけの魔物が蔓延る森があるのに防備ゼロの村がちょー平和とか、もはや不気味さしかない。実は村人全員が人型の魔物だとか言われても納得してしまいそうだわ。
……魔物、魔物か。ふむ。
この村の住人は実は既に全滅していて、私達が見かけた人達は全てキノコに寄生された死体だったー、とかどうよ?
転移魔法の触媒になるなんて冗談みたいな性能を持つキノコがあるみたいだし、人を操るキノコくらい存在しても何もおかしくない気がするわ。どっかの賢者さんも精神操作の魔法についてやたら詳しかったみたいですしねー?
「カイル……。やっぱりあの村、なんか変だよ。一応気をつけておきなよ?」
いざとなったら私が守るし、十中八九私の想像レベルの戯言みたいな妄想でしかないのだろうけど……。それでも、理屈に合わない状況を目にしていることも確かな事実で。
念の為に、さりげなくカイルにも注意を呼びかけてはみたのだけど……。
反応は、実に素っ気ないものでしたとさ。
「お前らの非常識さに比べれば、何も変なところは見当たらなかったと思うぞ」
「あっ、そうですか」
さいですか。非常識で悪かったですね。
つーかカイルの目は節穴かよ。今まで私達の後ろを着いてきて、一体何を見ていたと言うんだ。お土産用の新鮮な鶏肉でも探してたのか?
カイルが何をみて「非常識」と感じたのかは知らないけれど……。
残念ながら、ヴァルキリーたんの非常識装備はまだ一個も披露していないんですよね。つーか大剣振り回すだけなら案山子だってできるし。カイルの非常識認定ラインが甘すぎんよ〜。
あの大剣が単体でも自在に飛行し、あまつさえ魔法だって放てるという事実を知った時、カイルはどんな反応をしてくれるのだろうか。己が定めた非常識を超える非常識を目の当たりにして、相応しい言葉を選ぶ語彙を持ち合わせているのだろうか。甚だ疑問だ。
「つまり、もっとすごいところが見たいと。そーいうことだね?」
「そういうことじゃないんだわ」
うん、知ってた。
でもほら、そろそろ新しいことしないと飽きちゃうからね。魔物の屠り方にもバリエーションが必要なのだよ。
つまるところ、今日のカイルの役割は太鼓持ちなのだ。
ネムちゃんが暴走しないように抑えつつ、なおかつ変身願望をほどほどに満たす賞賛の声を上げながらついて来ること! これが今のカイルに求められてる役割なのだ!
…………普通に考えて無理じゃないかな? と、ヴァルキリーたんを褒められたい心境にある私は思いました。
ネムちゃんが魔法少女に満足する為には、褒められる必要がある。でも、褒めちゃうと嬉しくなったネムちゃんは暴走します。それはもう間違いなく。
これって詰んでる状況なのよね。
もうどうしようも無い感じなのよね。
私は思考を放棄した。放棄して、自分の望むことだけを追求することにした。
即ち、ヴァルキリーたんの武装解禁である。
「次の戦闘は楽しみにしてていいよ」
「不安しかない……」
不安など不要さ。前を見て歩けば、それだけで気分は上向くものだからね!
解禁する武装の選択を終え、私達は更に多くの魔物を消滅させながら歩き続けた……。
後にカイルは語った。
「魔物があんなに哀れに思えたことは無かった」と……。




