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先手を打つ


 人が何を考えているかは、目を見れば分かる。


 全ての思考を読めるという訳では無いけれど、何かを考えているのか。それとも、今という時を楽しんでいるのかという違いくらいは分かる。


 クラスメイト全員に直接チョコを手渡すという、今思い返せば「なんでそんな結論になったんだ?」という感想しか出てこない謎の行動を実行に移し、私は図らずも、クラス全員と目を合わせて話す機会を得た。


 だから気付いた。気付いてしまった。


 ……ミュラーとカレンちゃんが、私に対して後ろめたいと感じる何かを隠していることをッッ!!



 ――この世界の人は基本的に、嘘や隠し事が苦手だ。


 思えばネムちゃんが魔法少女の活動していたという時期も、学院ではやけに静かになっていたような記憶がある。気にしていれば「何かあったのかな?」と察することができる変化はあったということだ。


 ……ネムちゃんが特別わかりやすい性格というのもあるだろうけど。


 少なくともうちのクラスの中で、お母様や王妃様レベルに隠し事が上手い人はいない。

 私がその気にさえなれば、今現在悩みや隠し事を有している人を判別することくらいはできるはずだ。


 でも人って、基本的に悩むものだからね。まったく悩みが無いなんて人はあんまり……いや、この世界では割といるみたいなんだけどさ。それでもまだ、悩みを抱えてる人の方が多いわけよ。


 ミュラーとカレンちゃんも同じで、色々な悩みを抱えて()()


 ……そう、何かに悩んでいたはずなんだ。

 真剣に悩むに値する何かを抱え、それでも明るく前を向いて、力強く生きていたはずだったのに。


 例のチョコレート頒布会の時に見た二人の瞳からは、何かに思い悩んでいるような様子はすっかり見られなくなっていた。その代わりとばかりに浮かんでいたのが、私に対する明確な隠し事だ。


 自分で言うのもなんだけど、私は中々の友達想いでね? 私が幸せでいる為には私の周りも幸せであるべきだという持論があるのだよ。だから二人の悩み事にも、ある程度の当たりをつけてた。


 有名な武家という家庭環境。神殿騎士団というイレギュラー。強さへの執着。


 それらの要因がもたらすだろう未来に、二人は漠然とした不安を感じてるんじゃないのかなーってさ。


 どれもがすぐに解決する問題ではない。

 だから、これからも共に長い時間を過ごしていく中で、みんなでゆっくりと解消していく悩みだと思っていたのに……。


 気付いた時には、二人の悩みはスポーンと解消されてて?


 その空いた隙間に収まるように、私への隠し事が増えていたと。それも二人同時に、まるで示し合わせたかのように同じ反応までしてくれちゃって。


 …………私、二人が今みたいな状態になる悩みの解決方法、心当たりがあるんだよね。


 推察はできるけど、当たっていて欲しくはないと願う大切な友人の悩み解決の手段。

 それは言わば、嵐を超える為に嵐を丸ごと呑み込むかのような暴挙に近しいもので。


 ……有り体に言っちゃうとさ。そのー……。


 ……近々私は二人に呼び出されて、完膚無きまでに叩きのめされるんじゃないかと思うんだよねぇ…………。


 二人の抱える問題は、大体武力で解決出来る。

 極論ではあるけど、世界でいちばん強くなって「私こそが世界最強!」と自覚出来れば、その時点で問題の方から逃げ散らかすような解決が見られると思う。


 二人もそれは分かってるだろう。問題は「どうすれば強さを証明できるのか」ということだ。


 はい、これもう答えが出たも同然だよね。

 あの二人のことだもん、何の疑問も抱かずに「強い人全員に勝てば最強ってことでしょ?」とか言いそう。少なくともミュラーは言う。カレンちゃんも無垢な顔で「……違うの?」とか言いそう。世界を暴力で測る人達ってホント怖いよね。


 で、大変不本意なことに、そんな怖い人達に強い人認定されているのが私な訳で。


 彼女達は私に隠し事をしながら、まるで悩みの解決方法に気付いたかのような顔をしているわけで。


 ……………………私、近いうちに闇討ちとかされちゃうのかなー、なんて。あはは♪


 いや笑えない。笑えないよそれ。

 その可能性が絶対にないと言い切れないあたりがマジで笑えない。だってミュラーが、最近正攻法以外の戦法試し始めてるの知ってるもん。カレンちゃんと一緒に地面抉ったり近くの木へし折ったりしながら戦ってるの知ってるもん! 先生に怒られてるとこ見てたからね!


 全く全く、誰だよミュラーにそんな卑怯な戦い方を教えた輩は!

 卑怯な手を使って勝つのは「戦いに勝った」じゃなくて「罠に嵌めた」って言うんだよ! それはミュラーの大好きな戦いとは違うものなの! むしろ戦いを回避する為に使うものなの!


 向上心ある天才ってホントやだ。しかもあの子、手加減抜きで眼球狙ってくるような子なんだよ? 不意打ちで目なんか狙われたら、私何も出来ずにやられちゃうと思うのよ。


 やられちゃうこと自体に不満はないよ。ないけどさ。

 でも、痛いのとか怖いのは嫌だなあと感じるのは、至って普通の感情ではないでしょうか。普通の感性ではないでしょうか!!



 ――友人からの強襲に怯える日々から逃れる為に、私のとるべき方策。


 それはきっと、私よりも強い相手を用意して、そちらとの戦いに集中させることではないだろうか――。



 ……出すか。出しちゃいますか。初の実践訓練をさせてみますか。


 自動戦闘AIまで組み込んだ私の最高傑作。戦乙女ヴァルキリーたんの初陣を、用意しますか。


 逃げ回るなんて性にあわない。

 近々追い回されるのが分かっているなら、その出鼻を先んじて制そうではないか。


 ――怯えは悦びに。弱気は歓喜に。


 私の頭の中はもう、ヴァルキリーたんをどうやって勝たせるかでいっぱいだった……。


「――ソフィアの独特な戦い方って聞いて、心当たる事はある?」


カイルにそう一言聞いただけで、参考になる話がこれでもかと語られたみたいです。

実験台は伊達じゃないね。

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