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お姉様と計画を立てよう


 どこの世界でも女の子の恋バナ好きは変わらないらしい。


 禁断の恋に思い悩んでいるというミランダ様が聞いて欲しそうにこちらを見ていたのでご要望にお応えして尋ねてみると、その内容は「二人の男性を同時に愛してしまってどうしよう!」というものだった。


 第一王子と学院の王国史の教師。


 そりゃもう美形らしい。


 御二方の姿を遠目に拝見しただけでもその幸運を神に感謝せずにはいられず、お声を聞けば心は弾み足取りは軽くなり、微笑みかけられた衝撃は天を裂きドラゴンをすら呼び覚ますでしょう。とかなんとか。

 唐突なドラゴンに困惑したけど、まぁ、そのくらい凄い? ことなんだって。


 というか、お姉様の話によれば学院の女生徒は大半が同じ状況で、つまりはミランダ様の話も恋愛と言うより片思いや憧れに近いもので、恋に恋するお年頃だからということらしい。


 ミランダ様の反応を見ても恋バナというよりアイドルと追っかけみたいなものだという解釈で間違いはあるまい。


 個人的には相談事として零していた、懐いてくれていたフラウなる庭師見習いの少年が最近は素っ気なくなったという話こそ恋バナのネタとして語るべきだと思う。それ絶対好き避けでしょ。甘酸っぱいわー。


 教えてもよかったんだけど、下手につつくと私に飛び火する予感がしたから「私のことが嫌いになったの?」と素直に聞いてみてはどうかと提案するに留めておいた。


 お姉様も意味ありげな視線でこちらを見て頷いていたから、やはりそういうことなんだろう。あ、手招きしてる。なになに? よくやった、って、何を言ってるんですかお姉様? 面白くなりそうとか私、思ってませんから。え、顔に出てるって? あら嫌だ、きっと気のせいですよ、うふふ。


 怪しく笑う私達に気付かず、ミランダ様はスッキリした顔をしていた。


 相談にのったお礼に、今度来る時には手作りのクッキーをお土産に持ってきてくれるらしい。楽しみだ。





 ミランダ様とのお茶会は私が知らなかったことも多く聞けた、とても有意義な時間ではあったのだが、同時にいくつかの問題も発生させていた。


 そのうちの一つに対処するため、今日はお姉様の部屋に来ている。


「来たわねソフィア。ここへ来たということは、私たちの思いは今、ひとつになっていると思ってもいいのね?」


「もちろんです、お姉様」


 お姉様の友人、ミランダ様によって齎された情報は、私たちを固い絆で結びつけた。



 ――アップルパイが食べたい。



 表現の天才、ミランダ様が語った今巷で話題のお菓子だ。


 美味しく食べて頂くため、是非お店まで来て欲しいと料理人がこだわりを持って勧めるそのお菓子は、素材から厳選した最高級のアップルパイ。


 熱々サクサクの生地にナイフが入れられた瞬間、ぶわりと溢れるリンゴの芳醇な香りは国中のリンゴがここに詰まっていると思わせるほど濃密で、美しい蜜色の断面を見れば、それは必ずや至福を与えてくれる、さあ早く口に運びなさいと天使が甘く囁く。

 導かれるままに小分けにされた欠片を口に入れれば、あぁ! 幸せがリンゴの形を取って瀑布の如く押し寄せてくる!

 それからはもう……ただ、幸せの中にいて、気がついた時には帰りの馬車に揺られていたわ。夢のような一時だった。あれだけは絶対に食べた方がいいわ。あの味を知らないなんて生きている価値がないもの。


 ――と、それはもう熱く語ってくれちゃったものだから、私達の頭の中はもうアップルパイに占拠されていて大変なのだ。


 ミランダ様の陶然とした語り口から紡がれる魅惑のお菓子(アップルパイ)を絶賛する言葉の数々に私達の理性は容易く屈した。



 ――アップルパイが食べたい。


 全てはその目的の為に。かの理想郷へ赴く為に。

 私たちは立ち上がった。


がんばれフラウ君

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